第三話 俺にも四次元ポケットを下さい
歩き始めて2時間ほど経った時、ある事が気になった。
そういやこの盗賊っ娘はどうやってリリアの場所を特定したんだ?
そんな疑問に答えるように2人が会話を始めた。
「リリア、街に着いたら占いの代金よろしくね」
「分かってるよ。あそこの占い師のテールに感謝しなきゃね」
「テールがいなきゃリリアの場所分かんないからね」
占いでリリアの場所を特定したのか?
いや、占いってそんなんだったっけ。
「お嬢さん方」
「「なに?」」
「占いってどんな事がわかんの?」
「占い師の腕にもよるけど、今向かってる街にいるテールなら、半日後のことまでなら未来を見れるし、今の事ならテールが知ってる人が何処にいるか分かるよ」
「そ。だから私が街に着いてから、夜にテールの所へ行って、リリアの場所を教えてもらったってわけ」
なるほど。
この世界の占いって凄いな。
更に盗賊っ娘
「因みに、リンケイっていう変わった国に、お金が関わること以外ならどんな事でも分かる占い師が居るって噂だよ」
「そうなの!? 会ってみたいなぁ」
「確かに気になるな。ただ、変わった国ってどういうことだ?」
「なんか赤くて扉のない門みたいなのがあったり、テラとかジンジャとかいう大事そうにしてる木造建築があったりするらしいよ」
おい。よくある和風な国か。
ありがち過ぎて全く驚かなかった。
そう考えると、赤くて扉のない門みたいなのってのは鳥居のことか。
気になるな。
「面白そうな所だね! また今度2人で行こうよ!」
「行ってみる? かなり遠いらしいからテレポート屋さんに頼まなきゃね」
「俺もついていくのダメか?」
2人が一緒に行くようだったのでダメ元で聞いてみる。
「あんたとは街に着いたらお別れでしょ」
「あ、シンフィア。言い忘れてたんだけど、経験値カード作りたいらしいからそれまでは一緒にいてるって約束しちゃったんだ」
「えぇ……」
そんな嫌そうな顔すんなよ。
そんなに俺が嫌か?
「俺の何がそんなに気にくわないんだ?」
「サラッと毒吐くところ」
「あれはお前が先に言ってきたんだろうが!」
コイツまだ俺に胸を指摘されたこと気にしてんのか。
俺だって名前バカにされて傷ついたんだぞ。
「何よ!? やる気?」
「相手が女だろうと容赦しないぞ?」
「だからこんな所で喧嘩しないでって! モンスター来ちゃうから!」
俺と盗賊っ娘の間に割って入るリリア。
今いいとこなんだ、邪魔をしないでくれ。
「絶壁、かかってこいや」
「あほ面、やってやる」
「喧嘩やめなきゃ2人とも刺すよ」
「「ごめんなさい」」
「よくできました」
リリアの目がガチだった。
リリアは天然ドジっ子とか呼ばれてるくせに、たまにえげつない発言をしやがる。
しばらくの間沈黙が続いた。
空気が重い…………
しばらく経って沈黙を破ったのは、この空気を作り出した張本人、リリアだった。
「ねぇシンフィア、あとどれ位で着きそう?」
「私が街を出て合流するまで大体1時間ちょっとかかったからね。あと1時間くらいかな」
あと1時間も歩くのか。
はっきり言ってもう疲れた。
「休憩しようぜ」
「早」
「もう疲れたの?」
「うん」
小中高と帰宅部の俺を舐めるな。
運動神経は良いらしいが、体力がないことには自信がある。
「休憩しないならせめて水をくれ」
「あ、いいよ。はい」
「あっちょっちょっと!」
盗賊っ娘が何か言いたそうにしていたが気にせず飲む。
はぁ……生き返る。
「間接キスした」
「「あ」」
昨日の時点で間接キスしてしまっていたのだから今がどうとかの話ではない。
そんな事を一切考えていなかった俺は急に恥ずかしくなってきた。
リリアも恐らく同じ気持ちなのだろう。
顔を真っ赤にしている。
「急に黙り込んで、もしかして2人とも気づいてなかったの?」
「「うん」」
「はぁ…………」
何だかリリアに対して急に罪悪感が湧いてきた。
「リリアすまん」
「遼斗が謝ることじゃないよ。なんか私もごめんね」
「このことは忘れようぜ」
「うん……」
「見てるこっちが変な気分になるから、その初々しいカップルの会話みたいなのやめてくんない?」
そうは言われても、変に意識してしまう。
リリアははっきり言って美少女だ。
だからこそ、こうなんだか心がモヤモヤする。
「2人して黙りこまないでよ」
「いや、だって、ねぇ」
「ね。気づいてなかったからこその恥ずかしさってあるじゃん?」
「そ、そうなんだね」
俺もリリアと同じ意見だ。
気づいてなかったからこそ、気づいた時に余計に早くなる。
人間そういうもんだと思う。
「とりあえず、無かったってことで!」
「うん、私も賛成」
