出勤五日目 社内→馴染みのバー 中編
先輩は今か今かとお酒を待ちわびている様子なのだが、やはり俺とはそれほどに目を合わせず、顔を覗きに行くとそっぽを向かれてしまう、
いったいどこで俺はへま打ってしまったのだろうか。
この店に恵美先輩と訪れるのは二回目だ、俺にしてみればあれからも結構通ってこそいたが、
店内に入るといつものように時が流れており、
常連の客らはカウンターで静かにグラスを曇らせ、また接待の社員は取引先と思われる男のグラスを見ながら、いつ注ぐべきかを追うように確認している。
「やあマスター」
「おお、古市さんじゃないですか、また先輩の方を連れてこられたのですな」
「ええ、まあ」
恵美先輩を席に座らせ、互いにメニューを覗くが、やはりやけに遠慮くさい、
まるで取って食われるんじゃないかと警戒されているかのようでもある、
本当に訳がわからないので、今日はとにかく酔わせて、本音を引き出してやろうと目論んでいる。
「先輩ワイン飲みます?ボージョレ・ヌーボーの年代物をストックしてあるのですが」
「え!?え、ええ、ええ」
えしか言われていないが、恐らく了承されているものと思われる、そう言うことにしておこう、
しかしいつもの恵美先輩ならボージョレ・ヌーボーなんて出したら大喜びだと思ったのだが、そこは少し残念ではあった。
「お待たせしました、ボージョレ・ヌーボーです、野菜盛りで是非ご賞味ください」
銘柄こそメジャーではあるものの、このワインの真価を正当に引き出す飲み方と言うものはそこまで知られていないのではないだろうか、
これは、食材の味も合わせると志向の味となり、その美しい味を体の心まで染み渡らせる、
生ハムでくるんだレタスを口にした後などに、
そっと口に注いでいくと、それはもう夢の世界に飛んでいきそうなほどに幸せな気分を味わうことができる、
現に恵美先輩は、先程から来たときよりずっと顔がほぐれている、やはりお酒と言うものは心の鍵を開けられるキーなのであろう。
「どうです、この組み合わせ最強でしょう」
「悔しいけど、今までにない感触よ、
やっぱり君は、太一くんは…」
そこまで言いかけて、先輩は口を紡いでしまう、そしてメモを取り出すとそこに何かを書き、
俺の目の前に差しだす、
そのメモの内容は「約40分後、ここを出て公園で話したいことがある」
何なのかはわからないが、俺はなぜだか心に冷える感触を感じられずにはいなかった、
それこそ、お酒で流してしまいたいほどに。




