夕食が決まらない
「うーーーーん、どうしよう……」
僕は、台場トオル。年齢23。職業は会社員、じゃわからないか。プログラマー3年目。
ゲームの真っ最中で、選択肢を決めかねてイライラ中。
プレイしているのは、携帯ゲーム機用ソフトの『翼をあげるね』。
これは、妹シズと友達のアミ、マイ、ヒロ、リノの四人が登場する恋愛ゲームだ。
朝昼晩、時間さえあればプレイしている。
今は至福の昼休み。その貴重な時間をフルに使って、最初の山場を迎えたところ。
現在、僕の視界に入っているのは、妹の顔の上に、以下の5つの夕食候補が選択肢として半透明で表示されている画面だ。
カレーライス
ミートスパゲティ
肉じゃが
すき焼き
ステーキ
周りなんか見えやしない。
だって、『俺』にすっかり感情移入中だし。
先ほどから何度も繰り返して夕食候補を心の中で読み上げる。
右手の人差し指を使って『どれにしようかな』『神様の言うとおり』なんてことまでやっている。
今、別に夕食なんてどれでもいいじゃないか、と声が聞こえてきそうだけれど、気のせいかな?
でもねぇ、このゲームはどの夕食を選ぶかで、五人のうちの誰とエンディングを迎えられるのかが決まるのだ。
そうとなったら、誰だって迷うだろうし、ありふれた夕食であっても慎重に選ばざるを得ないと思う。
考えに、考えに、考え抜いた。
「じゃあ、決めた! 夕食はこれにする!」
さて、誰エンディングだろう? 楽しみだ。
十字キーで項目を選択。
とその時、信じられないことが起こった。
携帯ゲーム機が妹も友達もスーパーの店内の光景も道連れに、引力に逆らうかのごとく、スッと上へ平行移動したのだ!
十字キーを押すはずの右手の親指が押した先は、右手の中指だった。
いったい、何が起きた!?