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入社前「俺はサラリーマン」

興味があるのと、それを実際に手にしたいって気持ちは、小さいけど大きな隔たりである。

少なくとも、俺はそう思った。


素敵なものは人それぞれ、

そんなことは誰にだってわかっている、

しかし、今度ばかりは譲ることができない。

新聞を読んで俺は、片手に持ったコーヒーを震わせて、新聞の小さな記事に目を向けている。

まだ30も行ってない、

スーツ姿に白いネクタイがいつものコーディネート、俺は、サラリーマンのお手本のような姿をした男と言って間違いないだろう、

もう休憩時間も終わろうとしている時に、ふと目に入った新聞記事が、俺を震わせる、

その記事にはこう書かれていた。

「もう社内婚は古い、これからは外に出会いを見つけに行く時代だ」

そのあまりの衝撃に、

はた目も気にせず、思いきり声をあげてしまった。

「なんだと?」


俺は、古市太一

とある中小企業の営業を努めて早7年、今年で25になる。

最近ではお馴染みとなったお得意様も少しできて、心にゆとりができ始めている。

緑もなにもない、冷たいコンクリート街を朝から晩まで走り、明日のために繋いでいく。

そんな俺には気になる人がいる、

社内の太陽のような人だ。

「お疲れさま、太一くん」

「お疲れです、恵美先輩」

噂をすればなんとやら、

営業が終わったばかりで疲れているであろうに元気な声をかけてくれたのは、

ひとつ上の和歌山恵美先輩。

みんなからは「恵美ちゃん」「恵美先輩」

などと呼ばれ、親しまれている。

彼女の売りは決してあきらめない、弱味を見せないところ、何よりも元気さでは社内一。

俺はそんな恵美先輩が好きだ、

きっかけはそう複雑な理由ではなかった。

昔俺が、ヘマをやらかして叱られ、屋上で一人、へこんでいたときに隣に来て

「こんな所で寂しくないの?」とコーヒーを持ってきて一緒に飲みながら、「叱られてるのは期待されてるからだよ」などと励ましてくれた。


それからしばらくたった今、彼女は俺の事を

「気がおけない後輩」

いわゆるLikeの関係にまでなったが、いわゆるlove、彼氏彼女の関係には全然遠い。

先輩自身も最近かわいさに磨きがかかってきており、化粧をあまりしてない顔とは思えないと評判になっており、正直なところ焦りが出てきている。

そこに今朝の記事と来たらもう落ち込むしかない。

「はぁ~」

「どうしたの?」

これ以上長くやるわけにはいかない、

俺は翌日からの作戦をたてることにした。

Likeじゃなくてloveにするための、大切な作戦を。




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