奴隷ちゃんと言えど壁ドンしたくなる時はある。
私は奴隷ちゃんと呼ばれています。
誰に? 女神様にです。
ご主人様に加護を与えた女神様がお屋敷に遊び来られる時、いつも私をそう呼びます。
昔は絶望の象徴だった『奴隷』と言う言葉も、今は私だけが持つご主人様との関係で、実は嬉しかったりします。
我儘を言って首輪こそつけさせて頂いているものの、ご主人様は家族の1人、妹の様に接して下さいますしね!
さて、そんな幸せな生活を送る私ですが、ここ半年程、夜に眠れない病に苛まれています。
理由は明白です。
隣……ご主人様の部屋から聞こえるご主人様と女性のくぐもった声とエッチな臭いです。
そう、エッチなアレやソレが漏れてくるのです。
始めに気付いた時には分からなかったのですが、遊びに来る(そしてエッチをして帰って行く)女騎士様曰く『爛れた屋敷』な我が家ではそう言った知識が手に入る機会も多く、貧層な体型故にご主人様には気付かれていませんが、私も一人前(?)の女性になっていたのです。
女性としてはつじょーきに入ったのが半年前、毎晩聞こえて来る声に獣人としての本能と、ご主人様から頂いたお部屋を汚してはいけないと思う理性がせめぎ合った結果、私は限界を迎えました。
何処にも居ない人に自分の現状を説明してしまうくらい限界です。
……だから、この思いをぶつけても良いですよね?
そう思いながら、私は獣人の全力で壁を殴りました。
凄い、音がしました。
「リリィ、大丈夫か!?」
「ここまで侵入されるとは不覚なのじゃ!」
隣の部屋に居たご主人様とそのお相手のエルフの長老さんが私の部屋に入ってきます。
慌てて着たのでしょう、少し服が乱れています。
後、臭いが全然隠せてません。
「ごめんなさい、ちょっと躓いてしまって……私は大丈夫ですよ!」
ご主人様を心配させない様に笑顔で答えると……
「あの、リリィ……さん?」
何故か『さん』を付けられました。
そして、その時私の頭の中に稲妻が走ります。
「はい。リリィ『さん』です……座って下さい」
そう、今の私はリリィサンです。
「……正座です」
だから、普段の私が言わない様な事を言っても仕方が無いのです。
「「あ、はい……」」
お二人とも国を支える偉大な方なのに、正座している姿は何故か小さく見えます。
「単刀直入に言います。ご主人様が絶倫なせいで眠れません!」
「な、リリィお前いつの間にそんな言葉を……」
「知りたいですか!? 4ヶ月と11日前にサキュバスさんとエッチな事をされた時です!」
「おぅふ……」
ご主人様は天を仰ぎました。
「節操無しにヤルからそうなるのじゃ……」
「……仕方ないですよ。『○×△□(とてもエッチな言葉です)』と喘ぐ小さなエルフが居たら、男の人は我満出来ないそうですから!」
「おっほ……」
私よりも小柄なエルフの長老様は豚の様な声を揚げて倒れました。
その姿を見て私の胸に小さな怒りがこみ上げました。
「大体、私より小さな長老様とはエッチして、私にはエッチな事から遠ざけようとするのは何故ですか! のじゃですか!? のじゃって言ったら私ともエッチしてくれるんですか!?」
「落ち着けリリィ。俺にとってお前は妹みたいな存在なんだ。妹とエロい事をするのはおかしいだろ?」
「獣人なら妹関係無くエッチな事をします!」
幼い頃から奴隷となった私は獣人の風習とかよく知りませんが、きっと間違いありません。
「犬耳属はしないのじゃ……」
「知った事じゃないです。今大事なのはご主人様が太くて固くて大きくて溢れるくらい出すせいで私が眠れない事です!」
「この部屋、情操教育に悪すぎるのじゃ……」
頭を抱えるご主人様達に向けて最後の一撃を口にします。
「いいですか、明日までに私の部屋を地下に作って頂くか、私とも溢れてくるのじゃってして下さい! そうじゃないと私は、私は……」
この夜について、覚えているのはここまででした。
そして、あの日から、私はぐっすりと眠れる様になりました。