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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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運命を決める夕食メニュー

――満開の桜が散り始めたある日の夕方。スーパーマーケットにて。


「ねぇ、お、お兄ちゃん。……ゆ、夕飯、……何食べたい?」


 右斜め後ろから問いかけてくる俺の妹は、昔から照れ隠しが下手くそだ。

 顔にも声にも態度にもすぐ出てしまうので、実にわかりやすい。


 今だって、声だけでわかる。

 何年付き合っているんだ、おっと、妹だから、何年一緒に生活しているんだ、か。


 痛ててっ!


 今、俺の右腕がギュッとつままれた。

 一瞬、なんで肉をつまんでくるのかわからなかった。

 でも、俺が痛いことを指先で敏感に感じ取ったのか、つまんだ張本人は指の力を緩め、それをサッと布の上に滑らした。

 そして、今度は袖がギュッとつままれ、強くクイクイッと引っ張られた。


 ああ、そうか。


 勢い余って兄貴の腕の肉までつまんでしまった事故(アクシデント)に慌てたのではない。

 『夕食どうするのよ』でもない。

 これは、『こうなったのはお兄ちゃんのせいよ!』だな。

 たったこれだけの指先の動きと引っ張り具合で、妹の心模様がよくわかる。


 本当はこうした妹の動揺がちょっと面白いのだが、人前を配慮し、ここはニヤけた顔を封印する。

 えっ? 何、動揺させているんだって?

 いやいや、そんな意地悪な兄貴ではない。俺はこう見えて妹思いなのだ。

 今ちょうど、声のする方に『ゴメン、同情するよ』という表情の顔を向けてやろうと思っていたところ。

 だって、原因は俺で、こうなってしまった妹が実に気の毒なのだから。


 今俺たちはスーパーマーケットの青果コーナーと精肉コーナーの真ん中にいる。


 袖を引っ張られたので、俺の視線は、それまで眺めていた色とりどりの果物が置かれた棚から、色鮮やかな赤色のオンパレード、グルメの心を鷲摑みにする高級精肉のショーケースへと移った。


 視界の中心に入ってきたのは、頭一つ低い位置にある妹の丸い顔。

 声で推測したとおり、その表情は、恥ずかしそうな、困ったようないつもの表情だ。

 妹が今朝卸したおニューの黄緑のワンピースが赤色をバックに鮮やかに映えるのだが、今はそれよりも何よりも、この気の毒な妹の顔に目が釘付けになってしまう。


 この場をどう振る舞えばいいのか助言(アドバイス)を求める妹の緑色の(まなこ)

 か、かわいい……。


 おっと、いかんいかん。

 愛くるしい小動物のすがるようなまなざしを連想してしまう。


 首をちょっと傾けることで揺れる妹の金髪のツインテールと前髪は、毎日丁寧に手入れがされているからサラサラだ。

 それらが揺れると、フローラル系の香水の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。

 妹の部屋を満たしているいつもの匂いだ。


 おや? 頬が真っ赤だ。前見たときより一層赤くてリンゴのよう。


 おいおい、妹のことばかり言っているが、お前はどうなんだって?

 ハハハ。何を隠そう、実は、俺も頬に熱を感じている。

 もちろん、風邪か何かではなくて、妹と同じく照れているのだ。

 人のことばかり言えないな。


 ん? 二人して照れているのは、俺と妹がデート中だからって?

 いやいや、照れの原因は、妹の後ろからニヤニヤしながら付いてくるあいつら、いやいや失礼、お嬢さんたちなのだ。

 正確には妹と同じ大学一年の同級生。

 しかも四人。


 ここで、今からさかのぼる、といっても10分くらい前の話なのだが、なぜこうなったのかについて語ろう。


 俺が今年から通っている専門学校で、実習が珍しく早く終わったから、喜び勇んで校舎を出ると、歩道でばったり妹に出くわした。

 えっ? 俺と妹の年齢差を考えると、俺ってダブりかって?

