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出勤三日目 会社 前編

昨日の今日でもう出社の時間が近づいている、社会人と言うものは常に時間に縛られているのだと改めて思わされるところだ、

朝御飯の皿を片付けながら、俺は昨晩のデートの事をまじまじと思い出している、

先輩は、俺の事が好きなのだろうか…と言うことは後回しにして、

なまじっか男に恐怖心を抱いている、と言うわけでもない様子。

お酒に酔うと、男女の区別もついていないのだろうか?

少なくとも自分はそうでもないし、

先輩だけの特別な体質というものかもしれない。

そんな風に思いを馳せているとあっという間に時間は来てしまう、

もう出社しなくては。

会社につくと、いつも通りの光景が流れる、

均等に並んだデスクと、その上のカオスな書類の山、まだ朝だからか、椅子に主の姿はない。

今日はいつもより余裕をもって来れたので、コーヒーを淹れてから、タイムカードを取ることに。

ここのコーヒーはインスタントと階段の近くにある自動販売機のコーヒーの二つ、

インスタントはコーヒーサーバーが設置されている、なんでもサーバーを置くのは無料で、コーヒー豆を買うシステムとなっているらしい、

インスタントにしては中々美味しいので、朝の時間があるときや昼休みはここに人の列が並ぶ。

自動販売機の方は、忙しい時に少しひっかけていく営業や、外からの客が買っているようだ、

味はともかく、手間はこちらの方がよほど楽なので、俺もこっちを多用することが多いのだが、

今日は何となく、コーヒーサーバーの方に気分が向いた、いい予感がしたのだ。


「おはよう、古市くんも今日はサーバー?」

「ええ、時間もあるので」


予感はうまく的中してくれた、

恵美先輩もいつもは自動販売機の方に行くのに、珍しいこともあったものだ、

サーバーも悪くないな。

出来立てのコーヒーを飲みながら、軽く話をする

「昨日はありがとう、お酒の新しい境地を知ることとなったわ」

「いいえ、こちらこそ米酒飲む人が増えて、よかったです」

米酒独特の甘さは、中々癖になると聞いて、実際自分もその一員なのだが、先輩がその中に加わったのはとても嬉しい。

「朝からお酒の話かい?お二人さん」

と、話をしていたらひょうきんな声が後ろからこちらへと呼び掛けている、恐らく知人だろう、

俺も先輩もその顔を知っている。

「鹿児島くんじゃないの」

「どうも、恵美先輩、古市」

「鹿児島先輩、おはようございます」

鹿児島先輩は俺の直属の上司となる男性社員で、

先輩の部下でもある。

営業のエースと呼ばれており、その持ち前の明るさと勢いの良さで、契約を勝ち取っていく、

よその会社からは「鬼の鹿児島」

と恐れられているが、社内の人間からすればただの元気な人間でしかない。

その鹿児島先輩がここに来たのは、俺に用があると言うらしい、先輩との時間はとても惜しいが、

鹿児島先輩も尊敬に値する人間なので、素直についていく。

「それじゃまたね、古市くん」

「はい、それでは」

鹿児島先輩は俺を連れ、会議室へ向かっていく、

今日の用事は恐らく俺も関係してくる、

うちの課にとっての何かなのだろう。

「おお、鹿児島、古市、よく来たな」

会議室にはすでに上役が勢揃いといった様子、

スクリーンにはよその、うちのライバルとなっている企業の名前とグラフが上がっている。

「鹿児島、今月のノルマとして出していた、

10社との契約達成を見込んで、和歌山に指令を伝えて欲しいのだが…」

「…なるほど、古市、わかってるよな、今の状況」「はい」

ライバル社のグラフが、ここ最近急上昇している、このままでは完全に均衡状態から出し抜かれてしまいかねない、危機であった。

「確かに最近CMを打ったりしてたけど…ここまでとは…」「古市、状況ってのは常に巡りめぐるものなんだ」

しかし、どこかきな臭い成長である、

50が80に、80が200に、

しかも、その系列として上がっているリストは、うちとは関係はないが、別の会社の契約リストにも乗っていたような名前ばかり、

まるで…

「古市が今考えているであろう、

インサイダーの類いも疑われるが、この件については我々の仕事ではない」

そう、上役に読み取られたように、

この成長は、よその会社との協力によるインサイダー取引の可能性があるのだ、

もしそうなってしまえばわが社にとっても、いや業界全体に火の粉が降りかかるかもしれない。

結局、その日俺たちに課せられたのは、

「別のルートを開拓して、ゆっくりでもいいから新しい根を拡げろ」とのことだった。

妥当な線であるが、先輩に伝えると、顔が真っ青になってデスクの書類をぶん投げようとしてしまった、

慌てて鹿児島先輩か取り繕おうとするものの

「この時期の中で!?これから下半期よ!?」

そう言ったきり、先輩はすっかり黙りこんで、しゃべらなくなってしまった。

不穏な雰囲気になりかけていたところで、

鹿児島先輩が俺にボソッと話しかけてくる

「今日は早上がりして、先輩の機嫌を何とかしろ」

…つまり、飲んで愚痴を聞け、と言うことだ、

先輩はこの社を回すに当たって必要な存在、

何とかしないといけないのだ。


黙りこんでいる先輩の近くに行き、

飲みに行こうと誘うと、先輩はあっさりと承諾し、早上がりすると鹿児島先輩に告げて俺を引っ張り夜の酒場へと潜り込んでいった。



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