有里浜上陸作戦
最近少々エタり気味な作者です。
何とか更新していけるようがんばります。
皇紀二六九四年6月12日、フロイト帝国東海岸は活気に満ちていた。
ランペリア諸島に向かう瑞樹大陸侵攻部隊の艦艇に様々な物資が積み込まれていき、東海岸で建造された輸送船が高値で引き取られた。
対日戦によって発生した軍需で経済は活気を取り戻していった。
「景気がいいなぁ、海軍と陸軍。猿相手の戦争にこんなに買い込んでいくなんて」
「それだけ本気ってことだろ。まあそんな海軍と陸軍を相手にしなきゃならん猿共は哀れだが」
「ハッハッハ、ちげえねえな!」
そんな港湾労働者の声があちこちで聞こえる。
港に停泊している巡洋艦隊を見る彼らは明るい未来を信じて疑わなかった。今は重税で苦しいが、戦争に勝てば税が軽くなり、物資が国に行き渡ると。
そんな妄想を引潮型潜水艦6隻とその後続艦である黒潮型潜水艦6隻が放った24本の酸素魚雷が粉砕した。
駆逐艦と潜水艦を中心に狙った酸素魚雷は寸分違わず目標に命中。14隻の駆逐艦と8隻の潜水艦が戦うことなく沈んでいった。
「……て、敵襲ーッ!」
海中で第2射が行われた頃、突然の事態に呆けていた水兵達がようやく動き出した。
大急ぎで機関を始動させるが、ボイラーや蒸気タービンはすぐには動かない。
第2射、48本の酸素魚雷は残った駆逐艦を全滅させ、さらには輸送艦と巡洋艦に壊滅的な打撃(輸送艦全て、巡洋艦4割)を与えた。
司令官は対潜哨戒機を出撃させたが、下手人である第五、第六潜水艦隊はとっくに逃げていた。
結局1隻も動くことなく東海岸にいた瑞樹大陸侵攻部隊の大半は海の藻屑となった。
のちに東海岸攻撃と呼ばれる作戦だが、多くの歴史家は「もしフロイト帝国が3年早く戦争を始めていれば一時的には瑞樹大陸西海岸を制圧できただろう」と言う。
それは事実だ。フロイト帝国が対日戦遂行可能になった皇紀二六九一年12月の段階では瑞樹大陸には海を除き、大なり小なり問題を抱えた兵器しか配備されていなかった。
質で劣っていてもランペリア諸島という拠点が近くにあり、日本よりも距離が近いフロイト帝国が物量で圧倒しただろう。
だがそうしていれば半年後に行われたであろう反攻作戦で主力部隊は壊滅していただろう。フロイト帝国に対する爆撃もより苛烈になっていただろうし、財務省の反発で実現しなかった5000馬力エンジン搭載の超重爆撃機も開発されて、実戦投入されていたかもしれない。
そう考えれば、フロイト帝国の選択は間違っていなかったのだろう。敗戦後に全てを奪われる王侯貴族からしてみれば間違い以外の何者でもないが。
瑞樹大陸西海岸。かつて美しい砂浜だったこの地は鉄条網と塹壕にトーチカ、対空機銃と155ミリ、203ミリ榴弾砲がずらりと並ぶ前世界のノルマンディーを超える防御地点となっていた。
飛行場も建設されたことで四式戦闘機疾風とFw190A-5に相当する九二式戦闘機、更にはキ-83を参考にした九四式双発戦闘機がいつでも発進できるようになっている。
攻撃機と爆撃機では、九四式双発戦闘機を攻撃機型に改良した九二式双発攻撃機、四式重爆撃機飛龍に五式重爆撃機連山が配備されて並みの機甲師団ではあっという間にスクラップにされるだろう。
そんな場所に陸軍国の貧弱な中規模艦隊と揚陸艦艇が制空権の無い状態で突っ込んだらどうなるか?
