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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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怪しい老博士

 建物の中は湿っぽくて、ドアから外に向かって、ひやっとする空気が流れてきた。

 もうエアコンをガンガンにかけているのか。

 その冷気に当たったとたん、不思議と耳鳴りが止まり、震えまでも止まった。

 普通、逆のような気がするが。


 左側に見えた守衛室の方へ向かうと、巨漢で眉が太いだるまのような顔をした守衛がこちらを睨んでいる。

 その目力にビビって、足がすくんだ。

 もちろん、睨まれる理由などわからない。


 山本さんが守衛から入館カードをもらって、クリップボードに挟まれた帳票に僕たちの社名やら名前やら行き先やらを書いていたが、無愛想な守衛は先ほどから一言も発しない。

 来訪する人物がみな怪しい人物に見える性格、というか職業柄なら仕方ないかもしれないが。


 帳票を見て難しい顔をする守衛に背を向けて、山本さんが訪問先に電話をかける。

 まだ睨んでいる守衛が怖いので背を向けた姿勢を保ちつつ、1、2分待っていると、左側にある階段からパタパタと音を立てて誰かが降りてくる。

 音から察するにスリッパを履いていると思う。

 僕たちは、その音のする方へ視線を投げかけた。


 すると、階段を降りきらないで、途中で腰から上の体だけ突きだした人物がこちらを見る。

 白衣を着た恐ろしく長身の人物だ。

 思わずギクッとした。一瞬、異世界人に思えたのだ。


 彼は、残っていた階段の2段ほどをポンと飛び降り、僕たちの前に歩み寄った。

 僕より頭一つ背が高い。

 面長でやせ細っていて、目が細く、しわが深く刻まれた六十代の感じ。

 会社員というよりは老博士に見える。


 何ヶ月も髪を切っていないようなぼさぼさの銀髪が乗った頭。

 いや、ちりぢり頭かも。実験に失敗して、爆発で髪の毛が焦げたみたいな。

 こちらに近づいてきただけでタバコの臭いがするので、相当のヘビースモーカーと思われる。


「山田です」

「山本です」

「台場です」

 簡単な挨拶の後、すぐさま訪れた沈黙。

 たったこれだけの会話で、今日お互いに話すことが尽きてしまったかのようだ。


 山田さんは、ぼーっと僕に視線を投げかけていて、何か言いたそうに口を薄く開いている。

 有名人でもイケメンでもない僕を、視線という千枚通しでグサッと刺すように見ているのはなぜだろう。


 山本さんはこの異様な沈黙を破るため「どちらでお打ち合わせでしょうか?」と切り出すと、山田さんはハッと目を覚ましたかのように「ああ」と言う。

 端から見ると、寝ぼけているのかと思うだろう声だった。


 それから、階段の右隣にあるエレベータへ案内された。

 容易に想像できたことだが、6人乗りエレベータの密閉空間は、たちまちタバコの臭いで満たされた。

 たまにタバコを吸う僕でも、強烈なこのヤニ臭さは不快である。


 打ち合わせは6階の狭い会議室で行われた。

 顧客側の出席者は山田さんのみ。

 うちはもちろん、山本さんと僕の二人。

 長い机が二つくっついてお互い向かい合わせに座っているのだが、その距離があってもタバコの臭いが漂ってくる。


 山田さんが今回依頼する一通り作業について、白板を使って単語やら図やらを交えて概要を説明してくれた。

 説明してくれた内容は、開発の途中で火が噴いて緊急という感じではなく、今開発中のVRの恋愛&アクションゲームをデバッグするらしいことはわかった。

 内心ホッとした。溜飲が下がる思いだった。


 ユーザ目線でデバッグを実施するらしい。

 ということは、そのフェーズなら完成間近かも。

 最新のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使うらしく、楽しみである。


 彼は一通り説明して疲れたらしく、うつむいてため息をつく。

 説明といっても5分しかしていないので、今日は相当お疲れの様子だ。

 それともタバコ切れか。


 何とも不思議な人である。


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