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湯けむり猫のお宿はいつも雨降り  作者: 蒼山 螢
1章 きょうは雨降り
7/38

7

 買い物をして戻ると、美智も戻ってきていた。わたしを見つけると心配そうな顔をし、駆け寄ってきて両手に持った食べ物を半分持ってくれた。「ちょっと待っててくれれば、一緒にいったのに」と言ってくれた。

 ペンギンが見えるベンチに4人で座り、アメリカンドックとポテトを食べた。


「猛獣館と爬虫類館は行かないとだべ」


 孔輝が口にケチャップを付けながら言うと、サブちゃんが反応する。


「爬虫類って蛇いるよな絶対いるよないないわけないよな」

「……いるね。サブちゃん、蛇が苦手なの?」

「あーだめ。足が無いとか多いとかだめ」


 あまりに情けない声を出すので、みんなで笑ってしまった。


「孔輝くん、ついてるよ。子供みたい」


 美智が口を指さすと、孔輝はぺろりと舐めとって、子供みたいに笑っていた。わたしはその場面から目を逸らす。どこへやったらいいのか分からない正体不明のこの気持ちを宙ぶらりんにさせたまま、わちゃわちゃするペンギンたちを見ていた。


 園内をぐるりとまわり、お土産を買うために売店へ行った。このあとの予定があるのだから、あまり大きなものは買えない。キーホルダーやマグネットなど、高校生のお小遣いでも購入できる小さなものを選んだ。

 そして、猛獣館と爬虫類館を見て盛り上がったあと、八木山動物公園をあとにした。

 仙台城跡がある青葉山へ向かうことにする。八木山動物公園駅に入り、再び電車に乗り込む。次に向かうは青葉山駅。


 青葉山公園は青葉城跡(仙台城跡)に作られた、憩いの場だ。城は無いけれど、石垣がある。そして伊達政宗騎馬像が仙台市を見守っている。宮城県のお土産や絵葉書に描かれる政宗騎馬像は、誰もが1度は見たことがあるのではないかと思うくらい、県内で有名だ。

 四季折々で景観も移り変わり、観光客が足を運ぶスポットだ。資料館やお土産屋などもある。孔輝が飲みたがっていたずんだシェイクも売られている。


「政宗像を見るの久しぶりだわ」


 孔輝が懐かしそうに言う。わたしも子供の頃に来たような記憶があるけれど、あまり覚えてないから、初めて来たような感じも味わえる。


「俺も。夜景も綺麗なんだけ、帰り遅くなっちゃうからな」


 孔輝とわたし、おそらくサブちゃんは多少遅くなっても大丈夫だったけれど、美智の家はそんなに緩くはなかった。まぁ、女の子だし当たり前なのかもしれないけれど。美智はちょっと申し訳なさそうな顔をした。夜遊びがいいわけじゃないけれど、楽しくて遅くまで遊んでいたいときもある。


「まぁ、また次の機会に、な」

「……うん」


 美智は嬉しそうに頷く。孔輝が無責任に見えた。次の機会はいつなのか。美智を連れていくのか。もやもやした気持ちがまた膨れ上がった。

 さっきからこんな風に考えてばかり。孔輝がどうしようとわたしには関係ないのに。こんなの嫌だ。


『まもなく、国際センター駅に到着します』


 アナウンスが流れる中で、わたしは下唇をきつく噛んだ。


 わたしは、自分の中のなにかに気付き始めている。でも、それはだめだ。見なかったことにしないといけない。壊れてしまう。大事なものが、粉々に。


 わたしたちは、駅から出ると木々に囲まれた道を進む。

 仙台駅から1時間ほどかけて歩いて行くひとや、バスでのアクセスもある。国際センターというのが地下鉄の最寄り駅で、徒歩で政宗騎馬像があるてっぺんまで行くには坂道をのぼらないといけない。こっちの方がなんだか探検をしているみたいで楽しいのだ。

