リアルに人の感覚を再現するHMD
五感のうち、特に触覚関連が気になるので、聞いてみる。
「ゲーム内部で叩かれたらどうなります?」
「少々痛いだけで、実際の痛さは再現しません」
「刺されても?」
「はい。痛いですが、怪我はしません」
「ゲームの中で腕を切り落とされたりしても?」
「痛みはどれも同じです」
「首ちょんぱでも?」
「どういう意味かはわかりませんが、ミンチにされても怪我はしません」
される前にゲームオーバーだろ。
「相手が触ってくるというか、腕をつかまれるとどうなります?」
「つまかれた感じはします。相手が手を握ってきてもそのように」
「手の温度、つまり、相手の体温も感じますか?」
「ええ」
「ギュッと握られると?」
「そのように感じます」
「ハグされても?」
「はい。ハグされた感じになります」
「だけど、ハグから急に鯖折りになっても、痛くはない」
「そんなことをする女性はいませんが」
いたら怖いぞ。キャーッて抱きついてボキボキだもんな。
「いや、女性に限定していませんが」
「男性がハグにみせかけた鯖折りですか。まあ、……はい。痛み系は押さえています」
ずいぶん、ピンポイントだな。
いやいや、嘘だろ。
これをかぶっただけで、現実世界と同じく痛みや温度を感じるなんて。
現代の最新技術をもってしても常識を超えている。
それを、さも当たり前のように言う。
実に滑稽である。
まあ仮に、一部の会社で超絶に技術が進歩していて、万が一、いや百万が一、これが事実だとしよう。
それらは多くの人の興味を引くので、何も隠すことでもないように思えるのだが。
まだ言っていない何かがあるのでは、と気になるので質問を続ける。
「氷に触ったら冷たく感じますか?」
「感じます」
「火に触ったら?」
「熱いですが、火傷はしません」
「ツルツルしたガラスに触ったら?」
「そう感じます」
「水の中にいる魚を触ったら?」
「そのように感じます。冷たい水の中でヌルっと」
「水の中に手を入れて水が凍ったら?」
「氷の中に手を入れている感じがします。ただし、凍傷にはなりません。火傷もせず、凍傷にもならないのは、ゲームをするプレイヤーの安全を考えてのことです」
まあ、そうでしょうねぇ。購入者が二度とプレイしなくなるし。
声はどうなるのだろう、と聞いてみる。
「もしゲーム中に自分が声を出したら?」
「ヘッドフォンから聞こえます」
なるほど。これは普通だ。
「でも、厳密に言うと、自分の声は骨伝導でも伝わるので」
そんな厳密性なんか要らない。
体を動かすとどうなるのだろう。
自分の体を使う場合は首や手だけではない。足もある。
「歩くときは、足を使うのですか?」
「足で歩いて移動します。すると、その動きに追随して景色が移動し、歩いているように見えます。ただし、プレイエリア内の移動だけですが。後はテレポートでフィールド内を移動してもらいます」
「プレイエリア?」
「はい。ゲームをやる前に、危なくないように、プレイエリア内部は片付けていただく必要があります」
マニュアルに書かれた注意事項みたいなことを言い始めたよ、山田さん。
言われなくてもそれはわかります。PL法対策ですか。
でも、ゲームの基本姿勢がごろ寝である僕は、そんなのは関係ない。
「寝転がった姿勢のままで歩き回りたいのですが」
「普通、ゲーム中は、プレイエリア内で歩き回るのですが……」
「なんかコントローラみたいなもので移動できませんか?」
「コントローラで?」
「はい」
「まあ、あることはありますが」
彼はそう言って、<カオス>の中に手を突っ込んでごぞごぞ探し始める。
しばらくすると、家庭用ゲーム機でよく見かけるコントローラを取り出す。
えっ? こんなコントローラでいいの?
普通、VR専用の片手で持つコントローラというかリモコンがあるはずだが、これでいいとは不思議である。
「VR専用のコントローラというかリモコンではないのですか?」
「それでも動くのですが……」
なんだ、あるじゃないか、と思った。
「なぜ使わないのですか?」
「今壊れていて……」
「ガクッ……」
「これで勘弁してください」
まあ、念力で歩く指示をするなんて言われたときには、ますます怪しさを増すので、これでもあるだけいいか。
「しょうがないですね。……このコントローラもワイヤレスですか?」
「はい。コードが絡まらないように」
ワイヤレス、つまり、無線でいろいろつながるようにしているのは便利かも。