後世にその答えがある場所として選ばれるのがここ、瑞樹大陸西海岸有里浜である。
フロイト帝国艦隊が航空機の航続距離内に入ったことがレーダーで判明した瞬間、準備を終えていた攻撃隊は発進した。
護衛戦闘機である九三式戦闘機も127ミリ対地ロケットを6発装備して出撃した。
東海岸にいた部隊が全滅したとはいえ、それでもランペリア諸島には瑞樹大陸を攻める分には十分な部隊が残っていた。
重巡洋艦8隻、軽巡洋艦12隻、駆逐艦24隻、輸送艦40隻、潜水艦4隻で構成された艦隊に第1時攻撃隊が襲い掛かった。
まず高度4000メートルを飛行する五式重爆撃機連山の水平爆撃が行われた。
通常の無誘導爆弾に加えて無線誘導爆弾も投下されたことで重巡洋艦を中心に数隻が船体がくの字に折れながら沈んでいった。
低空では九三式戦闘機が先陣を切り、艦隊に突撃した。射程に入り次第、主翼に懸架されたロケットを外周左側にいた駆逐艦に発射した。
駆逐艦側も真っ先に自分達が狙われるとは思っていなかったため、慌てて九三式戦闘機に弾幕を張るが既にロケットの射程に収めていた彼らはさっさとロケットを打ち込んで弾幕の外へ逃れる。
左舷の弾幕が薄くなったところに500キロ爆弾2発、127ミリロケット6発装備した九二式双発攻撃機が突っ込んでいく。
先ほど駆逐艦を攻撃してきたことから次は自分達だと考えた巡洋艦群は死に物狂いで対空射撃を行う。
主翼をもぎ取られたり、胴体を爆散させられた機体を出しながら九二式双発攻撃機は巡洋艦に突撃する。
露払いも兼ねて機首に装備された30ミリ機関砲2門で対空機銃を潰しながら500キロ爆弾をバイタルパートに叩き込む。
そのまま輸送船団に接近した九二式双発攻撃機は温存しておいたロケットと機首の機関砲を用いて輸送船を撃沈していく。
20ミリ以上の砲ならば装甲なんてない輸送船に穴を開けるくらい容易い。開いた穴から浸水していき、艦体が傾斜して海に沈んでいく。
左舷の対空砲火がほぼ無くなったことで魚雷を搭載した飛龍が低空侵入する。
陣形を組み直す暇を与えず、飛龍から投下された1トン魚雷は残った重巡洋艦と巡洋艦に複数命中し、艦と乗員は守るはずだった陸軍兵4万人の内1万2千人と共に冷たい海の底に消えていった。
手持ちの弾薬を使い果たした第1次攻撃隊は帰っていった。有里浜飛行場に待機している第2次攻撃隊が出撃する頃には輸送船から上陸艇が放出され、フロイト帝国兵が砂浜に乗り上げていた。
海を多い尽くすほどの上陸艇。陸軍大国フロイト帝国が威信をかけて作り上げたそれは壮観といえるものだったが、日本からしてみれば魚の餌にすべきものでしかない。
155ミリ、203ミリ榴弾砲の砲撃と40ミリ機関砲による掃射を受けて次々と赤い飛沫を上げながら散っていく。
先頭を進んでいた上陸艇が砂浜に辿り着く頃には、8千人が物言わぬ死体となって海面を漂っていた。
それでも何とか辿り着いた上陸艇から発進した、Ⅲ号戦車に似たフロイト帝国の主力戦車であるブロアー中戦車が砂を巻き上げながら前進していく。
「進め!進め!猿共の陣地は目の前だ!」
「海に沈んだ奴らの仇を取れ!」
気炎を上げながら砂浜を駆ける彼らの足元に設置された87式対人地雷と88式対戦車地雷が襲い掛かり、そこへ40ミリ機関砲に加えて35ミリ機関砲、81ミリ、120ミリ迫撃砲。84ミリ無反動砲とM2重機関銃が放たれる。
砂浜に倒れこみ、硝煙と鉛の雨から逃れることに成功したフロイト兵達を待っていたのは、先ほど艦隊を荒らしまくった空の死神達だった。
127ミリロケットをぶら下げた九二式戦闘機と九四式双発戦闘機の編隊がブロアー中戦車を鉄くずに変え、無防備なフロイト兵を機銃でミンチにしていく。
艦砲射撃で援護するはずだった巡洋艦は飛龍の雷撃でとっくに沈み始めていた。装甲戦力も127ミリロケットと40ミリ機関砲、84ミリ無反動砲で全滅している。
退路はなく、状況の打開は不可能となったことで上陸部隊の最高指揮官は降伏。フロイト帝国の有里浜上陸作戦は失敗した。