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「サブちゃん、コソコソしたくないってさ」
「……ふーん」
なんなのこの会話。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。数メートル離れた場所を、白い犬を連れたおじいさんが通って、犬が吠えた。
「そっちはどうなんだよ」
「こ、断ったよ!」
「食い気味に答えたな」
「だって、なんかもう黙っているのも、自分の気持ち押し殺すのも辛いよ。ちゃんとしたくて」
これは誘導尋問だろうか。孔輝がそこまで考えていうのか分からない。それでもいい。わたしは、ちゃんと伝えなくちゃいけない。
「ネネの言うとおりだよ。わたし、素直になれなかった」
もう一度、犬が吠えた。ちょっと、うるさいよ。いま、準備しているんだから。
「小さい頃から、ずっと……ずっと、わたし」
そこで孔輝が顔の前に手を出して制する。
「俺が先に言うから、ちょっと待って」
「いやだ。待たない」
もうだめ。爆発しそうだから。いま言わないと、言えなくなりそうで。
「じゃあせーので」
「いいよ!」
「せーの」
「孔輝が好き!」
孔輝の目が見開かれてから、きゅっと細められた。笑っていやがる。
「あ……あー! ズルい!!!」
一緒にって、言ったのに。酷い。お前など、顔を猫に引っかかれたほうがいい。ああもう、どうにでもなれ。
「これからも孔輝と一緒にいるって、ネネに約束したし……」
孔輝の顔を見られない。見なくてもいいように、ぎゅっと目を閉じた。
「それと! わたしが! 一緒に、ずっと一緒にいたいって思っているから!」
「声がでけぇよ」
大声を出したのに呼吸がうまくできない。孔輝のことも真っすぐ見られないよ。告白って、こんなに体力と気力を使うんだ。みんな、凄いな。よろめいたところを孔輝が支えてくれる。
「分かった、分かったよ。ごめん……」
気持ちを伝えるって、凄いな。胸の霧が晴れてゆくようだ。自分がちゃんと気持ちを言えたから、なんだか強くなった気さえする。肩を抱く腕が力強くて、それは安心と幸福感をもたらしてくれる。この温かさに、真っすぐ向き合いたい。
「……寒いから風邪ひくかもしれないし、そろそろ行くか」
行くかって、どこへ? 帰るの?
「ちょっと、わたしは言ったのに。ちゃんと聞きたいよ。言ってよ」
なんだか必死で縋っている気がして恥ずかしい。でも、それでも、わたしは聞きたい。孔輝は姿勢を正し、正面に立って下を向いた。
「あー……ええと、俺も」
「ああ? 声が小さいよお!」
「うるせぇ! す、す、好きです……」
言ったあと、ぷはぁと息を吐いた。全身に力が入っていることが分かる。孔輝も、わたしと同じように、勇気を出して素直になってくれた。
思いが通じて結ばれるって、こういうことなんだな。まどろっこしくて遠回りのわたしたちが、ようやくお互いを見ることができた。