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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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親友の為に

愚か者は復讐に踊らされ、道化は狂気と躍り狂う

作者: イブ

お父様視点です。

初めは婚約破棄もの書いてみたかったはずなのにちょっと違う雰囲気になりました。

いつも失ってから気づく。大切なモノとはありふれているからこそ見逃してしまう。どれだけ悲しんでも亡くなった者は帰って来ない。どれだけ嘆いても無くなったモノは返ってこない。

だから、奪われない様に生きなければならないのだ。



ふと蘇る何気ない記憶。想い出の君は綺麗にいつも私へ微笑みかけるのだから私もつられて顔が緩む。


君との初めての子供は女の子だった。女の子を産んだ時、君は悲しそうにごめんねと言ったが次は男の子が産まれると良いなと言うとありがとうと喜んでくれた。そして、次は男の子が産まれ穏やかな日々が流れる。

子供達は妻と優しい時間を過ごし私はその姿を眺める。

私はこの幸せが永遠に続くかと思っていた。

これが私の初めての大切なモノのカタチだった。



国王は稀に見ぬ優秀さで帝国との小競り合いに終止符をうち、我が国に繁栄をもたらした。だが、平和な時代になるかと思っていたが違った。外の国へはしっかりと対応出来ている国王は国内では様々な問題を起こし、頭を悩ませる事が多くなった。


それに異議を唱える者は私の妻だ。


『貴方、平民の良い女を王家に差し出せと言う内容の王命であっても異議を家臣として唱えなければ、民が可哀想です。私達が言えなければ下の者は口出しさえ出来ません。貴族として、民を守り、王家に忠誠を誓っているのであれば、陛下に正しい道を示すのも家臣の役目です』


私も公爵家として陛下の行いを変えなければならぬと同じ思いで王城へ向かった。

異議を唱えると陛下も考えようと良い返事を戴いた。

これで良いと思っていたが周りの使用人や貴族を見て、何かが胸騒ぎがした。私は妻の事が心配になり、兵士に頼み、妻の元へ向かった。

妻の部屋につくと服を脱がされ、シーツで隠している妻と私の登場が嬉しいのか牙を剥く様な獰猛な笑みで私を見る陛下がいた。何が起こっているのか理解出来ず、理解をしたいとも思わない。ただ感情のまま、私は陛下へ怒鳴る。妻の見ないでくださいの言葉に私は我を更に忘れてしまう。

兵士から剣を奪い、陛下へ切りかかろとすると陛下は妻に短剣を突き立てる。私は動きが取れなくなり、陛下に剣を渡せと命じられ、仕方なく渡すと陛下は妻を私の元へ行けと言う。そして、私に向かう妻の無防備な背中を思いっきり斬りつけ、更に刺した。

私は妻が目の前で刺され倒れるのを支え、息絶えるのをただ抱き締め涙した。

私は陛下を睨みつける。



『良い目だ。憎しみは人を曇らせると言うが余にとっては人を輝かせるものだと実に思う。現に其方は最愛の妻を目の前で殺され殺意に飲み込まれておる。其方は今沢山の思いで溢れておろう?殺された悲しみ憎しみ怒り、それらの感情を抑えるには余を殺さないと収まらないはずだ。其方が余を殺した時、其方はきっと復讐を遂げた喜びを得るだろう。復讐は人の感情を全て与えてくれる。帝国もアレだけ殺して、壊して、様々な事をしてやったのに停戦を求めた。あの国はつまらん。余に脅え復讐さえ出来ない見せかけの大国だ。余は未だに充たされた事がない。其方は以前から突っかかってきただろう?民だの何だの言ってな?下らん。使い捨てを余が壊して余を満たす問題あるのならなら其方が余を満せ』



そう言うと陛下は隣に居た兵士を殺し。その兵士を賊扱いする事で妻の名誉を守ろうと図々しくも提案してきた。私は陛下の言葉を受け入れ、部屋の外へ出る。そこには私と供について来ていた兵士が居た。この兵士も今のを見ていたのだろう。何も漏らすなと言い、逃がしてやった。その日のうちに私は妻の亡骸と共に自分の領地へ帰った。

