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覇権への一歩

戦争(ドンパチするとは言ってない)。

遅くなりました。昨日の時点で大体はできていたのですが、家の事情と修正に時間をとられてしまいました。

相変わらずおかしい箇所があるかもしれません。

 元秋津帝国帝都遠江。かつて秋津帝国でもっとも栄えていたこの都市は今では秋津州の経済の中心となっている。

 「暑いなぁ」

 日本から来た汗だくの商社マンが喫茶店でそうぼやく。

 暑いとは言うがまだ桜が咲くまで時間がある3月。多くの人が涼しいと感じる時季で、まだ暑いというには早い時季だ。

 彼が暑いと感じたのは走り回っていたせいだ。日本の領土となった秋津州だが、前世界での朝鮮、満州の経験から開発は必要なものを除き、無人地域の後回しにされた。

そしてようやく大規模な秋津州の開発が始まった。貧しかった田舎にも工場が建ち、農業系の企業が進出したことで金が流れ込み、都会に若者を取られる事がなくなった。

 収入が増えたことで大学に進学する者も増えて、隠れた人材の発見にも繋がり日本としても嬉しいことであった。

 当然、開発や建築には現地の人間との交渉が必要になる。そのために彼のような人間が駆り出されることになっているのだが。

 「秋津人はまだ日本人を妖怪か何かだと思っている……。学校教育で同じ人間だと教わっているだろうに」

 彼が交渉に赴いた田舎の重役からは妖怪でも見るような目で見られ、農民や町人は離れた位置から怯えながら眺めていた。

 神社の神主が日本人退散の祈祷をしているのを見て遣る瀬無い気持ちになった。

 「反日じゃないのが救いか。やれやれ、彼らが常識を手に入れるのはもう少し先か」

 南方領土で栽培されている豆を使ったコーヒーを飲み干して、彼は店を後にした。





 

 燻し銀に輝く戦闘機が宙で荒れ狂う。

 戦闘機の背後から緑色の追跡者が彼を地上に引きずり下ろすべく鋼鉄の矢を送りつけるが、彼は必死に追跡者の射線から逃れ、雲の中に飛び込む。

 雲の中では視界が利かない。音で探る方法も無いわけではないが、下手をすれば空中衝突の危険性があるためあまり行われない。

 追われる側も雲の中では機位を見失いやすいため、基本的に直進するだけなのでそこまでして雲中の敵機を探すことはない。

 だが、彼はその裏をかくつもりだった。反転しつつ上昇し、追跡者にかぶる(上から攻撃すること)つもりだった。

 「(それ以外に性能で劣るこいつで勝つ方法はない)」

 操縦桿を右手前に引き、右後ろへ反転し始めた――瞬間彼の視界を追跡者たる緑色の戦闘機が埋め尽くす。

 「ッ」

 反転を止め、直進する。反転を続けていれば衝突していただろう。彼は自身の反射的な行動に感謝した。

 だがこれで敵に目的が悟られてしまった。敵は愚鈍ではない。こちらが反転して何をしようとしていたか理解しただろう。

 ならば、出来れば避けたかった悪手になるかもしれない策に打って出るしかない。

 「(大丈夫だ。こいつは、親父の最高傑作は単翼機相手の格闘戦じゃ無敵だ。相手も新型とはいえ格闘戦なら勝てる!)」

 自身にそう言い聞かせると機体を降下させる。雲に出る前に降下するのは危険だが、今の高度を維持したまま出て降下すれば敵と追いかけっこすることになり、機体強度で勝る敵が勝つ。