「2人がそれでいいならいいんじゃない?」
なんか変な締め方だが、まぁいいとしよう。
気にしないよう忘れなきゃな。
当分忘れられないだろうけど。
「結局休憩しなくていいんだよね?」
「あぁ。まぁあとすこしは行ける」
「私も前まで休憩ばっかしてたけどねー」
「そうなのか?」
冒険者とかしてると体力もつきそうだが。
「ほんとよ。馬鹿みたいに遠い所にいることが多かったからね。迎えに行く私の身にもなってほしいわ」
「ごめんごめん。街に着いてからいつもリンゴゼリー買ってるじゃん」
「リンゴゼリーあんの!?」
「急にどうしたの? あるでしょ、普通に」
リンゴゼリーというか、ゼリーみたいなものは、異世界には無いイメージが強かったんだが。
てか、リンゴあるんだ。
いや、マグロみたいに変な事になってるんだろうな。
「リンゴって木に実る赤色の甘いシャキシャキするやつ?」
「そうだけど? それ以外にリンゴってあるの?」
「動いたりしない?」
「するわけないじゃん」
ホントにリンゴがあるんだ。
なら、みかんとかブドウとかもあるのかな。
「変なこと聞いてすまんかった。こっち来てから、俺の常識が通じなくてな」
「ふーん。そうなんだ」
「あのリンゴゼリーの冷たさと舌の上で溶ける感覚、たまんないよね」
「そうそう。それが好きでたまんないの。今回もよろしくね」
「はーい」
ゼリーのあの感覚は舌の上で溶ける感覚って言えるんだろうか?
いや、確かにそんな感じもするけど。
俺も金稼いでから食べてみよ。
それよりやっぱ疲れてきた。
ダルい。
「ねぇ、街まだ?」
「さっきあと1時間って言ったじゃん」
「分かってるけどさぁ」
「あと少しいけるんじゃなかったの?」
「いや、やっぱり疲れてきたなぁって」
「男ならもっとしっかりしなよ」
俺は体育の授業以外、運動しない人間なんだよ。
そんな奴に男だなんだ言わないでくれ。
「仕方ないなぁ。リリア、筋力強化のスクロールある?」
「あるけどどうするの?」
「走る」
こいつ何言ってんだ。
俺疲れたって言ったじゃん。
そう思っていると、盗賊っ娘は経験値カードを取り出し、いじり出した。
「何してんだ? 俺疲れたから走りたくないんだけど」
「だからそのための準備してるんじゃん」
そう言って盗賊っ娘は経験値カードからソリのようなものと紐を出してきた。
これでどうすんだ?
てか何でこんなもん持ってんだ?
「盗賊だから宝探知スキルで沢山お宝見つけることが多いんでね。経験値カードに入るアイテム数結構少ないし、持ち運んでると腕が疲れるから、引っ張るために持ち運んでるの」
表情に出ていたのだろう。
丁寧に疑問に答えてくれた。
というか、この話の流れからして……
「今日は特別にあんたを引っ張ってあげる。勿論お金取るけどね」
「ちょっ、俺今金一切持ってないんだけど」
「借りだよ借り。借り作っといた方が色々上手くいくし」
この盗賊っ娘、見た目幼いくせに考えることゲスいな。
でも結構ありがたいかもしれない。
俺より20センチほど背の低い女の子に引っ張ってもらうのは気が引けるけど、筋力強化のスクロール使うみたいだし、ま、まぁいいよね。
「分かった。後々返すよ。ってことで頼んだ」
「らしいからリリア筋力強化のスクロール貸して。その代金もコイツに払わせるからさ」
「う、うん。分かった」
俺がソリの上に座ると、リリアが経験値カードからスクロールを出した。
それを盗賊っ娘に渡す。
盗賊っ娘はスクロールに手を添え。
「我に筋力強化の力を与え給え」
盗賊っ娘の言葉に呼応するようにスクロールは消え、代わりに盗賊っ娘が仄かな光に包まれた。
「よしっ! 後は『バインド』!」
自分に筋力強化の効果が付いた事を確認すると、流れるように俺に向かって紐を投げてきた。
盗賊っ娘の『バインド』という言葉に答えるように紐が俺とソリを結びつける。
ちょっと痛いんだけど。
「これ、もうちょい緩めれない?」
「無理だねぇ。危ないし、我慢してて」
「シンフィアだけで大丈夫?」
「平気平気。もっと重いもの運んだことあるし。それじゃ走るよ?」
「「うん」」
俺とリリアの返事を合図に、盗賊っ娘、シンフィアは駆け出した。
ってヤバい。何がって速さが凄い。
何より驚きなのが、重たそうな鎧をつけて、動きにくそうな格好をしたリリアがこの速さについてきている事だ。
「俺のこと引っ張ってこれとか速っ、凄っ」
「このまま飛ばすよー! このスピードだとあと45分くらいかな」
俺を引っ張っているにしても速いスピードは、筋力強化のスクロールと盗賊にありがちな速さ特化のステータスのおかげなのだろう。
にしてもどうやってリリアは追いついてるんだ?
