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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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無駄にハイスペックなHMD

 HMDとコントローラを渡されてから、ベッドに腰掛けた。持っていた鞄はベッドのそばに置いた。

 腰掛けたのは、単に椅子がないからなのだが、最初からごろ寝でやるつもりでいたのもある。

 おそらくデバッグに長時間かかるからだ。

 寝転がるつもりなので、靴も脱いだ。


 そういえば、確認を忘れていた。切実かつ大事なことである。

「チャットの入力って、キーボードですか? もしないとすると、文字の入力方法がわからないのですが」


 山田さんが、はたと手を叩く。

「そうでした、キーボードをお渡ししないと」

 言わなければ出てこない彼の真骨頂が発揮された。


 彼は、<カオス>の中から黒に青がちょっと入った色合いのキーボードを取り出して僕に渡す。

 見たところ普通のキーボードだが、キーの手垢と、隙間に入り込んだ無数のゴミが気になる。

 このキーボードにはケーブルがない。ワイヤレスなのだろう。


「マウスはあったりします?」

「マウス操作はありません。キーボードの矢印キーでカーソルは動かせますが」

「コントローラとキーボードは同時に使えますか?」

「はい」

「同時に接続して、カーソルはコントローラでいけますよね?」

「はい」

 なら大丈夫。


「HMD等の設定はどこでやるのですか?」

「こちらになります」

 彼は、今度は<カオス>の中から黒い箱を取り出す。ビデオデッキくらいの大きさだ。

 家庭用のゲーム機にしては少し大きい感じがする。


 彼は、近くに倒れていたモニターを立てて電源を入れ、ケーブルで黒い箱とつなぐ。

 しばらくすると、モニターにセットアップ画面が表示された。

 ざっと見た感じでは、迷うほどのUI(ユーザインタフェース)ではない。周りに転がっている機器類を、このUIくらい整理してほしいものだ。

 設定項目は全部英語だが、単語だけでもなんとか意味がつかめる。


 今度は、彼が小型のカメラをこちらに向けた。

 僕の証明書写真でも写すのか?

「このカメラをのぞいてください」

「それ、何ですか?」

「瞳孔間距離を測るものです」


 カメラをのぞいてみたが、レンズの向こうは暗くて、何も起こらないまま、彼はカメラをしまう。

「では、HMDをかぶってください」

 終わったんかい!


 言われるままにHMDを装着する。

 中は真っ暗だ。

「何も映っていませんが」

 すると、右の側頭部あたりでパチンと音がした。

「電源が入っていなかったようです」

「……」

 なんか、ど素人みたいで恥ずかしい。


 電源が入ってすぐ目の前に現れた画面は、ブルーの背景色で、中央に横長の白いプログレスバーのみ。

 数秒で100%になって、そのバーは消えた。

「何かプログレスバーみたいなものが見えましたでしょう?」

「はい」

「通常は電源を入れてからかぶるので、その表示は見えないのですが」

 彼は、『通常は』に力を込めて、ちくちくと痛いところを突いてくる。


 ここで、作業量に影響することを先に聞いておくのが鉄則だ。

「HMDの調整項目はデバッグしなくていいですよね?」

「大丈夫です。ゲームのコンフィグも」

「えっ? それもしなくていいのですか?」

「はい。すぐプレイしてかまいません」


じゃあ、当然イージーでやろう。

「あ、イージーじゃなくてハードで」

 チッ、残念。

 心の中を読まれたようだ。


 少しして、ブルーの画面の中央に『Loading...』の白い文字が表示された。

「何かロードが始まっているようですが」

「ああ、それはゲームのロードです」


「なるほど。そちらでゲームを起動したのですね」

「いいえ、起動していません」

「えっ? じゃ、このロードは?」

「そちらにダウンロードしているのです」

「えええっ? このHMDに、ですか?」

「はい。1TBの容量のSSDがありますから、今回のゲームは余裕です」

 なんだ、そのテラバイトのSSDって。無駄とも思える大容量を何に使うのか。


「ゲーム丸ごとダウンロードは、めちゃ時間がかかるのではないですか?」

「丸ごとが何を指すかによりますが」

 用語の常識度を疑われたようで、ちょっとムッとした。


「丸ごとと言ったら丸ごとです」

「全部という意味?」

「ええ」

「全部はとてもとても。エンジンとか必要なもののみです」


「だとすると、たとえば、マップとかグラフィック関係のデータとかはゲーム機側?」

「そんな感じです。音声データも同じく」

 なら、わかる。

 いや、まてよ、

「ゲームのカセットをこのHMDにプスッと刺せばいいのでは?」

「今度検討します。そのアイデアいただきます」

 おお、提案できた。

 顧客満足度アップには、提案が重要。


 これ以上スペックがらみのことを聞いてもデバッグとは無縁な気はするが、興味があるので首を突っ込んでみる。

「ダウンロードのスピードは、どのくらいですか?」

「正確に計ったことはないですが、理論上は10Gbpsまで受信できますから」

 おいおい、10ギガって、それって5Gの無線のスピードだろ。


「いったいそんなスピードをどの周波数帯域で出すのですか?」

「企業秘密です」

 出た! 伝家の宝刀、再び!


「HMDはコードレスみたいですが、どのくらいバッテリーが持ちます?」

「6時間くらいなら。充電も同じ時間くらいで」

 割とハイスペックらしい。

 だから重いのだ。


「バッテリーの寿命は?」

「1年くらい」

 だんだん、デバッグと関係ないことまで興味本位で聞いている自分に気づき、この辺で首を突っ込むのをやめることにした。



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