 まあ、そう思われても怒りはしないが、実は、俺と妹は双子なのだ。


 昨日、デパートで妹のよそ行きの服選びにさんざん付き合わされた。その時に俺が選んでやった黄緑のワンピースが人混みの中でも輝いて見えたから、すぐにわかったのだ。

 選んだ俺も嬉しい。いいセンスしていると自画自賛。


 その次の日にばったり出会うなんて、こんな偶然はそうそうない。

 何かいいことでも起こるのか。


 それで嬉しくなって、すまして歩く妹に「よっ」と声をかけてしまったのだが、これが全てのことの始まり。

 まさか妹の後ろに、同級生がくっついてきているとは思いもよらなかったのである。


 運の尽きとは、正にこういうこと。


 俺たちがまだ高校生だったら、彼女たちは同じ制服なので、妹の周りに群れているのは間違いなく同級生だろうと警戒したのだが、今年から妹は大学生なので、同級生ともども個性あふれる私服に身を包んでいる。


 それで、彼女たちがその辺の通行人に見えてしまい、妹一人だと思って声をかけてしまったわけ。

 たまたま彼女たちの会話が途切れたという、不運もあるが。


 それからは、行き交う通行人の目耳を顧みない彼女たちによって、飛び入りの兄貴が話題の中心、悪く言うと(さかな)になってしまった。

 彼女たちにしてみれば、妹から聞いている噂の兄貴の登場である。

 しかも、双子の兄だとなれば、興味津々だろう。


 さて、互いの自己紹介から始まってすぐ、

「仲がいいの?」

「買い物行くの? ついて行っていい?」

「これから家に遊びに行っていい?」

「兄さんを紹介して」

と好き勝手なことを言う四人。


 仕舞いには、この四人プラス困り果てた妹を引き連れて、近くのスーパーマーケットへ夕食の食材を買いに行くことにあいなった。

 そう。全員でお買い物。

 なぜなら、いつの間にか『これから俺たちの家で食事会をする』ということが、話の流れでなんとなく決定事項になってしまったからだ。


 しかも、俺が料理上手だと妹にバラされてしまい、というか、妹が友達に誘導尋問で無理矢理言わされた感があるのだが、これで彼女たちの期待度が急上昇。

 どうにも逃げようがない。


 六人分なんて、ちょっとした大がかりな食料調達は、高校時代の夏休みに友達とやったバーベキュー以来だ。

 だが、あの頃が懐かしいという思いには浸っていられないのが、今の心境。


 初対面の女の子を目の前に、普段どういう買い物をしているのか見られるのは、正直言って恥ずかしい。

 買い物でお気に入りのスナック菓子や食玩が外せない俺の生態がバレてしまう。

 それらの棚を前に通過するのは、苦痛でならん。


 といっても、全部俺が蒔いた種で、今回の責任は全部こちらにあるのだが。


「いつもお兄さんと一緒にこのスーパーでお買い物しているの?」

 ちょっと舌足らずな口調でふわっと優しい声をかけてきた彼女は、甘味(あまあじ)アミ。

 丸顔。やや細くて少し垂れ目。水色の瞳。細い眉。ほんのきもち低い鼻。今時珍しい黒髪で、お尻まで届くロングヘア。


「いいなぁ、うらやましいなぁ。私、お兄ちゃんがいないから憧れているの」

 しっかり者でハキハキとしゃべる、頼れるお姉さんのように見えて、実は甘えん坊的な声をかけてきた彼女は、香味(こうあじ)マイ。

 面長。ぱっちりした目。金色の瞳。きりっとした眉。すらっとした鼻。オレンジ系の色の髪で、腰まで垂れたポニーテール。


「兄弟愛を見せつけられると困るんですが」

 女の子にしてはどこか少年を思わせる少し低いトーンで落ち着いた感じの声の彼女は、辛味(しんあじ)ヒロ。

 丸顔。少し垂れ目。ターコイズブルー(青緑)の瞳。少々太い眉。やや高い鼻。銀色の髪で、短めのショートヘア。


「今日の夕飯はお兄さんのセンスで決めてね。よろしく!」

 誰にでも積極的に声をかけそうな元気な彼女は、塩味(しおみ)リノ。

 面長。ぱっちりした目。茶色の瞳。細い眉。高い鼻。紅色の髪で、ショートボブ。


 ここに妹の渋味(しぶあじ)シズが加わる。

 さっきも少し紹介したと思うが、丸顔。かわいらしい目。緑の瞳。かわいい眉。かわいい鼻。金髪でツインテールもかわいい。

 しまった。かわいい連呼。ボキャブラリーが足りない。

 でも、かわいいとしか言葉が思いつかない、俺の自慢の妹である。


 彼女たちは実に個性豊かで、色とりどり。

 果物にたとえても良いかも。


 さて、夕食の候補は以下の5つだ。


  カレーライス

  ミートスパゲティ

  肉じゃが

  すき焼き

  ステーキ


 夕食の候補が決まった時点で、妹はいつまでも同じ表情のままじっとしている。

 待たせるのも悪い。さっさと決めないといけない。

 決断が迫られる。

 さあ、どうする!


   ◆◆


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