「筋力強化スキルのレベル上げててよかったぁ。上げてなかったら追いつけてないよ」
「前に上げたって言ってたもんね。だからこのスピードにしたんだ。リリア、もともと速かったからこの位がいいかと思ってね」
会話の内容的に、ルーンナイトには自身に筋力強化のバフをかけるスキルでもあるのだろう。
それよりリリアは元から足が速かったのか。
なんだか意外だ。
「にしてもシンフィアも凄いなぁ。ステータスの配分どうしてるの? その感じだとスピードにばっか振ってるわけじゃないよね?」
「スピード重視で筋力ちょくちょく上げてたからね。おかげさまでこの通り」
リリアがこの間ステータスポイントを使うとか言ってたが、それでステータスを上げれるのだろう。
この世界便利だなぁ。
「私、もうちょっと速くてもいけるよ?」
「そう? ならもうちょっと速くするよ?」
「これより速くとか出来んのかよ」
俺のツッコミを無視した2人はさらに速度をあげ、自転車と同じくらいのスピードで走り出した。
もはや人間離れしているというのに、2人とも息を乱していない。
「このスピードで行くと後30分くらいだと思う」
「りょーかい」
今気づいたが、この2人はあと30分間、このスピードで走り続けるのか?
凄いって気持ちより、罪悪感をもの凄く感じるんだが…………
「なんか……悪いな。俺だけこんな感じで……」
「大丈夫。ちゃんと100デーラ払ってもらうから」
「ひゃっ、100!?」
「おい何だよリリア。100デーラってそんなに高いのか?」
リリアの反応的に、なんだかぼったくりな値段な気がしたんだが。
後ろを向きたくても身体が紐で固定されていて後ろを見れない。
「う、ううん。そ、そんな事ないよ」
「お前嘘つくの下手だな」
「仕方ない。1デーラでいいよ」
「絶対ぼったくる気でいただろお前!」
「常識知らずが悪い」
こいつ…………なんてタチの悪い女なんだ。
「デーラかぁ……」
リリアはなんで口許をニマニマさせているのだろう。
気にしてもしょうがないと思った俺は風を浴びながら後の30分間寝ることにした。
寝たら罪悪感もないしな。
そうしよう。
少しガタガタ揺れつつ、紐に縛られ痛い体を無視するように目を瞑る。
風が気持ちいい。
つい1時間ちょっと前まで寝ていたにも関わらず、疲れたせいか、意識が薄れていく。
「あれ、もう文句言わないんだね」
「なんか寝始めたみたいだよ」
薄れていく意識の中、最後に聞いた2人の会話が、脳に記憶されることは無かった。
「……きろ! 起きろ!」
「んぁ?」
「いいご身分ねぇ。私たちが疲れながらも走ってたっていうのに」
目を覚ますと、俺は草原の上で横になっていた。
街の目の前まで来たからソリから下ろしたのだろう。
上体を起こし周りを見るがソリはなく、リリアとシンフィアが俺の近くでたっているだけだった。
「す、すまん」
「今から経験値カード作りに行くんでしょ? 外部からの人だと怪しまれたり、迷ったり、詐欺にあうかもしれないからついて行くよ」
「そもそもその約束だし、詐欺って……」
リリアが何か言いたそうにしているが、最後のあたりが聞き取れなかったし、話が進まなくなりそうだからまぁいいや。
「ありがとよ。それじゃ、今から冒険者ギルドに向かうんだな?」
「そうだね」
俺たちが門へと向うと、門番のような人達がいた。
「シンフィアさん、リリアさんおかえりなさい。そちらの方は?」
「ただいま。この人は弘城 遼斗って名前で、私が迷子になってる時に草原で倒れてた人」
「前にもいた日本ってとこから来た人らしいの。常識知らずだし、変な名前だし、多分嘘はついてないと思うよ?」
「どうもっす」
俺が簡単に会釈すると、門番も挨拶してきた。
「ようこそ、フェールへ。持ち物検査をさせていただきますね」
「あ、はい」
「遼斗は経験値カード持ってないからインベントリは調べる必要ないよ」
「了解です」
俺が持ち物検査をしている間、リリア達も持ち物検査をしているようだ。
持ち物検査といっても、何も持っていない俺はすぐに終わった。
というか、リリア達だいぶ信用されているんだな。
リリアの発言のためか、経験値カードについて言及されなかった。
リリア達も持ち物検査を終えたようでこちらへ向かってきた。
「どうぞ。お通り下さい」
門番に門を通してもらいフェールの街に入ると、そこは中世の街並みだった。
門の時点でそうだろうと思ってたけど、やっぱりこういう街並みなんだなぁ、異世界って。
