精霊の力、恐るべし
最初は、アンジェリーナが何を言い出すのだろうと思ったが、よく考えると、僕的には十分魅力的な提案だ。
正直なことを言うと、この異世界から逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、僕が昼にプレイしていた『翼をあげるね』の外伝なら大いに興味があるし、この面白そうなVRゲームに、はまってみるのもいいかなと思い始めていたところだ。
彼女が全面的に手伝ってくれるのなら、申し出を受けてもいい気持ちになってきた。
『DBT>じゃ、デバッグ始めます』
えっ? いつの間にか発言しているし。
僕は何もキーボードを触っていないのに、である。
さては、彼女の仕業だな。
『やまだ>じゃ、お願いします』
あんたは反応しなくていい。
「ねえ、君。勝手になりすましちゃ駄目じゃないか」
「へへーん」
と突然、画面全体がゲームの画面に戻り、キーボードが見えなくなった。
もう僕は、キーボードのキーの位置すらわからない。
でも、不思議なことに、チャットに発言が書き込まれている。
全部、彼女の仕業だ。
『DBT>はい。ではでは。バイビー』
「ねえ、どうして書き込めるの。てか、僕に断りなく、勝手に書いているし」
「こんなの、精霊の力でなんとでもなるの」
なんと! 精霊の力、恐るべし。
「僕は『ではでは。バイビー』なんて書かないよ」
「気にしない、気にしない」
「絶対、みんなにバレているよ、君が書き込んだって」
「じゃ、行くわよ、トール」
「トオルだってば」
「ゲーム再開!」
「ちょっと待って!」
「何?」
「君のこと、アンジェって呼んでいい?」
「あーちゃんじゃなきゃいい」
「そっか。じゃ、あーちゃんだ」
『DBT>トールが、いじめる』
「こらこら! 勝手に書くな!」
『イカヤ>あら、書いているのアンジェちゃんでしょ?』
『センダ>デバッグの邪魔してはだめですわ』
『カケホ>ちーっす』
『イイン>協力してあげてね。こちらの言葉とか文化とか』
『ノシマ>アンジェ萌えーってことで』
こういうときだけ、みなさんの食いつきがいいのはどうしたものか。
『やまだ>よろしくお願いします』
あんたは食いつきに参加しなくていい。
あ、でも、今山田さんが『よろしくお願いいたします』って言った。
ということは、僕が彼女と組んで一緒にデバッグしても問題ない、つまり、契約違反にはならないんだ。
これはいいことを聞いたぞ。よしよし。
こうして、異世界常駐者となった僕は、あーちゃんことアンジェリーナとペアリングによるデバッグを始めることにあいなった。
ここにきて、ようやく周囲の状況と僕自身の役割が理解できた。
まとめてみよう。
異世界の開発者たちが、僕の世界のHMDを参考に、それを上回るHMDの試作機を完成させた。
そして、コンテンツとして、僕の世界の人気恋愛ゲームの外伝まで制作した。
それは、恋愛&アクションのVRゲームらしいので、本家を上回るゲームにしたもようだ。
そして、本家の世界から僕を招聘した。
いや、それは間違いなく、『異世界への召還』だろう。
そして、異世界のHMDとゲームの両方のデバッグを行う。
これが僕のミッションだ。
そう考えると、今までの嫌々感が吹き飛んで、ちょっと本気モードになってきた。
それは、彼女の協力の申し出により背中を押されたことが大きい。
さて、どのくらいでゲームがクリアできるだろうか。
せいぜい一日、二日あれば、かな。
感覚的にだが、40時間くらいで、と。
ただ、後になってわかるのだが、それは甘かった。
大甘だった。
このゲームが実は大河のように長いストーリーで、クリアするのに何日もかかってしまうとは、この段階では想像もつかなかったのである。
しかも、ゲームの主人公のちょっと軟弱君が、女の子と淡い恋愛チックなことをしながら、敵を次々と倒しつつ大ボスにたどり着き、最後に衝撃の事実が明らかになる。
その長いこと長いこと。
異世界の皆さん。この世界は魔物と冒険者の世界としか思っていなくて、ごめんなさい。
いつの間にかここまで技術を習得しているとは、大変驚きまして、言葉もありません。
ゲームはまだ初っぱなですけれど、ほんと、いい仕事していらっしゃると思います。
そして、正直申し上げて、何もかもが驚きを通り越してあきれています、ハイ。
第三章まで執筆しましたが、ゲーム内世界とデバッグの世界の2つのストーリーが平行して展開するため、読みにくい懸念が出てきましたので、第一章でいったん、完結とさせていただき、後日再構成します。
現時点の構想では、ゲーム部分と異世界部分を分離・独立させて別々に公開する予定です。
異世界部分を再構成したものは、「僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚」として2017年1月1日から公開しています。
お読みくださった皆様方、誠にありがとうございました。
ご期待に添えず申し訳ございません。
次回作では挽回しますので、どうぞよろしくお願いいたします。




