番外編 和歌山恵美の少し長い夢 前編
時々、同じ夢を見ることがある、
それは和歌山恵美を不意に油断させる魅惑の夢、
これまで自分でかなぐり捨ててきた、恋人がいる夢、その相手は…
駅のホームで仁王立ちしている女性がいる、
女性の服の基調は白で統一され、清廉潔白という言葉を思わせるような面立ちをしているが、
そんな女性の顔は多少怒ってこそいるものの、
それ以上の嬉しさを隠せていない。
「すいません、遅れました」
「!」
しばらくすると、そこに一人の男が言葉と裏腹に余裕そうにして女性の前に姿を表す、
男は特に着飾ることもなく、まるで休日男友達と遊びに行くかのようなラフな服装をしていた、
男を見かけるなり、女性の顔が花の咲いたように明るくなるが、すぐに咳払いをしてごまかし、
「最初のデートから遅刻ですか」
「いやあ、ついいつもの感覚で…すいません、恵美さん」「恵美って呼ばないとやだ」
怒っているようにこそしていたものの、
「はいはい恵美は寂しがりですねーっと」
「撫でんな!…でも続けて」
頭を撫でられるとすぐに犬が尻尾を振るがごとくご機嫌になっていた。
「今日はどこに行きたいですか?」
「水族館、イルカとかみたいな」
かねてから恵美にはデートするなら水族館と願望があり、晴れて恋人と結ばれたので、
ようやく暖めていたデートプランを実行できると喜んだ。
「それじゃあ行きますか」「おー!」
それから二人は電車に乗り、その中で他愛のない話をしていた、仕事の話や最近のマイブーム、
話題が尽きることはなく、あっという間に水族館へとたどりついていた。