「ささ、早く冒険者ギルドに行こ」
「案内よろしく」
「うん!」
リリアを先頭にして、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
ギルドまでの道中、沢山の店があった。
この街は色々な見た目の人が沢山いるようで、俺の事を特に変な目で見る人はいなかった。
ギルドに着き扉を開けるとガヤガヤとした音が聞こえてきた。
「お? リリアちゃん、シンフィアちゃん、誰だいその男は」
「日本ってとこから来た人らしいんだけど、経験値カード持ってないから作りに行きたいって言うから連れてきてあげたの」
「リリアちゃん達は優しいねぇ!」
「えへへ」
リリアもシンフィアもこのギルド内では人気なのか、沢山の人から声をかけられている。
リリア達とともにギルドの受付のようなところに行くと、受付嬢の様な人が笑顔で要件を聞いてきた。
「リリアさんおかえりなさい。今日はどのようなご要件で?」
「えっとね! この弘城 遼斗くんに経験値カードを作ってあげてほしいの。あと、今回の冒険でとってきたローウルフの牙2本を売りたいの」
「了解です。では、遼斗さんはこちらへどうぞ。ニールさん、リリアさんの持ってきた牙を換金して!」
「はいよ」
俺は受付嬢に案内された通り、隣の部屋へと入る。
ここはなんの部屋だ?
人1人しか入れなさそうだけど……
そう思っていると、1箇所窓口のように開いていた壁穴を挟んで反対側に受付嬢が現れた。
「では、今からステータス、オススメジョブ、スリーサイズ、身長、体重、血液型、視力、聴力を測りますね」
「え、あ、はい」
こんな小さな部屋でするのか?
どうやるのだろうか。
受付嬢の様子を見ていると、何かのレバーを下ろしただけだった。
「あれれ? 故障したのかなぁ」
「え、どうかしたんですか?」
「いやぁ、普通ならここから経験値カードが発行されるはずなんですけど、エラーって紙が出てきて…………ステータスとオススメジョブだけ測れなかったみたいです」
え? 今の一瞬でそれ以外は測れたってことか?
魔法かなんか使ってるなら、それはそれでもっと演出くれよ。
てか、なんでエラーが起こるんだよ。
俺が異世界人だからか?
「後日来ていただいてもいいですか?」
「ちょっ、ちょっと質問いいですか?」
「何でしょうか」
「これってどうやってステータスとか測ってるんですか?」
もしかしたらこの世界の人と俺だと何か違いがあるのかもしれない。
その違いをもとにして発行してるなら、そもそもの前提の時点で発行出来ないことになる。
「えぇと、体内に存在する無属性精霊から測定されるんですが……」
あ、こりゃダメなやつだ。
だからか。同じ日本人であろうやつが商業国で商人してるのは。
「後日というか、今後来ないかも知れません。多分俺、経験値カード発行出来ないんで」
「え? それってどういう……」
何か聞きたげな受付嬢を置いて、俺は部屋を出た。
部屋の前ではリリアとシンフィアが待ってくれていた。
「どう? 経験値カード発行できた?」
「いや。俺だと発行できねぇ」
「どういうこと?」
「日本人には体内精霊がいないんだよ」
「え? この世界に生まれた生命体の体内には、無属性精霊が存在するって聞いたんだけど」
そういうことになってんのか。
どうしたものか。
「何故かは知らんが、もしかしたら結構離れた島国だからかも知れないな」
「なるほど。前にもここに来た南里 尚弥さんもエラーが発生したんですが、彼も日本云々言ってましたし、日本人という方々は体内に精霊が存在しないのかも知れませんね」
いつの間にか受付に戻って来た受付嬢がそんなことを言った。
「その南里 尚弥って奴、商業国で成功してるやつか?」
「あ、はい。他にも何人か日本云々言ってる方いましたよ?」
他の奴らはどうしたのだろう。
とりあえず、俺には経験値カードが発行されないと分かった。
これからどうしたものか。
かなりショックなんだが…………
「経験値カード発行できないとか大変だねぇ。でも1デーラよろしくね」
「あぁ、分かってるよ」
後ろで受付嬢とリリアが何かやり取りしてるが気にしないでおこう。
「因みに、1デーラとか冒険者が大物賞金首を3体ほど倒さないと払えないよ? 冒険者にならないなら商人か農民だろうけど、よっぽど成功させなきゃ無理だろうね」
どうやら俺はシンフィアに詐欺られたようだ。




