出勤三日目 会社→ラーメン屋 中編
階段を降りながら先輩の手を引いて、夜の街に逃げていく、
言いたかないがうちの仕事量は多い方だと思う、
今年の新入社員が予想外に手間取らせてくれたのもあるが、ライバル社の躍進も関係してくるだろう、
先輩の役職はマネージャー、その責任の一端を担う存在で、負担も今はとても大きい、
だからこそ、予測できた今回の事例にも我慢できなかったのだろう。
さて、今日はどこにつれていこう。
先輩をいざ連れ立ったものの、
どこに連れていくのがベストなのか…
今の先輩は見た感じストレスでピリピリしており、
顔にはうっすらと涙をにじませ、そしてお腹を…
お腹を?
「古市くん…私我慢できない…
お腹すいた」
「らっしゃいー!」
「朝からなんにも食べてないってバカじゃないすか」「何よ!私部長よ!?」
とりあえずラーメン屋に連れてきた、ここなら酒も飲めるし、何より腹は埋まる。
先輩のピリピリは空腹でした、何て報告できない、
鹿児島先輩、いや鹿児島課長にはなんと言おうかな、いや別に悪くないんだけど、結構周りも心配した中なので、気まずいな。
「先輩、朝ごはん作れないんですか?」
「うーん…作れない訳じゃないけど…」
飯の話題を振ると、先輩は頬を掻きながら、俺と目線を合わせずもじもじと体を揺すり始める、
これは新しい発見かもしれない、
万能だと言われる先輩にも苦手なことがあったとは、それも俺だけが少なくとも社内では知っていると言う状況、何だか誇らしい。
「む、古市くん、私がごはん作れないと思ってるでしょ」「そうですね」
ここはあくまで攻めの姿勢、とことん押して先輩との行動を広げていく絶好機である、
たちまち先輩の顔はぷっくり膨らんで、上目使いでこちらを睨んでいる、
ラーメンを食べたからか、顔色が回復している。
「むぅ…そうだ」
なにかを閃いたのか、先輩が目を光らせている、
先輩の感情はとても顔に出やすく、わかりやすい、いや、態度でもか。
たぶん、簡単な料理を作って、
明日辺りにでも持ってきてくれるのだろう。
そんな予測をたてていたが、先輩の、和歌山恵美の思考はそんなレベルに止まっていなかったようで。
「よし、今日これから飯を作るよ、店長!お勘定!」「え、どこでですか?」
「私の家、これも練習でしょ?」
満面の笑みでとんでもないことを叫んだ先輩に、
さすがに、さすがに今回ばかりは、
段階を踏み違えている、そう突っ込みたくて仕方なかった。




