出勤四日目 社内→社内会議室 中編
先輩に連れられ、会議室に足を運ぶと、もう既に数々名のある上役に、支社の専務格が顔を出し、先輩の登場を待ち構えている、
焦りのある者、状況把握できていない者、
様々に反応が見られる中、先輩が席につく。
「和歌山君が来た事だし、話を始めようか」
「単刀直入に言うが、和歌山君、嘘偽りを語ってこの場に立っている訳じゃないのだよな」
「はい、私は確かな確信を持ってこの場におります」
先輩直属の常務こと長崎常務が再度確認をして、先輩への口頭での質問を始め、
周りの上役は食い入るように先輩が語り出すのを今か今かと静かに固唾を飲んでいる。
先輩は、静かに話し出す。
「ハッキリと言いますとこの社内には内通者がいるものと思われます」
途端にざわめきだす、あまりに当然の展開、
互いが互いを疑い、まとまりが無くなってしまっている、
ただ僅かに落ち着き払っていた長崎常務が咳払いし、ようやくその波は静まり、
次の先輩の言動へと意識を傾けていく。
「実は、この間から調べていた物で、
この取引が表立つのを実際タイミングとしては待っておりました」
「口上はいいから、早く結論を言いたまえ」
長崎常務に急かされて、しぶしぶ先輩は答えを述べる、それは考えたら実に明快な答えで、
その上今青ざめている上役達の顔を元に戻すような答えだった。
「労働組合のリーダーが、配当金の取引を前提に、我が社の行動を先流ししていたのです
前年度の賃金の上昇率に恐らく不満があったものと思われます」
上役等がざわめく「労働組合が?」
労働組合とは毎年賃金上昇に向けて運動している組合であるのだが、
うちの労働組合は行動言動が荒く、
その実結果もあまり出せずにいたために、
正直なところ不満を貯めるばかりの組織であった
「…つまり」
「はい、これは労働組合で行った取引です、わが社に受ける被害は…上役等が関わっていないので、あればこの話は比較的軽く済みます」
その途端にホッと上役達が一息つく、
この様子を見る限り、上役達がインサイダーに関わっていると言った様子は全く見られない。
先輩も堂々としていて、長崎常務も静かに頷いている。
しかし、それで終わるとは俺はさっぱり思ってない、
先輩の、和歌山恵美の狙いはここに無かったのだ、
安堵する面々を見渡し、先輩はあらかじめ用意しておいたパソコンのスクリーンを開き、俺にプロジェクターを起動するように指示し、
不思議な笑みを浮かべている。
「まあ実際問題は専門の方々に任せるとして…
労働組合の、訴えたいところの賃金について
個人的にちゃんとグラフで表してみました」
先程までとは表情を一転させ、
グラフの数字を見て、唖然とする上役達、
長崎常務は、俺の横で「やられた」
と呟いてお手上げの仕草をしていた。
「また同じ事が起こらないよう、専務らには公正な賃金の上昇を
期待しております」
そこまで言うと先輩は席に戻り、他の面々の質問を待っている、
するとある一人の部長が「労働組合の証拠は?」
と述べたのだが、先輩は待ってましたという表情で、スクリーンにある画像を貼り出す。
「こちら、本人に秘密で机の上を覗いたら置いてありまして、無用心には気を付けないといけませんね」
そこにはライバル社の社長の名前と連名で労働組合のリーダーの名前が書き連ねてある証明書が写し出されていた。
「…さすがだな、和歌山」
質問した部長も思わず先輩を誉めるしか他ない、
そうした流れで、今日の会議は終了、
上役は早速行動を開始し始めるらしい、
ちなみに、賃金についても早急な改善を確約していた、
帰りに長崎常務が先輩に笑顔で話しかけているのを見るところ、常務も疑ってこそいたのだろう、
ただ行動に移せる役職に居なかっただけで。
「皆、賃金上がるよ」
付いてきたメンバーは外で結果を知らされると歓喜し、意気揚々と部署へと戻っていった、
まだ鹿児島先輩は微妙な顔をしているが、
まあそのうちそちらも先輩が懐柔するであろう。
「とにもかくにも、終わってよかったですね」
「うん、よかったよ、本当にね」
ただ、常務と話をしてからの先輩は、少し様子がおかしいのであったのだが、
この時はまだ重要視していなかった。
先輩は帰りに俺を含めた先輩に賛同した面々を居酒屋に連れていき、祝杯をあげた、
その宴の最中に、先輩に呼ばれ、
「これ終わったら帰りもう一軒寄らない?」
と誘われたので、一通り宴が終わって、他の面々に二次会に誘われる中、
俺と先輩は上手く断って、二次会の場所と被らないように、少し離れた場所で飲み屋を探すことにした。