その間、様々な感情が芽生えた。憎しみ、殺意、憎悪に様々な負の感情が私を支配する。

私は己の不甲斐なさを呪った。妻を守れなかった。そして、私は妻の為に復讐すると心の中に誓った。


領地へ戻ると娘のアリアが妻の事を聞いてくる。賊に殺されたと伝えるとアリアは泣き、落ち込み部屋から出てこなくなった。

私は陛下に復讐する為に必要な兵力や資金など様々な事を考えていた。

しばらくして、アリアが私へ話があると来た。アリアは妻がいなくなったのをいつまでも悲しまずに妻の様に立派な貴族へなると私に言う。

その当時の私は妻の復讐の事しか考えておらず、6歳になるアリアなら殿下と年回りが同じだ。なら復讐に使えるとしか思っていなかった。

それから、アリアは妻の様になる為に習い事を始め、様々な知識を求めていった。2年も経つとアリアが優秀だと言う社交場で噂になり、陛下から殿下とアリアとの婚約をどうかと来た。

あぁ、上手くいった。そう思い、アリアを褒め、私は領地の強化を続け、陛下の理不尽な王命も真っ向から反対し、私の周りには反王政派などと呼ばれる者が多くついた。

そして、10年も経つと国を分割出来る程の力を付けた。

陛下とは様々な事で互いに牽制し、衝突し、だが互いに決定打を与えない攻防が続いた。

何か大義名分があれば周りを巻き込み、陛下へ倒せるのだが中々出来ないでいた。


そんな中、娘の黒い噂を聞く事になる。概ね、私の事が邪魔な奴らが何かをしているのだろう。公爵家に楯突くとどうなるか理解しているだろう。噂を揉み消すのも容易い。ほっておいても良かろうと安易に考えていた。

だが娘の死を聞く事になる。

死罪だそうだ。公爵家に何も言わずに娘を殺すとは何事だと私は王城へ向かった。

そこで会ったのは初めて見る陛下の弱った姿だった。


私と陛下の仲は皆が知っている。2人を一緒の部屋に閉じ込めたら殺しあいが始まるとまで言われているがその通りだ。私は陛下へ復讐をすると誓っている。

そんな考えの私を知っているはずなのに陛下は2人で話そうと言ってきた。周りは必死に止めたが陛下は周りを収め、陛下の部屋へ招かれた。

2人で対面するのはあの日以来だ。

私は陛下から注がれたお酒には手をつけずに陛下が酒を飲む姿をただ睨むだけだ。

静寂の中、陛下から話した。



『其方とまた対面し合うのは10年以来か。余も其方も年になったな。だが、それだけの時が流れても変わらぬモノがある。それは其方の復讐心だ。そうだろ?』



『当たり前だ!貴様は私から幸せを奪った!何もかもだ!だから私は貴様を殺す!』



『……殺すか。なのに10年経っても余は死んでおらん。其方の復讐はその程度だ。自分の正当化を求める辺り、其方は善人と言えよう。其方には色々と期待していたが……なるほどな、余も余なら其方も其方だ。互いに不器用な生き方だ。確かに余が其方をこちら側へ引き込んだが余の見込み違いだったようだ』



『なんだと!貴様に何が分かるか!』



『分かる訳がない。余は其方ではないのだからな。そうであろう?だが一つだけ余から言えよう。其方は目先の事しか見ていない。本当に大事な者は側にいるのに失っても気がつかない。それだけ其方は曇り、余は其方に落胆する』



『意味が分からない。何が言いたい?』



『そうか、それだけ其方は愚かになったのか。其方の幸せとはもう過去であろう?今の幸せはどこにある?娘が死んでも其方は余の復讐しか考えておらん。娘と過ごした日々は偽りか?幸せではなかったのか?其方なら狂気に狂えると思っていたが狂わされただけのようだな』



貴様にだけは言われたくないと言い返したかったのに口を閉ざす。何故か娘のアリアとの会話が思い出してしまう。『お父様!今日先生に褒められました!』『お父様!本日は薬草について学んできます。お父様の疲れが取れる薬が作れる様になりましたら受け取って頂けますか?』様々な何気ない会話が頭の中に広がる。


……そうだ。私は何故気がつかなかった。妻に似た娘は最後まで私を見ていてくれたのに私がアリアの事を目を背け見ていなかった。今を見ずに過去しか見ていなかった。

後悔が押し寄せてくる。



『余を死に追いやる者を求めていた。しかし、余が余として生きると決めてからこのかた一度の敗北はなく、無敗を続けてきた。そうだ、続けてきたはずなのだが余は今……敗北感を味わっている。其方の娘にだ。其方は領を治める器であったが国を治める器ではない。だが其方以上の貴族は其方の娘以外この国には居ない。何故、其方の娘が今回の件で自身を貶めても守りたかったモノを考えてみると良い』



