オープニングから意味不明な文字と音声が
僕は、普通のユーザはこうするだろう、という操作をあえてしない。
その方が、経験上、バグが見つかりやすいのだ。
それは、プログラマーが、普通のユーザはこう操作するだろうという前提でしかコーディングしていないことが多いから。
今回もこの『天邪鬼スタイル』で行ってみる。
なので、コントローラでカーソルを移動しゲームのアイコンをクリックする前に、視線をアイコンに向けてジッと見つめてみる。
何も起こらない。
二回瞬きしてみる。ダブルクリックのつもりだ。
すると、アイコンが消えて、画面中央が真っ暗になり、ロゴが浮かび上がった。
へー。思いつきでやってみたが、これでも起動するんだ。
とその時、驚くべきことに気づいた。
このロゴに書かれている文字が、どの国の文字なのかわからないのである。
ローマ字ともアラビア文字ともモンゴル文字ともハングル文字とも、似ても似つかない文字である。
何というタイトルか忘れたが、とある異世界もののアニメで、町にあった看板に書かれていた何語だかわからない文字でもない。
なんだこりゃ……。文字化けにしてはひどすぎる。
文字に驚いていてすっかり忘れていた。
実は、いつまでもこの奇妙な文字のロゴが消えないのだ。
1分くらい待ってみたが、それでも消えない。
不具合っぽいけど、チャットに書き込めないもどかしさ。
報告しようがないので、HMDを外し「すみませーん」と声をかけてあたりをキョロキョロしてみる。
無反応だ。
もう一度HMDをかぶり直す。まだロゴが表示されているので、今度はクリックのつもりで瞬きしてみる。
これも無反応だ。
さっそく、バグのツボを突いたようだ。
仕方ないので、電源リセットすることにした。
困ったときの電源リセット。
これは重宝である。
HMDの右側にあるスイッチを切って、数秒待ってからスイッチを入れ直す。
数秒待ったのは、直感だ。根拠などない。
ゲームのアイコンが表示されるまで待ってから、今度はコントローラを使ってカーソル移動し、クリックしてみることにした。
その前に、コントローラに慣れないといけない。
コントローラは、なんとなくこの辺に上下左右の移動ボタンや決定ボタンがあるはず、という感覚で触っていくうちに、それほど違和感がない配列であることがわかった。
左斜め上を向いた矢印のカーソルの動きとコントローラのボタンの操作から、感覚がつかめてきたのだ。
よしよし、いいぞ。
さて、カーソルをアイコンに当ててクリックすると、画面中央が真っ暗になり、先ほど見飽きた奇妙な文字のロゴが浮かび上がった。
固まるなよ。
こんなところで固まるようでは、この先、バグの山は必須である。
すると、4秒ほどして別のロゴが現れた。
安堵して、ふうっとため息が出た。
また4秒ほどして、次はたぶんタイトルと思われる文字が浮かび上がった。
お、いけるじゃん。
次は心温まるラブソングのようなピアノ音楽がヘッドフォンから流れてくる。
聞いたことがないので、新曲だ。
親しみやすくて覚えた。すでに鼻歌で歌っているほどに。
ここまでは順調だ。まだ数秒だが。
タイトルが消えると同時に、フェードインでどこかの学校の昇降口らしい光景が現れた。
「……っ!!」
僕は目を見張った。おそらく、これ以上目を大きくできないほど見開いたと思う。
下駄箱、すのこ、傘立て、廊下、壁に貼られたポスター、天井の蛍光灯。
その何の変哲もないありふれたものに感動したのではない。
そのリアル感! 奥行き感!
これは凄すぎる。大げさではなく、本当に。
2Dの単なる背景を避けて、ここに空気が満たされているかのような3Dを持ってきたのには、このVRゲームを開発者したスタッフの並々ならぬ気合いを感じさせる。
観ていると、本当に中を歩き回りたくなるのだ。
ここが現実世界に見えてしまうほど。
僕は感動で言葉を失う。
すると、画面右下に全体画面の1/4くらいの大きさで、明るい青地に白抜きのメニューが現れた。
Load、Save、Config、Items、Chat、Sound、Effect、……、Option、Quit、Exit。
ロゴが奇妙な文字で、ここがなんで英語なのかは不明。
そういえば、アイコンは日本語だった。
そうだ、Config……。
思い出したくないものを思い出した。
いやいやながらも、コントローラを使って『Config』を選択し、『Level』を『Easy』から『Hard』に選択し直す。
いきなりハードってどうよ、とは思うのだが。
さて、お次はチャットである。




