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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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デバッグ用にドキュメントがない

 だんだんネタが尽きてきたので、肝心なことを聞いてみる。

「チェックシートはあるのですか?」

「ありません」

「じゃ、僕の方でシナリオとか仕様書とかで作るのですか? と言ってもゲームのチェックシートは作ったことないのですが」

「作らなくて結構です」


「でも御社から提示していただくものは、ないのですよね?」

「ええ」

「どうやってデバッグをやるのですか?」

「ご自由にプレイしていただいてかまいません」


「そうは言われても、シナリオとか仕様書とか、操作マニュアルもありませんか?」

「ありませんというか、今は公開できません」

「じゃあ、現在進行形で作っている最中と」

「これからです」

 それって、『ありません』だろ。


「HMDの操作マニュアルも?」

「はい」

「なんでもいいのですが、仕様がわかれば」

「ありません」

 何もないときた。


 僕の経験上、デバッグに駆り出されるとき、ドキュメントなしは時々あるパターン。

 あってもペラペラ、中身が薄いドキュメントが多い。


 仕様変更が反映されていない機能設計書。

 プログラムのソースからコメントを引っこ抜いただけの詳細設計書。

 自分がデバッグするからといって手を抜いている試験手順書。

 いろいろなケースに遭遇するが、今回は、いや今回も何もないときた。


「あのー、それじゃデバッグができないのですが」

「まずはHMDを装着して、ゲームをプレイしていただいて、おかしいと思ったらチャットで報告してください」

 『いいんですか、そんなんで』と声を大にして言いたい。


「僕の感覚をデバッグの基準に置くことになりますが」

「それでいいです」

「本当ですか? それで『コンシューマ向けの製品』のデバッグになるならいいのですが」

「初めてのゲームでもそれなりに操作できて、ゲームにお詳しい方が担当されると伺っていますから、こちらも心配していません」


 そうか、なるほど。

 山本さんが僕のことをそう宣伝したのか。

 僕がやる気を出すと思ってそういうことを言ったのなら、逆効果で、そんな斜め上に持ち上げられても困るのだ。


 今まで聞いた話を総括してみよう。


 チェクシート、ありません。

 マニュアル、ありません。

 デバッグの観点、ありません。


 とにかくかぶってください。

 とにかくプレイしてください。

 とにかくプレイ中に触れて感じてください。


 以上。


 どうも、いろいろなことを隠してこちらに操作をさせて、マニュアルを読まないファーストユーザ的な反応を見ようとしているように思えてきた。

 しかも、ガチのゲーマーみたいに思われている。

 買いかぶりも甚だしい。


 正直、期待されているとおりの操作ができるのか、不安タラタラである。

 本当に実験台になっていないことを祈る。

 HMDをかぶったら頭がビリビリこないよな?


 山本さん。ここまで盛ってくれたお礼は、ビール1杯じゃ済みませんからね。

 僕は頭のTODOリストにその言葉を刻んだ。



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