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孔輝の声が遠のく。美智の告白シーンが去り、今度はサブちゃんの顔が浮かんだ。
いままではただの友達だったのだ。4人クラスが同じで、何度も一緒遊んだし、残って勉強とか、カラオケに行ったこともある。
綺麗な顔をした人気者のサブちゃん。そもそも、孔輝とつるんでいること自体が謎だった。それはそれは気が合う様子で、いつもじゃれあって、まるで小さい子供みたいだった。
サブちゃんは、整った顔をしていて、当然の如く女子にモテるわけだけれど、それを軒並み亡き者にしている。次の日から死んだ目で登校する女子達を何人か目撃した。特定の彼女はいない。そして作らない。自分でそう言っている。あまりに孔輝と仲良しなものだから、よからぬ噂を立てられたりしたこともある。それでも、告白しにくる女子はいるのだった。
それがだ、なぜわたしのことを。甘いものばかり食べていたからしょっぱいものも食べたいとかいう理由なら分からないでもない。そう考えると、なにそれわたし何様かとも思う。いや、でも。サブちゃんは学年にひとりはいるような、女子をとっかえひっかえするような男子ではない。別なの食べてみたいとはならないはずだ。それなのに。
孔輝もサブちゃんも、わたしを男友達としてしか見ていないと思っていた。
『俺、気が長いし、このまま4人で学校生活を楽しく過ごしたいから、返事はゆっくりでいい。明日華が、俺を好きになってくれてからでいい』
なにその追加注文。唾を飲み込んだ音が聞こえてしまうのではないかと緊張しながら、真っすぐわたしを見るサブちゃんから逃げたかった。
楽しく過ごしたい。でも告白はする。これは作戦なのだろうか。サブちゃんの告白を録音したまま高校生活を送るなんて、そんな器用なことができるわけがない。意識してしまうに決まっている。好きになって、しまう……だろうか……。いや、好きだけど。サブちゃんは大好きだけど、なんていうか、男として意識をしたことが無くて。
サブちゃんが策士ならば、なにもかも見越してのことなのかもしれない。わたしは陥落寸前なのだろうか。自覚はない。どうすればいいのか分からない。恋愛経験が皆無だから。
やばかった。ドキドキして呼吸が荒くなった。そして、胸が痛くなった。
孔輝はなにも知らない。なにも知らずに、4人で動物園に行くだのずんだシェイクだのと言っている。わたしが小さな胸をこんなに痛めているのに。憎たらしい。
「いて! なんだよ」
孔輝の肩をグーで殴った。そして、立ち上がる。
「わたし帰る」
「あっなんだよ。なに怒ってんだよー俺も帰るよ」
どうせ同じ町内に帰るのだし、最寄り駅も一緒。よくふたりで帰っているのだ。そう、先日まではなにも考えず。
「用事あるから、先に帰る」
鞄を乱暴に持って、孔輝の返事を待たずに屋上から校舎へ入った。
そうだな。美智の気持ちを考えたら、孔輝とふたりで帰ったりはできない。せめて美智も一緒じゃないと。
別に悪いことはしていないし、わたしと孔輝はただの幼なじみなのだから。でも、罪悪感が湧いてくる。階段をおりる自分の靴音に、孔輝のそれが重ならないのは少し寂しいと感じてしまったからだった。