私はアリアの事を考える。私は娘ではなく復讐を成し遂げる為の道具としてしか見てなかったのだと今更ながらに気づいた。

アリアが何故、自ら貶めてたかは分からない。だが、色々と推測はある。アリアの事を考えると私はまた大切なモノを失ったと思い知らされた。




『さて、其方に一つ問おう。其方は何をもって悪と定義する?其方が言う者には同じ様に家族がいて、領民が居て己がいる。帝国と不正に取引をする。確かに余からすれば悪だ。余に忠誠を誓った者も悪と称えような。しかし、帝国からすれば善であり、領民からすれば納めきれない徴収を代わりに納めてくれた善良の領主だろう。さて、其方が行った国の為と言って友を罰した事でどれだけの者が其方を悪と見たのだろう?』



……私がかつて、友を断罪した時の話であろう。



『争いは国を発展させる。余は争いしか出来ぬ。仲良しこよしで国を守れるものか?否と余は断言する。外から見たら我が国は大国であるのでよい争いに見えるようだが本質は帝国に毎回コケにされ、弱者であり続けたのがこの国だ。しかし、其方と競い合って今は帝国へも遅れをとらない程の国力へとなった。余の王族派、其方率いる反王政派や貴族派や中立派、そして、この国の醜悪共だ。醜悪共も立派な駒だ』



『何が醜悪共も立派な駒だ!その醜悪共がこの国の民に何をしたか分かるか?貴様が放置した賊や豚共は民を無惨にも奪う!そして、我が旧友もまた同じだ。それに貴様が悪戯に国を巻き込むから罪無き民がどれだけの犠牲になったと思う?』



『それこそ、捨ておけ。弱者とは産まれながらの罪人だ。国の為に貢献できたのだ。国の為に消費された事を喜べよい』



『何を言う!民を守るのが我等貴族であろう!』



『其方の妻もそうであったな。その結果が己の死だ。勝てなければ何も残らない。民も国も名誉も誇りも信念もだ。弱い事は罪だ。強くなければならぬ。だが、強いだけではならぬ。勝てなければならぬ!其方なら分かるだろう。負ければ奪われ勝てば奪う。我等が平和を謳おうと他の者は平気で踏み躙る。余の父上はそうして死んだ。そして、余の前で母上は犯された。余はただ、物陰に隠れて事が過ぎるのを震えながら待った。分かるか?ただ弱いだけで奪われる。余は己の無力さを呪った。理不尽な世界を呪った。何も知らない民を呪った。余は気づいたのだ。ただ、嘆いているだけではまた奪われる。なら奪われる前に奪えばよい。奪い、奪い、奪い、奪い続け、狂気に狂えば余も強くなる。だから、余は勝利に拘る。余は生涯勝ち続けなければならぬ。それが余が今まで余の為に犠牲にした者へのせめての手向けだ』



『……それは身勝手な考えだ』



『それはそうであろう。余は王族だ。何をしても良い訳ではないが何をしても良い。それ故に余は身勝手に様々なモノを犠牲にしたのだ。身勝手なのは初めからだ。良いか?王族は国の為に動く。貴族は王の為に動く。平民は貴族の為に動く。そうして国は動く。様々な思惑が混ざり合い国は発展していく。この国に醜悪が増えた?良い事ではないか。それだけ頭を使う奴らが増えた。其奴等は自分を守る為に何でも動く駒だ。それにな、何も悪い事ばかりではない。醜悪があるからこそ憂い、優秀な善の者も生まれる。その者が秀でていたら国は良くなる。その者達が増えればなお良い。タイミングを見て醜悪を屠れば国は良い人材を育成した事になる』



