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第二話 剣の正しい使い方?

「起きろー!」


 誰だよまだ暗いうちから起こすやつは。

 聞きなれない声だな。

 ん? なんだかベッドがとても硬い。


「ほら! さっさと起きなきゃローウルフにパクッといかれるよ!」


 ローウルフ?

 あと、この声どっかで聞いた気が……

 重たい瞼を開けると、目の前には鎧を着ようとしている女がいた。

 というかリリアがいた。


「あー俺死んだんだった」

「何寝ぼけてるの?」


 別に寝ぼけてはいないと反論したかったが、どうせ信じてもらえないだろうから黙っておく。


「ちょっと待っててね。昨日狩ったゴブリンの肉で朝ごはん作るから」


 ゴブリンって食えるの!?

 まだリアルで見たことがないから抵抗があるんだが。

 リアルで見たら余計食べたくなくなる気もするが……


「朝からコテコテなのは嫌だ」


 それとなくゴブリンの肉を食べたくないと伝えるが。


「文句言わないの。経験値カードのインベントリにある食べ物はゴブリンの肉しかないんだから」


 あっさりと却下された。

 倒れたままだった身を起こすと、リリアが経験値カードをいじっていた。

 様子を見ていると、テントの時と同様に、何かがホログラムのように映し出された。


「何そのグロテスクなやつ」

「ゴブリンの肉。知らないの?」


 リリア曰くゴブリンの肉らしいが。


「知らねーよ。てか、なんでそんなにグチャグチャになってんの」


 ゴブリンを見たことのない俺でもわかる。

 原型をとどめていないどころの騒ぎじゃない程肉塊と化している。


「それなら、私がゴブリンの群れに囲まれた時に、雷撃(ライトニング)(ソード)を放ったら爆散しちゃってね」


 何この子怖い。

 笑顔で爆散したとか言ってるし。

 この世界だとそういうのが普通なの?

 慣れたくないんだけど。

 というか爆散したくせにまとまってるし、血がついてないのはリリアが魔法かなんかで何とかしたのだろうか。


「爆散した割にはまとまってて、血がついてないんだな」

「あぁ、それは散らばった肉の中からある程度大きめのものを集めてから、私の水精(アクア)(ソード)で血を洗い流したからね」

「そ、そうか」

「なんで引き気味なの!? せっかく答えてあげたのに」


 ショックを受けたような顔をするな。

 その顔したいのは俺だ。

 と思っていると、リリアは肉以外にも巻物のようなものも経験値カードから出した。


「その巻物は何なんだ?」

「これも知らないの? これは料理スキルが一時的に使えるようになるスクロールよ」


 俗に言う魔道具みたいなものか。

 なるほど。便利だな。

 リリアがスクロールに手を添え、なにか呟くと同時、スクロールは消えた。

 リリアがほんの少しだけ光に包まれたのを見たところ、スクロールのおかげで一時的に料理スキルが使えるようになったのだろう。


「焼く為の炎は灼熱(フレイム)(ソード)で代用できるから、後は程よく焼きたいんだけど、そういう時に料理スキルが使えると便利なの」


 剣で肉を焼くってどうなんだ?

 それより雷撃剣で爆散した割に生肉のような状態なのはなんでだ?

 その時、聞こうと思った俺を黙らせるかのように熱風が襲ってきた。


「ちょっと離れてて。炎を纏ったままだと草原が焼け野原になっちゃうから、熱を帯びた状態にしたいから少し剣を素振りさせてね」


 リリアが持つ剣が炎に包まれている。

 素振りで灼熱剣の炎を消せるのか。

 そもそも自分で発生させてる魔法的なものなのだろうから、初めから熱を帯びた状態に出来ないのだろうか。

 この世界は謎がいっぱいだ。

 そんな俺の疑問を知ってか知らでかリリアが呟いた。


「灼熱剣のスキルレベルをあげたらこんなことしなくても良くなるんだけどなぁ」


 なるほど。

 昨日の話と今の話からして、経験値カードには魔法取得みたいな所はなかったし、魔法はスキルとして取得出来るのか。

 そしてスキルにはレベルがあると。

 でも素振りで炎が消えるなら戦いにくくないか?

