デバッグ用にドキュメントがない
だんだんネタが尽きてきたので、肝心なことを聞いてみる。
「チェックシートはあるのですか?」
「ありません」
「じゃ、僕の方でシナリオとか仕様書とかで作るのですか? と言ってもゲームのチェックシートは作ったことないのですが」
「作らなくて結構です」
「でも御社から提示していただくものは、ないのですよね?」
「ええ」
「どうやってデバッグをやるのですか?」
「ご自由にプレイしていただいてかまいません」
「そうは言われても、シナリオとか仕様書とか、操作マニュアルもありませんか?」
「ありませんというか、今は公開できません」
「じゃあ、現在進行形で作っている最中と」
「これからです」
それって、『ありません』だろ。
「HMDの操作マニュアルも?」
「はい」
「なんでもいいのですが、仕様がわかれば」
「ありません」
何もないときた。
僕の経験上、デバッグに駆り出されるとき、ドキュメントなしは時々あるパターン。
あってもペラペラ、中身が薄いドキュメントが多い。
仕様変更が反映されていない機能設計書。
プログラムのソースからコメントを引っこ抜いただけの詳細設計書。
自分がデバッグするからといって手を抜いている試験手順書。
いろいろなケースに遭遇するが、今回は、いや今回も何もないときた。
「あのー、それじゃデバッグができないのですが」
「まずはHMDを装着して、ゲームをプレイしていただいて、おかしいと思ったらチャットで報告してください」
『いいんですか、そんなんで』と声を大にして言いたい。
「僕の感覚をデバッグの基準に置くことになりますが」
「それでいいです」
「本当ですか? それで『コンシューマ向けの製品』のデバッグになるならいいのですが」
「初めてのゲームでもそれなりに操作できて、ゲームにお詳しい方が担当されると伺っていますから、こちらも心配していません」
そうか、なるほど。
山本さんが僕のことをそう宣伝したのか。
僕がやる気を出すと思ってそういうことを言ったのなら、逆効果で、そんな斜め上に持ち上げられても困るのだ。
今まで聞いた話を総括してみよう。
チェクシート、ありません。
マニュアル、ありません。
デバッグの観点、ありません。
とにかくかぶってください。
とにかくプレイしてください。
とにかくプレイ中に触れて感じてください。
以上。
どうも、いろいろなことを隠してこちらに操作をさせて、マニュアルを読まないファーストユーザ的な反応を見ようとしているように思えてきた。
しかも、ガチのゲーマーみたいに思われている。
買いかぶりも甚だしい。
正直、期待されているとおりの操作ができるのか、不安タラタラである。
本当に実験台になっていないことを祈る。
HMDをかぶったら頭がビリビリこないよな?
山本さん。ここまで盛ってくれたお礼は、ビール1杯じゃ済みませんからね。
僕は頭のTODOリストにその言葉を刻んだ。




