出勤三日目 会社→ラーメン屋→先輩の家 後編
先輩に連れられ、ラーメン屋を出ていく、
いつもならきっと抵抗していただろう、
しかし今日は攻めの姿勢と決めていたのだからと、
せっかくの先輩のごはんのお誘いだとかなり強引に割りきって、後ろをついていく。
先輩が住んでいると言う場所は少し都外に出た所にあり、
暗がりを照らす電灯は、公園の物より古く、
時に消えたりしている、
まるでここが先輩が子供の頃からあったかのような、そんな雰囲気が漂う。
そんなことを思いながら歩いていると、あっという間に目的地が近づいていた。
先輩の住むアパートは木造で、今時滅多に見ないような古さで、昭和に生きていると錯覚させられる、本当に昔に戻っているのではないか?と
先輩に年齢を訊ねてみる、殴られた。
「まったく、家につくなり年齢を聞くなんて何事よ」
「すいません、少し混乱していたようです」
そう語っている自分の口調は非常に冷静である、
だが実際は緊張で心臓が張り裂けそうになって、その鼓動を止めるのに必死だ。
先輩の部屋は1LDKで、リビングにはよくあるような雑貨が置いてある、
日頃、あまり人を招くことも無いのだろうか、本が雑多に散らばっている、
まさにこの位置、手に届く位置、を意識しているのだろう、
なぜなら自分もそうだから先輩の気持ちは悲しいほどによくわかる。
「あまりじろじろ見ないでよ!」
と遠くのキッチンから聞こえてきたのでそろそろ部屋を見るのをやめて、これまた適当に置かれているソファーに座ってみる、
先輩は料理を作っているようだが、
先程から臭いがおかしいのは気のせいだろう、
まさか先輩がそんなごはんを作れないなんて、
気をごまかそうと、まるでこうしてると本当の夫婦みたいだなんて言う気持ちに浸って現実逃避する。
「はい、出来たよ!カレー!」
先輩が目の前に出したカレーは
見た目は普通だ、
具も変なものは入っている様子はない、
きっと先程の臭いはガスだったのだろうと安堵して、いざ口に入れてみると。
「なんだ、これは」
先輩によると、これが俺の遺言だったらしい。
翌朝、目覚めると俺は先輩のベットで寝かされていた、
先輩はまだ寝ているらしく、床に布団を敷いて小さな吐息をたてている。
昨日何があったのか整理してみる、
俺はカレーを食べて、倒れた、
本当にこれだけなのだ、
味は、なんと言うか、
舌に電撃が走り、辛さが来て一瞬で怒濤の甘さが襲いかかってきて、最後は生肉のような苦みにやられたのだ、
「やれやれ…」
一緒に出勤して誤解を招くわけにもいかないので、俺は先輩より先に部屋を出ようとしたのだが、腕を捕まれていて動けない、
恐らく無意識なのだろう。
仕方ないので、起きるまで待っていることにした。
「ん…」「おはようございます、先輩」
「あ、おはよう…ええっ、何でいるの!?」
「わかりました、順を追って話します」
それから説明をすると、先輩は真っ赤な顔になって謝ってきた、
料理で気絶なんて、ネタにもならないといった様子だ。
「まあ、それはそれとして…
先輩、落ち着きましたか?」
「ああ、昨日のことね…あー」
先輩は、まるで何かをつかんでいると言う様子で、頭を掻いてばつの悪そうな顔をしている、
昨日のことを落ち込んでいるのか?と聞くと、
「そうじゃない、まあ詳しいことは社で話すわ」
と言ってから真剣な顔で思考を張り巡らせているんだとばかりに無言になる、
これは先輩独特の癖なのだが、
こういう行動をするときは、大体、事が大事にになる場合が多いため、むしろ大事にしか行わないため、俺も固唾を飲んでその様子を見守る。
しばらくしてから、先輩は一言放って、会社へとダッシュしていった。
「これは大チャンスよ!」
「はあ!?」
ピンチの中の大ピンチに、先輩は何を見通したのか、
そして、何をするつもりなのか俺にはさっぱりで、ポカンと口を開けているしかなかった。




