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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
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4-1.旅立ち番長

エルフにも寿命がある設定デス。大体600歳くらい。

10歳までは人族と同じような成長で、後は年齢を重ねるほど人族と比べて成長が緩やかになっていきマス。ウラヤマ!

(人族の寿命は70歳前後)

第4話 旅立ち番長


 『勇者』とは!

 『神』から『使命』を受けた『神の戦士』である。その能力は極めて優秀! 神の祝福として『ギフト』を与えられるから、と言われている。『ギフト』とはそのものずばり『贈り物』! 強き腕力! 比類なき魔力! 全てを凌駕する速さ! よくわからん神懸った特殊能力! 種類は『使命』によってまちまちだが、個人の鍛錬では到底到達できぬ力を『神』から与えられるのだ! 歴史の節目には必ず『勇者』が現れ、その名を遺すとも。

 だが、150年前を機に、『勇者』が現れたという話は聞かなくなった。150年前。それは『伝説の勇者』である『オウマ』がグラードを恐怖に陥れていた『魔王』を倒した年でもある。『魔王』がいなくなり『勇者』は必要なくなった、と『神』が判断したのだ……と人々はまことしやかにそう噂している。


 『魔王』とは!

 グラード中を恐怖で支配しかけた恐るべき『魔族の王』である。現れたのは200年前。この200年前から魔王が討伐される150年前までを人は『暗黒時代』と呼ぶ。

 歯向かう者いれば大陸一帯焦土と化す、島ごと沈める、国ごと滅ぼす、などその行いは冷酷かつ残忍かつ徹底的であった。150年経った今でも『魔王』の残した禍々しい痕跡が各地に残っている。そのあまりにも強大な……神にさえ匹敵する力に全ての種族は恐怖し、恭順の道を選ぶしかなかった。そんな中で現れたのが『伝説の勇者』一行である。


 『オウマ』とは!

 150年ほど前に突然現れた『伝説の勇者』である。『オウマ』は人族で、不思議な男だった、と彼を知る者は語る。出生も出自も全くの謎。ある日、ある村にふらりと乞食のごとく現れた彼は、剣も魔法も扱えぬ貧相な青年だったそうだ。それが、次の日にはビッグ・ハンド(熊のような獣)を倒し、その次の日にはキマイラ(獅子と羊の頭を持つ魔獣)を倒し、あれよあれよと『英雄』『救世主』そして、『伝説の勇者』と呼ばれるほどの男へと成りあがっていった。世界各地に彼の打ち立てた伝説が残されている。

 『魔王』との決戦時、彼は様々な種族の仲間と共に『国・種族を超えた団結』を世界の王達へと説き、全世界の力を結集させ、『魔王』へと戦いを挑んだ。そして、彼等は勝った。

 その後、『オウマ』はグラードの『統一王』として君臨。30年に渡って世界を治めた。120年前、多くの家族・国民に見守られ彼は没した。彼が『統一王』へとなった日、そして彼が没した日は祭日となっている。

 今も世界に大きな争いが無いのは、彼の功績に他ならない。


 おまけ・グラードの歴

 グラードは年を数えるのに『精霊歴』というものを使っている。これはグラード創造時、初めに有ったのは『精霊』だから、と信じられているからである(この理屈では精霊歴0年には精霊しかいなかったことになるが、そこを突っ込むのは野暮である)。ちなみに『精霊歴』は人族の考えた暦であり、エルフやドワーフにはもっと歴史の深い暦があったのだが……

 現在は精霊歴424年。つまり、『魔王』が討伐されたのは精霊歴274年である。魔王討伐という偉業を達成した『統一王』を称え、暦は全種族がこの『精霊歴』を使うようになった。


 読み飛ばした方のために要約しよう!

 勇者とは! 神に選ばれたスゴイ奴! だけど150年前から現れていない!

 魔王とは! グラードを支配しかけた悪い奴! だけど150年前に倒された!

 オウマとは! 魔王を倒した伝説の勇者! 王様になったけど120年前にご逝去!

 そして、今は精霊歴424年!



 エルフの村。グローリエルの家。


「むぅぅぅ!?」


 腕を組んで唸りを上げるダイセンの頭から白い煙が吹いている! 知恵熱だ! 蒸気を目視できるほどの異常な知恵熱!

 それもそのはず。ダイセンはついさっき、自分が元いた世界から別世界『グラード』へと転移させられたことを知り、この『グラード』についてのあらましをエルフの金髪親子、グローリエル、マルディル、そしてグローリヴリンから膨大な量叩きこまれたのだ。もうダイセンの思考回路はショート寸前であった。