 ふと気になり聞いてみる。


「戦う時も炎消えてしまうのか?」

「灼熱剣はレベル1だと、ある程度の炎を出すか、元の剣に戻すことならいつでも出来るから、炎を出し続ける形で戦えば消えないよ。レベルが上がれば炎の威力も調整できるようになるんだけど」


 なるほど。それなら納得だ。


「そういや味付けはどうするんだ?」

「ゴブリンを肉って、脂が少なくて、臭みがあるけど、元から美味しいんだよ?」

「臭み、あるの?」


 俺は鼻が敏感だから臭いと食べたくないんだが。


「大丈夫。その為の料理スキルでもあるんだし」


 ホント便利だな。スキルって。

 街に行ったら経験値カード発行してもらおう。

 いや、街で作れるのか?


「そういや、経験値カードってどこで作れるんだ?」

「街の冒険者ギルドで作れるよ」


 冒険者以外も持つカードなのに冒険者ギルドで作るのか。

 いや、確かに依頼をしに来るのは冒険者以外が普通だろうからおかしなことは無いのか。


「経験値カードが作りたいなら私がついて行ってあげる」

「ありがたくついてきてもらおう」


 そんな話をしているうちに、リリアが持つ剣は炎が消え、赤く熱を帯びた状態になっていた。

 リリアが剣を地に起き、剣の上にゴブリンの肉を置くと、ジューっと肉の焼ける音がした。

 その音に続き、臭いがが漂ってくる。

 その臭さに、反射的に鼻を押さえた。


「ちょっとの間我慢してね。すぐ臭みを消すから」


 何も無いのにどうやって臭みを消すのだろうか。

 そんな俺の疑問に答えるかのように、リリアは焼かれている肉の上で手を動かしていた。

 何をしているのか気になり、様子を見ていると、肉の周りにあった煙がリリアの手に集まっていく。


「何してるか気になるの?」


 俺が注視しているのを見てリリアが聞いてきた。


「あぁ。煙なんか集めてどうにかなるのか?」

「煙と一緒に臭みを手のひらに集めてるの。臭みを集めきったら、こうやって手を握れば」


 そう言ってリリアは煙を集めた右手を握りしめ、再度開くと、右手にあった煙の塊は消え去っていた。

 どうなってんだ。


「すごいでしょ。料理スキル。これで臭みが消えたよ」


 鼻を押さえていた手を離すと、先程までの臭さは全くなく、代わりに香ばしい匂いが漂っていた。

 匂いにつられて腹の虫が鳴った。

 そういえば昨日から何も食ってなかったなぁ。


「さっきはあんなに嫌そうな顔してたくせに今は凄く食べたそうにしてるね」

「臭いが消えたのは謎だが、そんなことより凄くいい香りだし、焼くとほかの肉と見た目は大して変わらないんだなって思って」

「もう少しで焼き終わるからね」


 少し躊躇いが残ってはいるが、それ以上に味が気になる。

 リリアの言う通り少しの間待っていると。


「完成! 料理スキル流石だわぁ」

「おぉー! 美味そうだな!」

「剣は後で洗うから、気にせず手で掴んで食べてね」

「火傷する気しかしないんだけど」

「ちょっと待ってね」


 リリアはそう言うと、剣の柄を掴んだ。

 すると、剣が帯びていた熱は収まった。

 肉が焼ける音が徐々に小さくなっていく。


「これで少し経ったら遼斗でも触れるようになるよ」

「さんきゅ」


 俺が少し待とうと肉を見つめていると、リリアはまだ熱々であろう肉をなんの躊躇いもなく掴んだ。


「いっただっきまーす」

「熱くないのか?」

「ぜーんぜん。あ、遼斗はやめといた方がいいよ」

「なんでだよ」


 意地になり肉に触れる。

 …………めっちゃ熱かった。

 これ絶対火傷した。


「ほらぁ」

「なんでお前は平気なんだよ」

「火炎耐性のスキル解放してるからね。まだレベル1だけどこの位なら全然大丈夫」