 機体強度に劣るこちらは速度の乗った状態では無理な機動はできない。反対に向こうは余裕綽々とこちらには出来ない機動が出来るだろう。

 世界が彼と戦闘機を地上に縛り付けるべく見えない手で引っ張っていく。彼は機首を上向きにしたりしながら速度を調節して空中分解しないよう細心の注意を払う。

 背後を窺うが、追跡者は影も形も見えない。

 「(こちらを見失ったのか?いや奴がそんなへまするとは思えない。一体どこに――!!?)」

 頭上を見上げた彼の視界に映ったのは黒点――こちらに向かって20ミリペイント弾を撃ってくる一式戦闘機三型乙隼だった。






 秋津州、狛江空軍基地。

 その飛行場に先ほど模擬空戦をしていた2機の戦闘機が降り立った。片方は勝者たる一式戦闘機三型乙隼。もう一方は銀色の単翼戦闘機。

 戦闘機に詳しい者がいれば「ソ連のI-16戦闘機みたいだ」と言っただろう。

 秋津州の元陸軍工廠技術者が設計した新型戦闘機光燐。秋津帝国の熟練パイロットの生き残りが「これがあれば日本に一矢報いてやれたのに」と言わしめた傑作機。

 この模擬空戦は空軍機の選定のために行われたものだった。

 この模擬空戦の提案者である空軍大佐は結果を知って満足そうに頷いた。

 「史実では試作だけに終わった隼三型……長い時間を経て日本の空を守るために蘇ったか」

 愛国者を自称する彼にとってこれは嬉しいことだった。

 自分の世界に浸っている彼に副官から声がかかる。

 「ですが財務省と政府からはできるだけ機種統一して欲しいと言われています。制空戦闘機はともかく、戦闘攻撃機は海軍と機種統一したほうが良いのでは?」

 「ふむ……」

 大佐は右手を顎に添え、考え込む。副官の意見には彼も同意できる部分があったからだ。

 「ではF4Uコルセアならどうだ?AD-4はまだ無理だろうが、コルセアなら何とかなるだろう。近々2000馬力エンジンも開発されるからちょうどいいだろう」

 副官は大佐の言葉を吟味し、最適と判断した返答をする。

 「非常に素晴らしい提案かと思われます。大佐」






 田村総理大臣は首相官邸の一室で閣僚と会議を開いていた。

 「で、フロイト帝国は譲る気配は無いんだな?」

 田村は憂鬱そうな表情で月村外務大臣に目下最大の案件について聞いた。

 「はい。フロイト帝国は瑞樹大陸の領有権を主張して譲りません。要求に従わない場合は武力行使もありえると」

 現在、日本は南方領土の1つである瑞樹大陸(形状はニューギニア島に近い)の近くにある島々を有しているフロイト帝国と揉めていた。

 フロイト帝国は典型的な帝国主義かつ白人至上主義国家である。

 転移以前は世界有数の陸軍大国だったのだが、転移によって鉄と石油、工業用ダイヤが不足した。最初は近くの島嶼に進出することで凌いでいたのだが、資源が豊富な瑞樹大陸を発見すると先に占有していた日本を追い出して資源問題を一気に解決しようとした。

 ちなみに平和的に解決しようという意見もあったが、日本が通商条約(実際は関税自主権の撤廃などが盛り込まれた不平等条約)を拒否したためにそういった意見は消えていた。

 「まったく後から来たくせに図々しい……」

 ため息をついて浅沼に視線を送る。

 「瑞樹大陸の防衛は苦しいですが、何とか可能です。駐留している第5艦隊と新島の航空隊を派遣、引潮型潜水艦による通商破壊を実行し、時間を稼ぎます。比較的本土に近い、他の新領土に駐留している部隊を投入すれば瑞樹大陸上陸は防げます」

 「分かった。それで、反撃に移れるのはいつ頃になる?」

 浅沼は素早く脳内で計算し、必要な日数を告げる。

 「侵攻を跳ね除けてから3ヶ月でしょう。フロイト帝国を屈服させるのに必要な物資の準備、戦力の抽出に必要な時間を考えればこれくらいかと」

 意外と時間がかかることに田村は顔を顰めるが、専門家である浅沼が言うことに文句をつけるわけにもいかず、何とか被害を減らしつつフロイト帝国に打撃を与えて戦費を減らせないか考える。

 「……守備隊を増強して、航空隊を配備できないか?事前に配備できれば新島の航空隊と合わせてかなりの戦果を期待できそうなものだが?」

 浅沼は怪訝そうな顔で田村に質問する。

 「確かに戦闘機、爆撃機を配備できればかなりの打撃を与えられるでしょう。しかし各地の守備隊に余裕は……」

 「今本土と秋津州で訓練中の部隊を回せないか?何とか訓練を間に合わせれば1ヶ月以内には配備できると思うが?」

 確かに数はどうにかなるだろうが、錬度に不安が残る部隊になってしまう。

 しかしフロイト帝国の通信を傍受する限りではこちらを劣った有色人種と舐めきっており、編成予定の侵攻部隊の錬度はかなりお粗末という情報が浅沼の耳に入っていた。

 それなら田村の案も悪くないのでは、と考えて、別の問題にぶち当たる。

 「人員はどうにかなりそうですが、肝心の兵器がありません。この世界に合わせた八九式小銃改は本土でしか生産できないため不足していますし、航空機は零戦を回す余裕はありません。隼は正式採用が決定されたばかりです」

 「何とかならんか?試作段階でもある程度実用に耐えうるものなら何でもいい」

 「……それでしたら秋津州の技術者が百式短機関銃と九九式小銃に似たものを開発していたはずですので、歩兵の主力火器はそれでいいでしょう。軽機関銃と狙撃銃、拳銃についても同じく秋津州で九九式軽機関銃、九九式狙撃銃、浜田式拳銃に近いものが試作されていたので、M2重機関銃と併せて量産しましょう」

 「航空機はどうだ?確か秋津州で川崎が現地の技術者といくつか輸出用に軍用機を試作していると聞いたことがあるが」

 本土以外では安心して進出できる市場として秋津州は人気だった。

 進出した企業は現地の会社を買収したり、軍工廠の技術者を招いたりしていたので兵器の分野に進出しようとしていた。

 そのため、史実の兵器を参考に秋津州でも造れるレベルのものを試作していた。

 「はい、確か史実ドイツ機を試作していました。大量発注すれば悦び勇んで量産体勢を整えますよ」

 「よし、それで量産体勢が整うのはどれjくらいだ?」

 「1年くらいでしょう。フロイト帝国も国内の民主主義者による反乱の鎮圧、西のイングレンド連合王国に備えることを優先するでしょうから、向こうも1年は必要とします」

 「分かった。ではさっそく――」

 田村が言いかけたとき、会議室に官僚が息を切らしながら飛び込んできた。

 「どうした?」

 官僚は息を整えようともせず報告する。

 「申し訳……ございません……。緊急性の、高い情報が……入り……ましたので」

 会議室の面々は顔を見合わせる。フロイト帝国は今のところ挑発以上のことをする余裕はなく、ただ新しい転移国家と接触した程度ならこんなにも慌てないはずだ。

 全大臣の視線が集まるなか、驚くべき情報が告げられた。

 「イングレンド連合王国が秘密裏に我が国との軍事同盟締結を打診してきました」

 会議室は騒然となった。

次回には何とか戦争まで持って行きたいと考えています。

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