『全てを悪いと考えるのは上に立つ者として考えてはならぬ。その物事を見据え、善悪をハッキリさせ、使えるモノは使う。悪が国を発展させないと何故決めつける。平和である事に慣れたこの国には必要悪が無さすぎる。帝国からしたらこの国が悪だ。明確な理由も付けて攻撃してくる。例えこの国へ攻める良い訳であってもだ。だがこの国は帝国に対して帝国が攻めたから悪いとしか認識しておらん。子供と同じ思考でどうする?何が悪いも理解しておらんのに悪いと言う。帝国は必要以上に国を奪っていった。そのツケが回ってきた。食料に人災に事を挙げたらキリがない。それらの所為で国が回らぬ。ならまた上手く行く為に我が国を奪う。単純で明確な理由だ。そして、帝国が支配してやると言っておるのに支配されない我が国は悪と言う事だ。我が国はただ、田舎の大国ではいけなくなったのだ。皆が良い人間、伝統を守り、規律を守り、仲良しである限り、奪われる。皆が賢くなり、伝統を重んじるがこの時代に合わせた伝統を作り、規律を等して他者を縛り、皆で競い合わなければこの国は終わる。

余がいるから安泰だと?何故そう言い切れる?余は1人しか居らぬ。余までとは言わぬ。優秀な者は何人いるのか?国の為に愚者を演じれる者は何人いよう?居ないのなら作れば良い。そうは思わないか?』



私は今まで陛下を知ろうとしなかった。この男は私には理解出来ない者でただ狂っていると思っていた。しかし、国を思う気持ちは一緒だと解った。だが、考えがまるで間逆だ。きっと分かり合う事はないのだろう。それを互いに認識した話し合いになった。



『正しく行動して正しく導く、そんな存在は神だ!もしくは教会が言う聖人と言う偶像だろう。人はな、間違い続けて生きる生き物だ。だが、その間違いをどう正すか認めさせるかは己次第だ。余は決して、賢王ではない。暴君であり、愚王と呼ばれる類の王だ!だが国民を見てみろ。余を賢王と呼び、貴族は余に忠誠ではなく、恐怖が支配しておる。余は死ぬまで誰からも認められず誰にも理解されない。だが、それで良い、それが良い。余は最後まで狂って狂って死ぬだけだ。其方には悪いが其方の娘の願いを叶える為に余は王位をカイルへ継承する。其方とはもう張り合う場が無くなるな』



『何故その話を私にする?』



『其方は余程とは言わぬが余が認めた優秀な者だからだけでは理由は不足か?もう隠す必要はない。最後に其方の妻の名誉の為に真実を教えてやる。其方の妻は自分以外の男に抱かれる位なら舌を噛み切ると言い、それだけの覚悟があった。だから、余は手を出しては居らぬ。だが、殺しはした。それだけだ。もう帰ってよい』



私はこの時も殺すチャンスはあったのに殺さなかった。陛下の言う通り、私の復讐心はこの程度なのだろう。まだ理性があり、狂えなかったから狂わされた。

……違う。妻の言った『民を想う正しき貴族』を演じている限り、私は何事も中途半端だ。

妻の想いを知っていた。私が善であり、民を守る貴族であり、国の為に貴族を纏め王族へ仕える家臣である事だ。妻が死ぬ間際に私へ残した言葉が陛下を救ってとの一言だった。私が復讐をするのを願っておらず、最後まで私にその在り方を願っていたからこそ出た言葉だ。今なら分かる。今を生きて欲しかった。妻は自分を背負って生きるのではなく、残された子供と共に生きて欲しかったのだろう。

