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トカゲ娘の異世界闊歩  作者: おーしゃん
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トカゲ ブイエス ドラゴン

ドラゴンのかいしんのいちげき。テギルは力尽きた。

 私は宮瀬茜みやせあかね…可愛い名前だと思う。両親はとてもやさしくて一度も私をブッたことが事がない。いい両親だ、こんな両親の元で生まれたことを感謝したい。お父さんは県知事でそれなりの権力があった。学校で胸の大きさでからかわれたとお父さんに言えば、お父さんはすぐさまソイツを転校させてくれた。顔は自分でもお世辞にもいいとは言えなかったけど、豊満な胸のおかげで男には困らなかった。高校時代は男に言い寄られては焦らしながら楽しんだり、大学の時はサークルの男達を手篭めにしてやった。まあそのせいかサークル内の人間関係がギクシャクしてたけどそういうのも楽しかった。成績はケツから数えたほうが早かったような状態だったけど、お父さんの紹介でそこそこな大企業に務める事ができた。だがそんな時、父親は亡くなった…街宣中の事故だった。それからというもの、同期の陰口は増え、あれだけミスをしても怒らなかった上司がちょっとした事で厳しく叱咤し、あげくには資格を取れとまで言ってきた。許せない!私を誰だと思ってるの!?もういい!こんな会社辞めてやる!!



 「ちょ…おき…よー……テギ…」

 んー、誰?私を呼ぶのは…あーくそーあの上司ぶっこr…

 「起きなさいってば!」

 私は頬に強い痛みを感じた。あれ…ここは?あーそうだ、ドラゴンが出てからそれから…。

 私が目を開けるとそこに飛び込んだのは下半身蛇のアイツ、モリュケの顔…の逆さまの顔。

 辺りを見回すと、赤い鱗につつまれた巨大羽トカゲ、ドラゴンが怪獣映画みたいに木造の家々を潰しているのが見えた…逆さまで。違う…逆さなのは私だ!

 足元を見ると、私は尻尾を木の枝に巻き付けてぶら下がっている状態だった。ああそうだ、ドラゴンの尻尾にふっ飛ばされたんだった。私は尻尾の力を緩め、スタッと地面に着地した。

 「だいじょーぶ?テギル、早く逃げよーよ。」とモリュケが顔を覗き込みながら言ってくる。そう言えばあのエルノールとか呼ばれてたフード男は?

 私が目を凝らすと…見えた。武器を持った男たちの前に立ち、ドラゴンに向かって手をかざしている。ドラゴンが手の鉤爪を振り下ろす…危ない!だがその手はガキンッ、という音と共にフード男の目の前で弾かれた。よく見るとフート男の翳した杖の先から緑色のモヤモヤした何かが出て、楕円形に後ろの男たちをスッポリ覆っている。魔法かなにかだろうか?フードから覗くその口は苦しそうに歪む…どうやらジリ貧のようだ。

 

 「さあ、アイツらが時間稼いでくれてるし逃げよっ!」モリュケは私の手を引く。待て待て、ここで村の人達を助けて一躍ヒーローになれば人間社会にも溶け込めるし、イケメンエルフ探しの足がかりを作れてワインも飲み放題だ(あるか知らんけど)。この機会を逃してなるものか!

 「よしっ!人間を助けるわよモリュケ!」 

 「は?変わり者だと思ってたけどそこまでは…ちょっと引くわー…。」

 「うるさい!援護してモリュケ!」

 私は颯爽と森から飛び出し、ドラゴンに向かって駆けた。大きく踏み出す足はゆうに3、4メートル間隔だ。ハハハ、トカゲボディなめんなよ!

 私はドラゴンの足元まで一瞬で到着、そこからのスーパー蹴りをくらえこの図体がデカイだけのトカゲ野郎!「どっせい!」トカゲローキックが炸裂じゃい!

 だが蹴りが当たった瞬間感じたのは…まるで巨大トラックのタイヤを叩いたような、堅牢な弾力……手応えがない!?一切動じないその巨体の顔の目が私を見据える。そして大きく口を開けたかと思うと大きく息を吸い込む…あの動作を私は知っている…リザードマンと同じ…そう《ブレス》だ!

 私は咄嗟にその場から脱しようと地面を蹴ろうとする…そこに巨大な炎の嵐…いや溶岩の様なオレンジ色の液体状の何かが炎をあげながらが迫ってきた。

 「ひィ!?」情けない声を上げながらも危機一髪、それを避けた…いや左腕に微かにそれを浴びてしまう。途端に左腕に走る強烈な痛み。

 「ぐ…あ!」私はすぐに左腕に目をやる。炎を浴びた鱗は黒ずみ、ブスブスと煙を上げている。ゴツゴツと突き出した鱗の中には先っぽが溶けているのもあった。左腕からはオレンジ色の液体が黒く変色し、私の腕からドロドロと流れ落ちていた。私は腕を押さえその場にうずくまる…おかしい、私に炎は効かないんじゃ…だってローブ男の魔法もモリュケの魔法だって……あ。私の頭にローブ男とモリュケが言っていたセリフがよみがえる。

 

