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湯けむり猫のお宿はいつも雨降り  作者: 蒼山 螢
1章 きょうは雨降り
3/38

3

 ◇



 美智が買い物に行きたいというので、日曜日にふたりで出かけた。4人で八木山動物公園へ出かけるのは来週の連休。その準備に当てられる休みは今日だけだ。準備といっても、泊りがけで行くわけじゃないし、おしゃれで可愛いものを身に着けてお出かけをしたいという乙女心……の美智につき合ってというのが正解。

 ヘアピンやリボンなどのアクセサリーや雑貨を見に、駅に隣接するショッピングビルの中を歩いていた。秋晴れで過ごしやすい気候も手伝って、混雑している。


「アーケードのほうにも行ってみようよ」

「そうだねせっかくだし。ああ、トートバッグも見たいなぁ」

「わたしも、持ち手がボロボロなんだよね」


 薄手の折り畳みトートバッグを鞄に入れておいて、荷物が増えたらそれに入れるのだ。サブバックやエコバックなんて言い方もするかな。持ち手がボロボロになったのは、中学生時代から使っているから。


「明日華って物持ちいいよね」

「というか、ほかに持ってないからだよ。壊れたら買おうと思って」

「明日華は器用だから作れるんじゃない? 簡単だよ。材料代だけでできるし、複数あれば汚れたら洗濯できるし」

「無理……」


 美智は数種類を交換しながら使っている。クラスの女子のうち、裁縫が得意な子は好きな布で自作している。美智は裁縫が得意な女子だ。わたしはある程度は器用かもしれないけれど、バックなんて作れない。

 わたしのは、洗濯なんて特別汚れてしまった時か、長期休みのときぐらい。気付くと不思議な臭いを放っていることがある。


 女の子らしいなぁ美智は。やはり孔輝もこんな風にふわふわした女の子らしい子が好きなのだろう。聞いてみたことはないけれど。孔輝とサブちゃんに対して、わたしと美智の扱いが違うと感じたことはなかった。それだけ、ふたりは普通に接してくれているということだ。無意識なのかもしれないけれど。大体、そういう計算が出来るのはサブちゃんだけだ。孔輝は無理。

 美智が孔輝に告白をして、もしもふたりがつき合うことにでもなったら、それでも孔輝はわたしを幼なじみ枠で据え置きしてくれるだろうか。

 そこまで来て、なんだかとんでもないことを考えていると気付き、思わず口をおさえた。


「……ばかじゃないの」


 思わずひとりごとを言ってしまった。


「え? なにか言った?」

「あ、ううん。なんでもない」

 前髪を触ってごまかした。

「美智、あとでジェラード食べようよ」

「いいね。おやつに食べよー」


 呼吸を整える。怖い。どうしよう。なんだこれ。膨れあがる不安と焦りを入れ替えたいと思って、深呼吸をした。

 人混みの中を、また歩き出す。


 ひまわりみたいな美智の笑顔が、わたしは好きだった。それは本当。優しくて、でも芯の強い女の子。孔輝を好きな女の子。

 どうしてこんな風に思ってしまうのだ。笑って「がんばってね」と言えばいいのに。孔輝だって、嫌なら一緒に行動をしないだろう。美智の思いを孔輝が受け、もしくは両思いだという可能性はゼロじゃない。この疎外感はなんだろう。不安と焦りもある。いざ「孔輝が好き」と聞いたから出てきてしまった、独占欲なのかな。だとしたら最低だ。


「この店ってアイちゃん達が言ってたとこじゃん。入ってみよう」


 クラスメイトが騒いでいた記憶がある。ここか。

 キラキラしていて、いかにもティーンが好きそうなお店だなと思った。ファッション小物がところ狭しと置いてある。


「この靴下かわいいね」

「あ、これ美智に似合いそう」

「これ明日華つけてみたら」


 ああでもないこうでもない、あれ可愛いこれ欲しいなどととめどなく流れる会話。とても楽しかった。


「あ、これ可愛い」


 ペンダントコーナーの一画にあった、猫がちょこんと座ったシルエット型のシルバーネックレス。とても可愛かった。でも、お値段が可愛くない。


「明日華、猫好きだったっけ」

「うん。飼ったことないけれど」

「可愛いよねぇ猫。そういえば、孔輝くん猫飼ってるもんね」

「そう。真っ白な猫だよ」

「写真で見たことある。家には行ったことないしね」


 そう言って、美智はにっこり笑った。ぎゅうと胸が痛んだ。わたしは何度も行ったことがあって、まぁ小学生高学年までだったと思うけど、孔輝の猫だって知ってるし触ったことも抱いたこともある。


「あ、こ、孔輝ね、青が好きだって言ってたよ」

「青?」

「うんっ」


 唐突過ぎたかもしれない。猫の話から逸らしつつ、なにかこう、孔輝の話をして美智の気持ちを楽しませたかった。わたしの胸の内なんか関係ないんだ。


「そうかもね。定期入れとペンケースが青だった」

「……そうだっけ」


 孔輝が「俺、青が好きなんだよ」と言っていたのはたしかだ。数年前の話だけど。でも、定期入れとペンケースがそうなら、いまでも好きなはず。美智はさすがだ。


「よく見てるなぁ美智」

「なんか恥ずかしいけど、そりゃあね。チェックするよね」


 えへへと照れながら言う美智。そりゃそうだ。孔輝が好きなのだから。もしかしたらわたしよりも孔輝のことを知っているかもしれない。わたしは、孔輝の定期入れとペンケースの色なんか覚えていなかった。


「これ可愛い」


 美智が手に取っていたのは、青と水色の幅広リボンがふんだんに使われたバナナクリップだった。色白の美智にとても似合いそう。


「明日華みたいに伸ばそうかな。ポニーテールにこれ絶対可愛いよね」

「美智ならハーフアップにこれでいけると思う。似合うよ」

「そうかな」

「孔輝も見とれると思う!」


 そう言うと美智は耳まで真っ赤にして「やめて」と言った。



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