だが、私は自分の抑えられない感情から妻の為と偽り、自分の為に陛下を復讐している。


……そうだ。私は身勝手に妻の想いを踏み躙り、娘の今までを踏み躙り、自分の欲を満たそうとした愚か者だ。


その日から私は浴びる様に酒を飲む日々が増えた。そして、私は領地へ戻り、暫くすると陛下は王位を継承し殿下が受け継いだ。そして、私は政からも離れた。

民からは娘が死んでから私が狂ったと思われているだろう。

民を守る事も放棄した私はカイル陛下のデタラメな政にも私は干渉しない。段々とカイル陛下を劣等王と呼ぶ者が増えたようだ。私から見ても国は崩壊へ向かっていっている。

王位を渡したあの男が何を考えているか分からない。

私はただ酒を浴び今日を忘れる。

また現実に戻ると酒を浴び記憶を忘れる。

私は生きているのか死んでいるのか曖昧な日々をまどろみの中で過ごした。


とある噂が今更私に流れた。

劣等王を支える聖女と言われているアーシア王妃には黒い噂が良く流れる。

元々身分が低い為、アーシア王妃を良きとしない者達は多い。

だが、彼女は数奇な才能を見せる。彼女が作る流行や政は国を発展へと繋げた。それはカイル陛下のデタラメな政が続いても良い方向へだ。

そんな彼女がカイル陛下とグルになり娘を貶めて殺したと言う噂だ。

私はその噂の信憑性を確認し黒だと分かって、また復讐する事を決意した。様々なツテを頼り、情報を集め、クーデタを起こす計画を立てた。

その際に様々な醜悪共も使う事にした。かつて、あの男が言った何でも駒だと言うのは今なら少しは理解出来る。

何も心が痛まない駒だ。あの醜悪共はこのクーデタが終わった後は良い待遇を約束した。良い動きをしてくれるだろう。以外にも民の義勇軍が多いのにはびっくりしてしまったがコレで私は何か充たされるのだろうか?



『父上!考え直して下さい。貴方はココでその様な愚かな事をしてはなりません!陛下は確かに目に余りますがアーシア王妃や殿下がいる限り、今はダメでもいずれ安泰です!父上がしなくても良いではありませんか!もし、王族に愛想を尽かしたのなら帝国へ亡命しましょう!』



息子が五月蝿かった。終いには帝国への亡命まで言って私の命を守ろうとする。今の王族に忠誠を違う者は少ないだろう。王妃は良い政をするが身分もなく、権威もない。カイル陛下はあの男とは比べ物にならない出来損ないだ。息子はまだ早過ぎる。国が分解するのも時間の問題であろう。

ここで動かなければ何も始まらない。あの男ともコレでお終いに出来る。



『其方はユクストファ公爵の嫡男でありたいのだろう?なら先程の言葉は取り消せ。帝国なぞへ向かったら、それこそお終いだ。其方はもう一度考え直す為に牢へ閉じ込める。出てくるまでは其方は私の行動する敵で王族に味方する裏切り者だ』



こうして息子を屋敷に置いて、クーデタを起こした。

見事に成功し、後は王城のみになり、カイル陛下を捕まえたと知らせが入り向かう途中にあの男の死の報告も来た。

最期に何を言っていたかと尋ねると少し不愉快そうに報告された。



『其方の負けだ。先に地獄へ待っている』



そう楽しそうに笑って死んだそうだ。

あの男は最後まで何を考えているか分からない。だが、あの男が死んだのを実感出来ないでいた。そして、充たされもしなかった。まだ心に穴が開いた様だ。

そして、カイル陛下の元へ向かうとアーシア王妃がいなかった。

カイル陛下に最後の会話をしているとアーシア王妃が殺されにやってきた。殿下は逃げられたようだ。

しかし、アーシア王妃とカイル陛下を始末出来れば、私の中でやっと何かが終わると思っていた。私は何かに安心し、アーシア王妃へと対立するとアーシア王妃はいきなり自白と真実を私達へバラした。

本当はアリアと親友であり、私は最後までアリアが守りたかったモノが何だったのか気が付かず私は踊らされアーシア王妃が私への復讐と言われ、やっと全てを理解した。

私の目の前でカイル陛下はアーシア王妃に殺され、私の言葉を聞かずにアーシア王妃は自害した。

私はアリアが命を賭けてまで助けた大切なモノを私の行動で失った。



『其方の負けだ』



あの男の言葉が蘇る。あの男は結末を分かっていたのか。

あぁそうだ、また失ったのだ。

私にはもう失うモノがないと思っていたのにまた喪失感に陥る。

私はこれでアリアの全てを失った。だけど、アーシア王妃は私へ最後の願いを言っていた。

私はアリアの為に何が出来るだろう?

アーシア王妃の亡骸をアリアの墓の隣に埋めてあげる事しか出来ない。

せめてもの償いだ。私はアーシア王妃とアリアの墓を作った。


そして、アーシア王妃の最期の対話で私の命の使い方を決めた。生き方も最後まで私らしく、愚か者に相応しい悪役を演じようではないか。



一月した時、やっと時が動き出した。そうだ、最期の仕上げだ。



「……本当に待ちわびたぞ、レリック殿下。王族は全て私が殺した。後は其方だけだ。隣に居るのは南の国の魔女か。厄介だな」



「彼女は南の国の王女でありますが魔女ではありません。それに彼女は私の妻になる方です」



「魔女ではないか。なら出来損ないか。それを引き取り南の国を取り入れたのか。其方も物好きだな」



「訂正して下さい。彼女は出来損ないでもない。私は魔法が使えようと使えなかろうと、彼女だから選んだ。話は終わりです。もう王城以外は鎮圧しました。後はユクストファ公爵、貴方だけです」