 『リザードマンが魔力に鈍感だというのは本当だったか。試してみてよくわかったよ。』

 『ああそっか、リザードマンだから効かないのか。』


 そうか、私…リザードマンに効かないのは魔法だけ。魔法じゃない火は効いちゃうんだ。しかし今更気づいた所で…痛みで動けない。無理無理あんなん勝てるわけない、チートすぎる…無茶苦茶だよお…。ドラゴンの方からメリリッ…という音が聞こえ、恐る恐る顔を上げると私の目に左足を持ち上げたドラゴンの姿。すぐに私を踏みつぶそうとしてるのだと悟った。ドラゴンの足の裏は鱗に覆われていたが、赤ではなく乳白色だった。ああ…アレに潰されちゃうんだ…痛くないかな?でもこの腕の痛みが終わるなら…もしかしたら元の世界に戻れるかもしてないし…このまま…。


 「こんのおおおおお!」突如後ろから響く怒声。その声と同時に炎が飛んでいきドラゴンの複数箇所から爆炎があがる。その方角を見ると目の前にモリュケの顔。

 モリュケはサっと私を空中に万歳と持ち上げながらすごい速さで地面を這う音と共に蛇行しながら進む。その度に私は左へ右へと振り回されるのを感じた。そして私が元居た場所に、ドズゥンッ!という音とともに顔に風圧を感じた。ドラゴンが足を叩きおろしたようだ。その風圧で私もモリュケも吹き飛ばされる。私の横に同じく倒れこんだモリュケの顔。

 「まったく、何やってんのかしらアタシ。本当はこんな危ないこと御免なんだから!テギル、シャキッとしてよ!」モリュケは手を地面につきながらムスっとした顔で私に投げかけた。

 「やれやれ使えないリザードマンだな。だがブレスを浴びて原型を保ってるだけ上出来だな。」いつの間にか隣にローブの男もいる。相変わらず気配を感じない奴だ…エルノールって名前でいいんだっけ?

 「ラミア、魔法をありったけドラゴンに浴びせて牽制してくれ。強くなくていい、とにかく大量にだ。リザードマン、立てるか?ドラゴンによじ登って鼻っ面か目に一撃をお見舞いしてくれ、できるか!?」いきなり何言い出すんだこのローブ!こちとら左腕が痛いんだよ黒ずんでんだよ!ローブの男…エルノールは私の右手を肩にまわしながら立たせようと踏ん張る。

 「やはり…重いな。これだから筋肉の塊は…。」…!この野郎!純情無垢な乙女に向かって重いだの筋肉ダルマだの!

 「べ、別に重くないし!あんたが軽すぎなだけだし!」私は左腕の痛みなど忘れ立ち上がった。

 「やれるなリザードマンの女…テギルだったか。お前ならドラゴンの体をよじ登れるはずだ。私も魔法で援護する。そこのラミアもな。」

 「ちょっとー命令しないでくれるー。まーやってもいいけど危なくなったらアタシ逃げるからねー。」とモリュケ。

 なんだか勝手に話が進んでわけがわからん。もういいや、やってやろうじゃん!

 「あーもう!わかったわよ、やればいーんでしょ!あの3階建てアパートトカゲに登ればいーんでしょ!」私は地面を蹴ってドラゴンへ走る。左腕の間隔が鈍い…走りながら手をグーパーしてみる。大丈夫、まだ動く。

 

 走っている私の上を炎の塊が大量に飛んで行き、ドラゴンに命中する。ドラゴンは炎から避けようと腕を顔の前にやり上体をズラす。今がチャンスだ!私はドラゴンの鱗に足の爪を引っ掛けながら足…胴体を駆け登っていく。昔から馴れた木登りの要領だ。そしてドラゴンの長く伸びた首に手を掛け、そのまま膝を鼻っ面に叩きこんだ!

 ドラゴンの足を蹴った時とは違う柔らかい手応え、ドラゴンはけたたましい鳴き声と同時に首をブルンブルンと振り始める。首の鱗に右手の爪が引っかかったまま、私は振り回されるたび遠心力で体はピーンとなり、目の前がだんだん暗くなり始める…ヤバイ。

 ううこのままじゃ飛ばされる、いやその前に失神…まさか失禁!もう一度鼻に蹴りをしたいがそれどころじゃない。…そうだアレだ!

 私は隙をみてドラゴンの顔に両手両足を抱きつけ、大きく息を吹い込む……そしてドラゴンの鼻に向かって思い切りソレを口から勢い良く吐き出した。

 吐出された黄土色の空気がドラゴンの鼻から吸い込まれていく……と、ドラゴンは一瞬目をグルンと裏返させ、動きが止まる…今じゃい!

 私はドラゴンの鼻先に抱きついたまま自分の尻尾を振るい、思い切りドラゴンの顔に突き立てた!私の尻尾は靭やかな筋肉の躍動と共に鞭のように空気を切り裂き、ドガッっという音と…ん、ドニュって音?


 『グギャーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!』

 

 次の瞬間、私は空中を待っていた。クルクルと回る世界……そうだ受け身取らなきゃ、学校の柔道で習った受け身をいまこそ……って習ってねーよ!!

 私はそのまま背中から地面に叩きつけられる。~~~~ッ!!超痛い…悶絶女子…ぐのののの…。空気を吸おうとするが空気を吐き出したまま動かない私の肺。大丈夫リザードマンは長い時間水に潜っていられ…いや苦しい!せめて空気吸わせてくれ!!

 ふと目に入る私の尻尾の先…そこ刺さっていたのは何か丸いものが。それは…大きな《目玉》だった。後ろではドラゴンのギャースカギャースカいう鳴き声が聞こえ、強い風圧が起こったかと思うと大きな影が私にかかる。そして空に見える舞い上がるドラゴンの姿。


 

 

 ドラゴンは轟音とともに飛んでいき、次第に小さくなって見えなくなった。

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