 なんて便利なんだ、スキルとやらは。

 目の前でそんなに美味しそうに食べないでほしい。

 我慢してる俺の身にもなってくれ。


「そんな怖い顔で見なくても大丈夫。遼斗の分は置いておくから」


 そうじゃない。そうじゃないんだよ。


「何? 何か言いたいことがあるなら言いなよ」

「目の前で美味そうに食われると腹立つ」

「私もお腹すいてるの。あと、この肉は私が狩ったんだし、料理したのも私だし、文句言わないでよね」


 言いたいことがあるなら言えと言ったのはお前だろ。とは言わないでおく。

 機嫌を悪くするのは悪手だとちゃんと理解してるからな。

 もうしばらく時間が経ち、肉を触ってみると程よい熱さになっていた。


「いただきまーす」


 何これやばい。めっちゃ美味しい。

 焼き加減も素晴らしいのだが、肉本来の味がすごい。

 元から塩胡椒を振ったような味わいで、口の中で香ばしい匂いが広がる。

 味は牛が1番近いだろう。

 噛みごたえもあり、噛むたびに味が深くなる。


「幸せそうだね」

「こんなに美味いもん初めて食った」

「ゴブリンよりも美味しいモンスターは結構いるって聞いたけど、今まで何を食べてきたの? 好きな食べ物は?」

「俺の好物はマグロだ」

「マグロ!? あの空をすごい速さで飛ぶ!?」


 え、何それ。この世界のマグロどうなってんの?

 でも面倒な事になりかねないよな。

 話を合わせよう。


「そう。あれめっちゃ美味いぞ?」

「ゴブリン何かよりもレアだし、マグロの方が美味しいと思うんだけどなぁ。食べてみたいなぁ」


 俺もこの世界のマグロ、食ってみたいよ。

 そうこうしている内に、肉を食べきっていた。

 そろそろ日が完全に昇りそうだ。


「ご馳走様でした」

「ご馳走様でした」

「ありがとな。作ってくれて」

「いいよいいよ。今から剣、洗うね。濡れたくなかったら離れてて」


 リリアの忠告に従い、少し離れたところから様子を見る。

 リリアは剣を持つとなにか呟いた。

 と同時、剣の周りに水が出てきた。

 水は剣の周りをクルクルと回り始めた。

 日に照らされた水はキラキラと輝き、とても綺麗に見えた。

 しばらく経つと、剣の周りを回っていた水は消え、リリアが駆け寄ってきた。


「終わったよー」

「凄いな。色々と」

「そう?」

「うん」


 水により輝く剣を持つリリアは、とても綺麗で、少し見とれてしまったのがちょっとばかし恥ずかしく、簡単な返事をしてしまう。


「そろそろテント片付けよっか」

「そうだな」


 リリアの提案に従い、さっさとテントを片付ける。

 リリアはペタンコになったテントの前に立つと、経験値カードをいじった。

 今度は出てきた時とは逆に、テントが光に照らされたと思うと、いつの間にかホログラムへと姿を変え、そのまま経験値カードの中へと消えていった。

 俺もあの機能ほしい。

 そう思ったすぐ後、リリアの位置よりさらに奥の方で人影が見えた。


「リリア、あそこに誰かいねぇ?」

「シンフィアが迎えに来てくれた!」

「昨日言ってた子か」


 にしても凄いスピードでこっちに向かってきている。

 普通に走っているように見えるが、自転車より速いんじゃないかと思えるほど、近づいてくるスピードが速い。

 近づいてきたから分かったがあの子、凄い薄着だ。


「なんであの子薄着なんだ?」

「あれ? 行ってなかった? シンフィアは盗賊だよ」


 なるほど。だから薄着で素早いのか。

 盗賊のイメージ通りだ。

 遠目からでもわかる胸の寂しさも、盗賊としてふさわしいだろう。


「リーリアー!」

「はーいー!」


 俺の隣で盗賊っ娘の呼び声に大声で返事をするリリア。

 大声出すとモンスターが近寄ってきたりしないのか?

