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「……サブちゃん、なんか歪んでいるよ」
「そうかも。でもな、自分の好きな子が親友のこと見ているって気付いて、それをずっとそばで見てたら、歪むだろう」
「……ごめん」
「ああ、別に誰も悪くないよ。俺、明日華のこと好きだけど、同じぐらいあいつのことも好きなんだ」
同じだ。わたしが美智に思っていたことと。胸の痛みは消えなくても、ふたりとも好きだという気持ちは温かい。それは知っている。痛みは温かさで癒していけると思っていた。
「わたし、ちゃんと自分の気持ちに正直になるよ」
「そうか。なんか明日華は危なっかしくて、そこが好きだったんだけど」
「サブちゃんの好み、変だよね……」
「そうかもな」
綺麗な笑顔を向けて、サブちゃんは鞄を持ち直した。
「なんか明日華、強くなったな」
「褒めているんだったらありがとう、サブちゃん」
「油断したら、いつでもかっ攫うんだからな。諦めが悪いんだ、俺」
キラキラ少女漫画の王子様みたいな言葉を言ってくれるサブちゃんが眩しい。
「あの、眩しすぎて目が潰れそう」
「ああ、夕日がなぁ」
そうじゃないけど、まぁ、いいか。
「俺が変えたかったのに、残念だなぁ」
「いつも通りのつもりだけど、変わったと感じるなら、それはいいことなんだと思う」
なにも変わらないと思っていた。自分が変わるのが怖かった。まわりがどんどん変わっていくのに、自分だけ心の更新ができなくて、息苦しかった。
でも、それでも、前に進むんだ。
「約束したから。素直に、自分に正直になるって」
「誰と?」
「ないしょ!」
「なんだよそれ」
やくそく、と声に出さず口を動かして、深呼吸する。オレンジ色の景色と空気を体に吸い込んで、わたしたちは屋上から出た。
王子様みたいなことは言ってくれないだろうけれど、わたしが好きなのは、孔輝なんだ。