烏は狐と手を結ぶ
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イングレンド連合王国。前世界のUK、通称イギリスに似た国であり、国土もUK本土とほぼ同じで、唯一違うのは面積が5倍近く大きい点だけである。
海軍大国であり、転移後は日本ほどではないが多くの無人地帯を占領していった。
海軍力で劣るがため植民地獲得で遅れをとっている陸軍大国であるフロイト帝国とは対立している。
日本とは国交を結んでおり、両国の関係は良くも無ければ悪くも無い。両国間の距離が離れていること、間に共通の仮想敵国であるフロイト帝国がいるため悪化する要因が少ないためだ。
そんな国が今回、日本と軍事同盟を打診してきた。しかも秘密裏に。
これはどう考えても対フロイト帝国同盟である。
「イングレンド連合王国とフロイト帝国の緊張はそこまで高まっていたのか?」
田村が浅沼と月村に視線を向ける。
「連合王国の大使館からそういった情報はありません。フロイト帝国は対日戦に向けて準備しており、小康状態です」
「無線傍受と偵察衛星からの情報では、フロイト帝国は対日戦を最優先とし、連合王国とは一旦宥和政策をとるようです」
両者から告げられた内容は一様に否定するものだった。だがイングレンド連合王国が日本に同盟を打診してきた事実は変わらない。
「同盟打診の思惑は後回しだ。今はとにかく、同盟を締結するか、しないか。それぞれどのようなメリット、デメリットを論じることを優先しよう」
田村は冷静に今自分達がすべきことを会議室の面々に伝える。喧々囂々としていた会議室は落ち着きを取り戻し、議論を始める。
「まずイングレンド連合王国は他に何か言ってないのか?それと同盟の内容について何かいってないのか?」
田村の問いに同盟の件を連絡しに来た官僚がが答える。
「返事は1週間以内に貰いたいと言ってました。それと大まかな希望内容も伝えられています」
「何と言っていた?」
「はい。我が国にフロイト帝国東部への侵攻と情報の共有、同盟国価格での兵器、特に航空機の輸出を求めています」
「航空機か。イングレンド連合王国の工業力を考えれば我が国から輸入する必要はないと思うが?」
イングレンド連合王国は大国に相応しい工業力を有しており、日本とフロイト帝国には劣るが自国内の需要を全て満たすぐらい容易い。
浅沼が遮るように発言する。
「確かに数は揃えられてますが、大半が複葉機、数少ない単翼機も半分布張りです。全金属製戦闘機を配備しているフロイト帝国に対抗するのは困難と判断したのでしょう」
「それで対抗できる航空機を有する我が国に輸出を打診してきた、ということか」
そう、イングレンド連合王国の主力戦闘機は生産数、配備数共に1位の複葉戦闘機なのである。単翼機は生産こそ開始されていたが、まだ3桁に達したばかりで、完全配備には程遠かった。
Bf-109B-1に似た機体を生産、配備しているフロイト帝国に危機感を覚えるのは当然といえた。
「なるほど。さて、諸君はどう思う?少なくとも私はこの同盟を歓迎するが」
各大臣は視線を交わしたのち、賛同の意を込めて頷く。
「よろしい。月村外務大臣、連合王国に我が国は貴国との同盟を歓迎すると伝えてくれ」
「分かりました。会議が終わり次第、連絡します」
「浅沼大臣。彼らに輸出する兵器のことだが、人種差別の色眼鏡をかけた彼らのお眼鏡に適いそうなものはあるかね?」
「はっ、それでしたら三菱が開発した和製P-38LとB-17G、富士重工が開発したテンペストMk5モドキがよろしいかと。性能的には申し分ありません」
「分かった。三菱と富士重工にはそれらの量産するよう言っておいてくれ」