 俺があたりを気にしていると、盗賊っ娘が俺たちの元へと到着した。


「朝早くからごめんね!」

「大丈夫大丈夫。もう慣れたし、今回は結構街から近かったから」

「いつもありがとうね」


 2人が仲良く話している。

 盗賊っ娘はいつも迎えに来ているのか。

 ご苦労なこった。


「気にしないで! ところでこの人は誰?」

「こちら、弘城 遼斗君。そしてこちらは私の友達のシンフィア」


 リリアはそう言って俺と盗賊っ娘の紹介をした。


「どうも」

「どうも。ねぇリリア。この人変な名前だね」

「だよね」

「初対面の人にそれはどうなんだ? 胸の寂しい盗賊っ娘よぉ」

「なんだとぉ!? やんのかオラ」

「ちょっと止めてよ2人とも!」


 初対面のくせに俺の名前を侮辱しやがって。

 女なんならもっと言葉遣い何とかならんのか。

 俺に胸の指摘をされたから恥ずかしいのか、盗賊っ娘は自分で自分を抱きしめるようにしている。


「この人嫌い」

「あぁ俺も同感だ」

「いきなりなんで喧嘩してるの!?」


 何でもクソもあるか。


「リリア、この人となんで一緒にいるの?」

「遼斗がここで倒れてて死にかけだったから助けたんだよ。遼斗の目が覚めてからは色々お話してね。一緒に寝たんだ。あれ、そういえば遼斗はどこから来たの?」


 そういやリリアは俺を助けた後、特に怪しむことなく俺を街に連れていこうと考えてくれていたな。

 天然ドジっ子だからこそなのだろう。

 盗賊っ娘のせいで俺が白だと2人に説明しなきゃいけなくなっちまった。

 めんどくさい。

 ここの文明がどれ程か分からない以上、正直に答えるか?


「笑わずに聞けよ?」

「「うん」」


 いや待て。盗賊っ娘が走ってここまで来たところを見ると遠くへ行く手段があまり無いってことじゃないのか?

 一か八かで異世界転生モノによくある回答をしてみよう。これなら嘘もついていないし。


「極東の島国、日本から来た」

「嘘つき」

「やっぱ怪しいよこいつ」


 くっそ。俺が文字読めなかったり、経験値カード知らない事、リリアは知ってるだろ。

 そこから少しは信じてくれてもいいじゃんか。


「ほらリリア、俺文字も読めないし経験値カードも知らなかったろ?」

「うん」

「ゴブリンの肉についても知らなかった」

「そうだね」

「つまり?」

「遼斗は、田舎から来たことを恥ずかしがって異世界人を名乗る頭のおかしな人」

「お前喧嘩売ってるだろ」


 なんでリリアに頭のおかしな人呼ばわりされなきゃいかんのだ。

 今の俺とリリアの会話を聞いて、盗賊っ娘が首を傾げている。


「何、あんた文字読めないし経験値カード知らなかったの?」

「そうだけど何か文句あんのか?」

「いや、前にもあんたみたいな間抜け面した旅人が街に来て、その日本とかいう国から来たって言ってたこと思い出して」


 間抜け面ってなんだ、間抜け面って。

 そんなことよりやはり先駆者がいたか。


「そいつも文字が読めず、経験値カードも知らなかったと」

「うん」

「今そいつはどこにいんの?」

「商業国ドルトーンで商人として働いてるみたい」


 異世界まで来て商人か……

 いや、俺も今は無一文だし、まずはどっかでバイトしなきゃいけないのか。

 商人の下でバイトしたいな。

 肉体労働は嫌だ。

 いや、今はそうじゃなくて。


「まぁそいつと多分同じ感じだ」

「ほんと?」

「あぁ」

「リリア、昨晩何もされてない?」

「されてないよ」


 あんな熟睡してたくせによく言い切れるな。

 事実だけど。


「仕方ない。ここで見捨てるわけにも行かないしあんたも付いてきなよ」

「ありがたく付いていくぜ」

「やっと街に帰れる」

「じゃあ行くよ」


 何とか白だと少しは認めてくれたようだ。

 先駆者よ、ありがとう。

 こうして俺たちは、盗賊っ娘を先頭に街に向かって歩き出した。

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