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湯けむり猫のお宿はいつも雨降り  作者: 蒼山 螢
5章 きょうも雨降り
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5

「サブちゃん、コソコソしたくないってさ」

「……ふーん」

 なんなのこの会話。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。数メートル離れた場所を、白い犬を連れたおじいさんが通って、犬が吠えた。


「そっちはどうなんだよ」

「こ、断ったよ!」

「食い気味に答えたな」

「だって、なんかもう黙っているのも、自分の気持ち押し殺すのも辛いよ。ちゃんとしたくて」


 これは誘導尋問だろうか。孔輝がそこまで考えていうのか分からない。それでもいい。わたしは、ちゃんと伝えなくちゃいけない。


「ネネの言うとおりだよ。わたし、素直になれなかった」

 もう一度、犬が吠えた。ちょっと、うるさいよ。いま、準備しているんだから。

「小さい頃から、ずっと……ずっと、わたし」

 そこで孔輝が顔の前に手を出して制する。

「俺が先に言うから、ちょっと待って」

「いやだ。待たない」

 もうだめ。爆発しそうだから。いま言わないと、言えなくなりそうで。

「じゃあせーので」

「いいよ!」

「せーの」


「孔輝が好き!」


 孔輝の目が見開かれてから、きゅっと細められた。笑っていやがる。


「あ……あー! ズルい!!!」


 一緒にって、言ったのに。酷い。お前など、顔を猫に引っかかれたほうがいい。ああもう、どうにでもなれ。


「これからも孔輝と一緒にいるって、ネネに約束したし……」


 孔輝の顔を見られない。見なくてもいいように、ぎゅっと目を閉じた。


「それと! わたしが! 一緒に、ずっと一緒にいたいって思っているから!」

「声がでけぇよ」


 大声を出したのに呼吸がうまくできない。孔輝のことも真っすぐ見られないよ。告白って、こんなに体力と気力を使うんだ。みんな、凄いな。よろめいたところを孔輝が支えてくれる。


「分かった、分かったよ。ごめん……」


 気持ちを伝えるって、凄いな。胸の霧が晴れてゆくようだ。自分がちゃんと気持ちを言えたから、なんだか強くなった気さえする。肩を抱く腕が力強くて、それは安心と幸福感をもたらしてくれる。この温かさに、真っすぐ向き合いたい。

「……寒いから風邪ひくかもしれないし、そろそろ行くか」

 行くかって、どこへ? 帰るの? 

「ちょっと、わたしは言ったのに。ちゃんと聞きたいよ。言ってよ」

 なんだか必死で縋っている気がして恥ずかしい。でも、それでも、わたしは聞きたい。孔輝は姿勢を正し、正面に立って下を向いた。


「あー……ええと、俺も」

「ああ? 声が小さいよお!」

「うるせぇ! す、す、好きです……」


 言ったあと、ぷはぁと息を吐いた。全身に力が入っていることが分かる。孔輝も、わたしと同じように、勇気を出して素直になってくれた。

思いが通じて結ばれるって、こういうことなんだな。まどろっこしくて遠回りのわたしたちが、ようやくお互いを見ることができた。




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