「はい。ところで田村総理」
「何だね?」
「総理はこの同盟のあと、連合王国との関係はどうお考えですか?」
浅沼の言葉に会議室は凍りついた。誰もがその答えを知っていたが、口に出すのを恐れていたからだ。
「……彼らがこちらと友好関係を維持するのであれば良し。もしこちらとことを構えようというならば」
田村はそこで区切り、多くの者が目を背けていた可能性の高い未来を告げる。
「戦後に建国する東フロイト共和国と共に叩き潰し、経済的のも軍事的にも逆らえないように……フロイト共々我が国の属国にする」
この会議より4日後、秘密裏に日韻同盟(日本・韻倶卵弩同盟)が締結された。
同盟祝いとして贈られたテンペスト、ライトニング(P-38)、フォートレス(B-17)の性能を知ったイングレンド王立空軍の士官は1人残らず真っ白に燃え尽きた。
更には提供された陽炎型駆逐艦と九一式戦車、九一式重戦車の設計図を見て、その性能を知った陸海技術者は卒倒した。
これ以降、連合王国各軍省は兵器開発の際に日本製兵器と対等に戦える性能を要求することになる。
フロイト帝国帝城ヴァリトロス。
謁見の間にて軍務大臣が皇帝ヴァルムントⅢ世に対し対日戦開始時期について報告していた。
「では……ニホンとの開戦は1年以上先となるのだな?」
ヴァルムントⅢ世の不機嫌さが滲みでた声に軍務大臣が萎縮しながら答える。
「はっ、国内の反乱鎮圧と安定化、更には侵攻に必要な輸送船と護衛艦艇が不足していますので最低でも1年、可能なら5年は欲しいところです」
ヴァルムントⅢ世はため息をついて悔しげに呟く。
「海軍の整備を怠ったツケがここできたか……」
フロイト帝国は転移後、海軍戦力の大幅な増強を行っていた。
が、最大の規模を有している陸軍と新設された空軍の反発、イングレンド連合王国対策に予算を取られたため、当初の予定より大幅に遅れていた。
それでも何とか既存の植民地の維持が可能な程度の規模の艦隊は確保できたのだが、対日戦決定が急だったため、海軍の準備が整っていなかったのだ。
「……まあ過ぎたことを嘆いていても仕方が無い。軍務大臣!」
「はっ!」
「5年以内に国内問題を解決し、対日戦への準備を整えよ。そのためならば多少の越権行為は黙認する」
越権行為の黙認。これが許されるのは皇帝が国難と判断した事態に直面した場合のみ。
つまりヴァルムントⅢ世は対日戦を国難と判断したということだ。
「ははあ!一命を賭して成し遂げて見せます!」
深く頭垂れる軍務大臣。ヴァルムントⅢ世はそれを見て満足そうに頷く。
いくつかの議題に話し合い、会議は終わり、解散となった。
フロイト帝国は国内の反乱、民主化デモを武力で鎮圧しつつ、日本に対し軍事的恫喝を行い、イングレンド連合王国には不可侵条約締結を提案するなど、あからさまに日本との戦争を意識した行動を開始した。
既に同盟を締結していた日本とイングレンド連合王国はのらりくらりとかわしつつ北方の連合王国領を通じての技術交流、フロイト帝国に関する情報の共有などを行い対不戦(対不炉威徒戦争)に向けて国力を増強していった。
そして皇紀二六九四年、フロイト帝国が日韻両国が自国との総力戦を意識していることを察し、両国間で対フロイト帝国同盟を締結されることを恐れたヴァルムントⅢ世は軍務大臣の反対を押し切って日本に対し宣戦を布告。
これを事前に無線傍受で察知していた日本は潜水艦隊による侵攻部隊への攻撃、通商破壊実施を命令。瑞樹大陸にいる部隊にフロイト帝国軍の迎撃準備を整えるよう通達。
後に第1次新世界大戦と呼ばれる戦争が始まった。
次回、初めて歩兵がメインの陸戦描写予定。うまくいくといいなぁ……(遠い目)。