 仙台市博物館を通り過ぎると、段々と山道になってくる。


「虫の鳴き声がすごい」


 耳が痛くなるほどだ。なんの虫だろうか。よく分からない。


「夏休みだったら蝉がたくさんいただろうね」


 見上げると太陽光線を遮る木々。緑の匂い。空気が美味しく感じる。徐々にきつくなる坂道に息が上がってくる。


「サンダルで来なくて正解だよね」


 美智がはぁはぁと呼吸を荒げて言った。


「シェイクが待っている」


 孔輝はどれだけずんだシェイクが飲みたいのか。これで万が一売り切れだの機械の故障だので飲めなかったら、暴動でも起こしそうだ。


「うえーしんどい……」


 老夫婦や子供連れも歩いていた。一番体力がありそうな4人組はみんな険しい顔だ。真夏にのぼっていたらもっと辛かったと思う。でも、やはりきつい。舗装道路に合流し、またハードな坂道になっていく。距離はさほどないはずだけれど、傾斜がきついのだ。

 ひいひい言いながらのぼり切ると、開けた場所に出た。仙台市街が見渡せる高台に到着した。


「いい眺め」


 秋晴れの空に少しの雲、遠くまで広がる景色。


「天下、取った気分」


 上がったままの息で孔輝は言う。


「ははは」

「なんだよ」

「なんでもない」


 汗が光る日に焼けた顔が、眩しかった。


 政宗騎馬像をぐるりと見て、もういちど景色を見る。自分が住む町はここから見えるだろうか。


「海だねあれ」

「あっち仙台駅だな」


 孔輝とサブちゃんは遠くを指さして、川だ、あのビルがどこらへんだと言っている。

 汗をかいて坂をのぼってきて、素晴らしい景色を見ることが出来て、とても気持ちがよかった。

 もやもやと悩んでいることが、なんだかちっぽけに思えてしまう。


「早速ずんだシェイク。ずんだずんだ」

「分かったから」


 小走りになる孔輝のあとをサブちゃんが追いかける。きつい坂をのぼってきたばかりだというのに、走る元気があるのか。


「孔輝くん、よほど飲みたいんだなぁ」

「食い意地が張ってるだけでしょ」


 ふふふと美智が笑う。


「それ、似合うよ」


 ひらひらと揺れるリボンを指して、褒めた。美智はとても嬉しそうに「ありがと」と言った。孔輝は気付いただろうか。青いリボンに美智の思いが込められていることを。


 わたしと美智が追いつく前に、孔輝とサブちゃんがずんだシェイクを持って店から出てきた。


「明日華と美智のぶんも買ってきちゃったよ」


 サブちゃんがシェイクを渡してくれた。


「ありがとう。お金……」

「孔輝のおごりだって」


 サブちゃんがシェイクのストローに口をつけながら言った。


「ええー。孔輝くんありがとう」


 孔輝がおごってくれるなんて珍しい。よほど機嫌がいいのだろうか。ストローに口をつけて吸うと、冷たくとろりとしたシェイクが舌の上に流れてくる。甘さと、豆の香りが口いっぱいに広がった。


「美味しいー!!」


 思わずそう叫んでしまった。すれ違いの観光客らしきおばちゃんたちと目が合う。笑顔で「いいねぇ」と言われた。


「でっかい口で、恥ずかしいぞ明日華」

「うう。ごめん」

「俺が買ったからな、数段うまいよな」


 味には関係ないけれど、おごりなのは間違いなかった。


「はぁ。ごちそうさまです……」


 敷地内には青葉城資料展示館があったりして、城を再現したCGシアターが楽しめたり、収蔵品を見学できたりする。

 入場がかかるので、建物の外観を見たり、本丸跡に建てられた護国神社をのぞいたりした。

 お土産のキャラクター商品やアニメとコラボしたものを見る。串焼きやおまんじゅうを見ていると、シェイクを飲んだばかりなのにお腹が空いてきてしまう。


「腹減ったなぁ」


 ぽつりとつぶやいたのは孔輝だった。


「孔輝、さっきから食べてばっかりじゃん」

「育ちざかりだから仕方ない」

「じゅうぶん育ってるから大丈夫だよ」


「帰りながら、仙台駅でなんか食べて帰ろうか」


 美智がそう提案する。ふと気付けば、日が傾いている。


「そうだなぁ。そろそろ帰るとするか」


 おっさんみたいにそう言って、孔輝は伸びをした。

 バスでも帰れるのだけれど、来た道をくだることにした。こうやって体を動かしているから余計にお腹が空いちゃうんだよな……。

 再び騎馬像を眺めながら、来るときにのぼってきた石段をくだる。それからのぼりはあんなにきつかった坂をくだるのだ。




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