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その男は焦っていた。
目の前には熊型の凶暴な魔物が迫っていた。
草の精霊に愛された魔物は本来ならば森のもっと奥地に生息している筈だった。
魔物の支配下に置かれた蔦が男を捕らえ、男は終わりを覚悟した。
その時、鋭い風が吹き。
キイィィインと耳障りな音が響き。
豊かな黒髪を軽く結わえた女がナイフで魔物の牙を受け止めていた。
「肉。いただいてくね」
因みに肉は宮廷晩餐会のために手慣れの討伐隊が組まれるほどの高級品である。
蔦はいつの間にか力を失っていた。
女は怒り狂った魔物の攻撃を物ともせずにその懐に入り込むとサックリととどめを刺して解体を始める。
男は信じられない気持ちでその光景を見つめた。