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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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今から仕事だけれど、何か

 さてと、新しい仕事が舞い込んできた。

 この業界に多い、掛け持ちである。

 残業が増えそうだな。

 家でたまっているビデオは、いつ観られるのかな。

 借りっぱなしのDVD、ないよな。


 気を取り直して、残っているおにぎりを食べる。

 そして、仕事に取りかかる前、ちょっと自分の机の上が汚いのが気になり、掃除を始めることにした。

 といっても、ティッシュで机やキーボードの上を拭いて、ゴミを捨てて、食玩のフィギュアを並べ直すだけで終わりにするつもり。


 僕の今いるオフィスには、三人の机と三人の机が向かい合わせになった六人の『島』という単位がある。

 その『島』が五つと、その各島を監視する位置にお偉いさんが一人ずつ。合計五人分の席がある。

 割と小規模なオフィスだと思うが、どうだろう。


 僕は出入り口から一番遠い島の席で、お偉いさんから一番遠い位置。

 山本さんは僕の右隣の席である。


 掃除している間に、山本さんが自分の机の下から鞄を取り出すのが視界に入ってきた。

 見ると、普段はノータイなのに、いつの間にかネクタイを締めている。

 そして、脇に鞄を抱え、曲がったネクタイを直しながら、出入り口そばにあるロッカーの方へ小走りに急ぐ。急な出張のようだ。


 僕はキーボードの上をティッシュで拭きつつ、顔を山本さんの背中の方に向ける。

「出張ですか? 行ってらっしゃい」

 彼は反射的にこちらへ振り返る。

「おいおい。何言っているんだ? これから君も出かけるぞ」

 その言葉に、キーボードの上の手が止まる。


「僕もですか?」

「無関係を装わない。ほらほら、早く用意する。おいていくぞ」

 彼は、せわしない招き猫みたいに、右手でおいでおいでの仕草をする。


 今僕は割と忙しいのだ。掃除ではなく仕事が。

「今からどこへですか?」

「客先」

「打ち合わせですか?」

「それプラス作業」

「えっ? 作業も?」

「そう。打ち合わせしたらすぐ、作業に取りかかる話になっている」

 今日の今日で、いきなり作業だなんて……。


 またかい。


 そう。こんなことは前からたまに経験するのだけれど、『今日の今日』は緊急度が高いから『お泊まり』になる確率が高い。

 受け容れ側は『即戦力』と手ぐすね引いて待っているのだけれど、僕たちの間ではこれを『人質』と呼んでいる。


 さあ、困った。

「作業って、……何の作業ですか?」

「さっき話した」

「ああ……」

 どうやら、いきなりVRゲームのデバッグに駆り出されるようだ。


 ということは、やっぱり緊急なんだ。

 バグだらけのボロボロなゲームで、発売日が近いから、なんとかせえ、と。


 緊急なら仕方ない。腹を決めてやるっきゃないのだ。


 こりゃ、しばらくは泊まり込みかぁ。……とほほ。


 僕はパソコンの電源を切って、鞄を脇に抱えて山本さんの後を追い、廊下へ出た。

 こういうときって、たまに上着を忘れて飛び出すことがあるので、僕は下を向いて自分の服を点検した。


 しまった。


 上着を忘れたのではない。

 上下ちぐはぐな色のジャケット&メンズスラックスの組み合わせだったのだ。

 こんな格好で、初対面のお客様に挨拶に行くのである。

 ラフすぎる。

 しかも、ネクタイは……忘れているし。

 初めての顧客のところへ訪問する格好としては、ないわーと後悔した。


 今更後悔しても仕方ない。

 山本さんの足が駆け足になったので、僕も駆け足で後を追いかけた。

 まるで、親にはぐれないよう、必死に走る子供のように。


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