勇敢にもレリック殿下は剣を抜いた。12歳の若造のクセに様になっている。

しかし、なっていないな。王族を守るのが家臣の役目。周りもレリック殿下が剣を抜いて私へ対峙するのを黙って見ているなど家臣としてなってない。いや、ここに来るまでに権威のないレリック殿下の権威を上げる為にあの者が事前にこうなる事に誘導したかもしれないな。

それにしても昔見たあの男のいくさを思い出す。

成る程、あの男の血を引いてアーシア王妃の息子なのだと理解した。

だが、12歳の若造に負ける私ではない。



「剣を抜いたな!周りは手を出すでないぞ!見極めてやるぞレリック殿下よ!さぁ、こい!」


小手調べに互いの剣の重なり合う音が響きわたる。互いに仕掛け防ぎこの場は剣の鳴る音だけが支配する。流石あの男の血を引いているだけあって、私の剣撃についてくるが戦いに終わりが見えてきた。レリック殿下は息が荒く、私はまだ息は上がっていない。周りから見ても私が有利に見えるだろう。

レリック殿下は勝負に出たようで大きく力強く剣を振るう。それを一閃弾き、そして、私は大きく上段から斬りかかる様に見せ一瞬止まる。レリック殿下は私の殺気に反応し、顔を強張らせるが私の動きが止まる瞬間を見逃さず、身体を動かし弾かれた剣で私の胴を横斬りつけた。



「……見事なり」



「何故、何故貴方は……」



「皆まで言うな。王としての気質を問われるぞ?」



「初めから死ぬ気だったのですね?」


「……何を言う。私は貴族だ。貴族が無駄に命を捨てる訳がない。私の命は忠義を誓った私が認める王族の為にあるのだ。それだけだ」



それに最後まで間違い続けた愚か者だが妻レティーシアの想いに応えれたであろうか?

私はあの男を許せない。国の為だとしても私の妻が死ななければならない理由はない。

妻は最後まで貴族であり続けた。殺されたあの日、妻があの男と何を話し、何を感じたか知らない。だがあの男を陛下と呼び王族を救えと言った。

私はそれに応えれなかった。

だが今からでも間に合うだろうか?それは分からん。それはあの世というモノがあるのならちゃんと妻に怒られてこよう。



「……私はただの愚か者だ。奪われる悲しさ痛みを知りながら私は奪った。だからだろうな。何もかも失った。もう何も失うモノはない。もう何も持ってはいない」



レリック殿下は悲痛な顔に歪める。

そこに大きな足音が聞こえる。



「領主様!領主様は何処ですか!……領主様⁉︎き、貴様!領主様に何て事を!許さねぇ!」



声の主を見ると義勇軍を纏めていた若者だった。

平民達は撤退させたはずなのに何故居るのだ?



「貴様等はまた領主様から大事なモノを奪うのか!領主様が何をしたって言うんだよ!領主様は俺たち平民を救ってくれただけだろ!王族がそんなに偉いのか!俺たち平民はずっと王族のやり方に怯え、ただ耐えるだけだったのを領主様は救ってくれた。王族への不敬罪などそんなの俺は上等だ!殺すってんなら領主様と同じ様に殺せ!領主様にまだ恩を返してないのに俺だけーー」



「もうよい!」



剣幕に話す若者をとめる。

若者は私の言葉に黙るが泣き出しそうだ。そんな顔せずとも良いのに。


「何を言うのですか。平民は領主様の事を理解しております。その上で領主様についてきたのです!領主様の奥様を前国王が殺したのは存じてます。あの時、逃がして頂いた兵士が友の父でした。この事は平民の中で話しが出回り、殺された理由も知ってます。それに王命で俺の姉が前国王の連れ去られそうになった時、領主様が兵士を追い払い、俺達家族を助けてくれました。姉が今を幸せに生きていられるのは領主様のおかげなんです!それなのにまた、王族に領主様の娘様まで殺されて、領主様が悲しみにいるのに俺達は何も出来ずにいたのが……いたのが歯痒かったのです!」