「ば、バンチョーさん。大丈夫?」


 若い女性のエルフ、グローリエルが心配そうにダイセンの顔を覗きこんだ。だが、目を血走らせ、何事かをつぶやく彼にはその言葉は耳に届いていない。


「いかん……ちょっくら夜風にあたってきますわ……」


 ダイセンは立ち上がると、ふらふらしながら出口へと向かう。そして、扉から出ようとして、頭を強かに打ち付けていた。


「あれが『勇者』とは」


 グローリエルの兄、マルディルが呆れたように肩をすくめる。グローリエルはマルディルを睨みつける。


「心配なので、見てきます」


 そして、席を立ち、ダイセンの後を追った。

 後に残ったのはマルディル、そしてエルフ兄妹の母親、グローリヴリンだけだ。

 マルディルは小さく息を吐き、グローリヴリンに向き直る。


「ところで母上。なぜ母上は『神人』なるもののことをご存知で……?」

「……長く生きていると、秘密の一つや二つは出来てしまうもの。特に、女性には」

「卑怯ですね。そう言われては、これ以上聞けない」

「ごめんなさい」


 そう謝るグローリヴリンの顔は笑っているような、困っているような、泣いているような。何とも憂いを帯びた複雑な表情であった。



 外に出たグローリエルが見たものは、家の外壁にもたれて座り込むダイセンであった。その視線はぼんやりと空を眺めているように見える。


「……心配ですか?」


 グローリエルが薄緑のジャージードレスの裾を直しながらダイセンの隣に座る。慌てて立ち上がろうとするダイセンに、彼女は首を振った。ダイセンは困ったように頭を掻く。二人の周りを幻想的な白光のエーテル塊が浮かぶ。聞こえてくるのはか細い虫の声と小川のせせらぎのみ。非常にロマンティックだ。


「まぁ、なるようにしかならん、と思うとります」

「そうじゃなくて」

「?」

「お仲間、助けに行く途中だったんですよね?」


 グローリエルが言いたいのは、ダイセンの転移前のことであった。彼は転移直前、敵に攫われた仲間を助けに行く途中だったと話していた。さぞ気がかりなことだろうと、彼女は考えたのだ。

 ダイセンはキョトンとした顔でグローリエルを見る。しばらくして、大きな笑い声を上げた。


「アイツ等は自分でなんとかするけぇ、心配なぞしとらん!」

「そ、そうなんですか?」

「わたしゃ、そういう捻くれた真似する輩が気に食わんかったんで根性叩きなおそうとしただけじゃ。突然消えちまって、アイツ等は心配しとると思いますが! がっはっはっ!」

「そ、そうですか」


 ダイセンはひとしきり笑うと、再び空を眺めた。

 釣られてグローリエルも空を眺める。闇夜に浮かぶ無数の光。なんだか今日の夜空は綺麗に感じた。


「……星」

「え?」

「ここにも星はあるんじゃのぉ。おっかさんのゆうた通りお月さんは無いが」

「あぁ……エレニ。そうだ、私達は星をカラド・アル・イァケス、異世界の光とも言うんですよ」

「異世界?」

「えぇ。そうです。この空の遥か彼方。『遥かなる隔たり』の向こうには異なる世界があって、その世界から発せられる光が星だと……そんな、おとぎ話。でもあながちおとぎ話でもなかったみたいです。なんたってバンチョーさんがその生き証人ですからね!」

「そうですか!」


 ダイセンは星に向かって手を伸ばす。


「あの中のどれかがわたしの世界ってことですかい。そりゃいい! 見えてりゃ届く! 絶対じゃ!」


 ダイセンは大きな握り拳をつくり、大きく頷いた。


「えぇ! 絶対帰れます!」


 グローリエルも力強く頷いた。



「お母様の言う通りなら、きっと『神の使命』を果たせば帰れます。ダイセンさんならやれますよ。なんたって『勇者』なんですから!」


 そう言うグローリエルの表情は真剣そのもの。ただ、ダイセンは『神の使命』に対して思うところが多々あり、口をへの字に曲げた。


「『しんと』……『オウマ』じゃったか。もう死んどるんじゃろう?」

「それは……何か秘密があるんですよ、きっと」

「それに話を聞くにゃ、どうにも悪い奴には思えんのです」

「え、で、でも『神』が」

「『神』のボウズ共は気に食わん。命を命と思うとらん連中じゃ。根性腐っとる。次おうたら性根叩き直さんといかんわ」


 子猫を使った卑劣な罠。自分の都合で人を殺そうとする身勝手さ。果ては『使命』とやらで人の生を縛る傲慢さ。気に食わない。そう、全て気に食わないのだ。そんな者が言ってきたことのいいなりになるつもりはダイセンには毛頭無かった。

 そう大真面目な顔で頷くダイセンに、グローリエルが小さく噴き出した。


「なぜ笑うんじゃ?」

「いえ、なんでもありません。でも、ありがとうございます」

「は、はぁ?」


 よくわからないが、お礼を言われたダイセンは困惑しながらも頭を小さく下げる。グローリエルは微笑んだ。


「それなら、バンチョーさん。これからどうするつもりですか?」

「大したことは考えとりません。とりあえず、フェン坊の件を片付ける。後は、この『ぐらあど』を見て回りながら自分のトコに帰る段取りをつける。『しんと』やらもそこで判断するつもりです」


 グローリエルは立ち上がると、衣服についた砂を払う。


「なるほど。それじゃ、戻りましょう。もっとこの世界のことを知らないと! ですよね」

「それは、そうじゃが」

「それに、バンチョーさんの世界のことももっと聞きたいですしね! ほら立って下さい!」

「むぅぅ。厳しいのぉ」


 グローリエルに背を押され、立ち上がったダイセンは、顔をしかめながらも彼女の家へと戻っていくのであった。


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