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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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デバッグ前の危険な香り

 まずは、終わったことを山田さんに報告だ。

「ダウンロードが終わったようです」

「そうですか。ではプレイをお願いします」

 意外にあっさり。

 事務的会話。


「チャットはどこでできるのですか?」

「すぐにわかります。では、私はこれで退室しますので、何かあればチャットで呼びかけてください」

「そうですか。わかりました」

 ヘッドフォンの向こうでピッと音がして、ドアが開いて閉まる音がする。


 山田さんが退室された。


 やっぱり、説明を避けているではないか。


 僕の『わかりました』って、本当にわかって言っているのではない。


 なんか、曖昧な部分がまだたくさん残っている気がするのだが、こんな状態でデバッグを始めていいのだろうか。


 どうもこの顧客は、説明を避けて、やらせようやらせようという意図が強すぎる。

 なぜ、こうもあれこれ隠して先を急ぐのか、理解できない。


 何かすごく危険な予感がする。


 てなわけで、ついに僕は、デバッグ室に一人取り残された。


 無駄にハイスペックで怪しげな機能が満載のHMDをかぶり、<カオス>に囲まれ、白いベッドの上であぐらをかいている僕。

 呼吸はしているので肩も胸もわずかに動くが、それ以外は硬直したかのように同じ姿勢を保っている。


 言っておくが、瞑想にふけっているのではない。

 『どうしよう』という言葉が頭の中でループしていて、どうにも先に進めないのだ。


 えっ? 何が起きたのかって?

 理由は簡単。

 HMDの怪しげな機能、味覚を除いた五感が再現できるという機能が怖いのだ。


 恐怖と好奇心が心の中の天秤の皿に乗って、ゆらゆらと揺れている。


 やがて、均衡が破られた。好奇心がかろうじて勝利した。

 腹が決まった。

「いっちょやりますか!」

 僕は両手で腰を、太ももを、パンパン叩く。


 いよいよゲーム開始、いや、デバッグ開始、もっと言い換えると缶詰開始なのだが、まさかこの後に『とんでもないこと』が起こるとは夢にも思わなかった。


 いや、もうすでに、この部屋へ入ったときから『とんでもないこと』が僕の周りに起こっていたのである。


 それに気づくのは、もう少し後になってからだった。



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