そうだったのか。全てを知って私についてきたのか。それにこの平民の言葉が妻の想いを無駄にしてなかったのだと気づかせてもらった。

全て失ったはずなのにそうではなかった。


私はいつもそうだ。大切なモノに気がつくのが遅すぎる。だが今回はまだ間に合う。



「ユクストファ公爵、私はこの一月貴方の事を聞きました。母上からも周りの皆からも聞きました。王族の所為で不幸になったのも理解しております。ですが貴方より私は国を守る事を選びました。そして今、民の声も聞きました。私は何をしたら正解だったのでしょう」



幼く優しすぎる。自分なりに考えたのだろう、まだ12歳と言うのに。



「……私は愚か者だ。私の嫌いな奴が言っていた。その間違いをどう正すか認めさせるかは己次第だとな。だから、正解などない。王族なら自分が正解となれ。そうであろう?レリック陛下」



「……⁉︎貴方は私をそう呼んで下さるのですか?」



「何を言う。初めに言ったではないか。私は貴族だ。無駄に捨てない。何故なら私が認める王族の為の命だからな」



「王族は、私は……私は貴方に何をしたら許されるのでしょう」



「許すも何も前国王を恨んでいるものの其方を恨んではない。私は其方に殺されたのではない。国の為に死ぬのだ。なら其方が罪と感じるのならこの国を守れ。それが私の願いだ」



幼い王は頷く。



「若者よ、私は其方の名前を知らぬ。もう命が尽きようとしている。最期に其方の名を聞かせて貰えないだろうか?」



「俺はアズウェルと言います」



「そうか。其方の言葉は私を救った。報われた。其方には感謝する。其方にもお願いする。私と家族が守りたかったこの国を私が認めたこの幼き王と守ってほしい。王族は国の為に動く。貴族は王の為に動く。平民は貴族の為に動く。そうして国は動く。だが、本質を忘れず平民や貴族や王族が国の為に動けばもっとより良い国になるかもしれない。そして、我が息子を頼む。レリック陛下よ、民を無碍に扱わないで欲しい。今回の件は私が唆したのだ。民には罪はない」



幼き王はまた頷いてくれた。

息子にも平民達に者悪い事をした。それに私は家族に父親らしい事をしてやれなかった。それだけが心残りだ。

もう、疲れたので良いだろう。

あの男はこの未来が見えていたのだろうか?

『其方の負けだ。先に地獄で待っている』……か。

あの男が望む様に優秀な者が多い世代だ。

あの男が正しいのが分からない。私から見たら間違っている。だけど結果はこれだ。

善の存在である正しい貴族や民に愛されたアーシア王妃と悪の存在である反王政派のリーダーで国に反感のある民を従える私に認められた王だ。

あの幼き王はきっとこの国を……約束を守ってくれるだろう。

あぁ、確かに私の負けだ。

もし、あの男と出会いが違っていたら互いに違っただろう。そう思うのも悪くない。

今なら一杯位付き合ってやれる。


いつも気づくのは最期にになってからだ。








『貴様に会うとは……ならココは地獄か。それだけの事をしたのだから仕方ない事か』



『早い再会だな。もう少し復讐を遂げた喜びに浸っておれば良いものを』



『貴様と一緒にするな。復讐など成し遂げた後は虚しさしか残らなかった。本当にやるべき事があった事に気がつかず気がつくのに遅すぎた』



『……さようか。余は其方から全てを奪った。其方に謝罪する事もなければ其方から許される気はない。だが、最期に酒に付き合え。もう身分や立場はない。それ位は良いだろう?最後位、一杯付き合え』



『ずっと憎んでいた相手と最後の盃か、……付き合おう』

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― 新着の感想 ―
[一言] 残念ながら狂気といえるほどのたいしたものは読めなかった。たんに弱気で流されてるだけ。本気で狂うだけの甲斐性があるなら、まだ読めるものになったかもしれない。本当に残念。
[気になる点] 良い国のため貴族の意識のためっていうなら 妻が強姦されて殺された時点で王は王じゃないしそこで殺しとけよ キチガイが最大権力持って生存しているだけで民のためにならないのはわかりきっている…
[一言] 三作全部読みましたが、親友二人、王と公爵、その他、スポイル教育で歪んだバカ王子以外は国のことを良くも悪くも考えたのだ。…と作者さんは書いてるっぽいんですが、正直最後の次代王子と民がこの先平和…
感想一覧
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