★トカゲ イン ムラ
人間の少女ミリアを颯爽とピンチから救ったテギルはマギ村に入れるか?
ミリアという少女と別れてしばらく、日は真上に登っていた。
この辺りの植物は私が住んでいた沼地のような大きい葉っぱにカラフルな花、と違って背の高い針みたいにとがった木だらけになった気がする。故郷と違って少し肌寒いし…これは本気で衣服の調達が要るかも知れない。
私とモリュケは少女の跡を辿って行った。すると森が開け、木製のカントリーな三角屋根が立ち並ぶ集落が見えた。恐らくアレがミリアという少女が言っていたマギという村だろう。森の中にポツンとある感じの村だ。
「で、どーすんのテギル?」
「フッフッフ…既にあの村は英雄な私の話で持ちきりよ。このまま堂々と入るに決まってるじゃない!」
「え、そうなの?」
と茂みから出ていこうとするなり、遠くから鎧を着込んだ男たちが騒ぎながら出てきた。そしてまっすぐにその群衆は私の方めがけて向かってくるではないか。
これは英雄である私のお出迎えですね間違いない。いやあ人助けはするもんだ。私は颯爽と立ち上がり、「いやあどうもどうも。お出迎えご苦労様ですよ。」とのたまう。
「う、うわああリザードマン!!」
「ってあの時のアイツか!?」
よく見ると群衆の一部は全身包帯巻きの奴がいる…というか顔に見覚えが……あーーッ!私を襲ってきた人間たちじゃないか!すると群衆の一団から一人顔を出す。おお、あの時の話のわかる謎のローブ男!お前もか!!
「おやおや、索敵魔法に引っかかったからもしやと思いましたが、ドラゴンじゃなかったようですね。あの時のリザードマン…それにラミアですか。」そのローブ男は特に慌てる様子もなくと淀みなくしゃべる。ん、ドラゴン?なんのこっちゃ。私は疑問に思う。と、考えてる隙に私達は囲まれてしまう。モリュケは両手に炎を灯し臨戦態勢だ。ちょ、ちょっと待ってたもれ。
「あのー、私は決して村に害を及ぼす者ではなくてですね…女の子も…」
「うるせーリザードマン!」
「さてはドラゴンの仲間か!?」
「ここで会ったが百年目じゃい!」
みんな目が血走ってるし話になりませんよおおおお!話も見えませんよおおお!おかしい、私はこの村の女の子を救ったヒーローですよ諸君。なぜそんな敵意剥き出しなのです!?
「やっぱり駄目じゃーん、テギル。どーすんのこれ?とりあえず全滅させる?」とモリュケ。いやいや待てよ!そんなことしたら今までの苦労がパーじゃないか。と、とりあえず話のわかりそうなあのフードに…。
「ちょっと、ドラゴンとか何言ってるのかさっぱりよ!こちとら何だっけ…そう!ミリアって子を魔狼の群れから救いだした英雄だよ。あの子に話聞いてみてよ!」と叫ぶ。そうこうしてると向こう側には村の住人が集まり、
「うわー、リザードマンにラミアか!?」
「大丈夫、冒険者達がなんとかしてくれるわ。」
「エルノールさん、やっちゃって!」
とか叫ぶ村人らしき人たち。あれぇー…計画ではここで『きゃーテギルさん待ってましたー!』って言われるはずなのに…。
だが目の前にいる奴らは武器を構え、今にも襲ってきそうな雰囲気。
「モリュケ!戦わないから!魔法下げて下げて!!」とモリュケの腕を下げようとする。
「えー、でもアッチはやる気だよ。やちゃおーよ。」いけませんいかんのだ!私達がアタフタしていると『今だ、やれー!』という声とともに私に風切り音と共に何かが体にゴツンゴツンと当たる。超ー痛いんですけど。振り向くと私に向かって男たちが矢を放つのが見える。やめて、やめてよ!私別に敵対する気ないのに…仲良くしたいだけなのに!っとモリュケが手を突き出し炎を大きく燃え盛らせてるのが見える。いけない。私は颯爽とモリュケの前に出て、放出された炎を我が身に受ける。衝撃は感じたが特に熱さ等はなかった。轟音と共に私の周りの木々がなぎ倒され、間近で爆風を受けたモリュケが後ろに吹っ飛ぶ。
「ちょっと!何してんのー!あいつら私達殺す気なのよ!」モリュケががなる。「話しあえばわかるはずだから!…だから攻撃しないで!」私は絞りだすようにモリュケに声をかける。だが、無慈悲にも男たちが私達に近づいてくるのがわかる。どうする…どうしよう?
「待って!そのリザードマンはいい人なの!」
と突然遠くから叫ぶ声が。あの声は…ミリアだ。
「ミリア!危険だから下がってなさい!」と側の男。
「魔狼に囲まれた時あのリザードマンが助けてくれたの!だから攻撃しないで!」見るとたしかにミリアちゃんだ。
「そ、そうなの!私達人間に害を加えたりはしないわ!」私はあらん限りの声で叫ぶ。その声圧に押されたのか囲んでいる男たちが後ろにひっくり返る。すいません、私猛獣みたいな声だし、身長も2m30くらいあるガチムチです。囲んでいた男達は情けない声をあげながら尻もちを付きながらそれでもと武器を突き出してくる。だが動じずにスッと立つローブの男。そいつは、
「みんな、こいつらは敵じゃない。一度下がれ。」
「し、しかしエルノール!」
「下がれと言っている…。」ドスの効いた低い声で静かにかける言葉…だが凄い圧力を感じた。男たちは這いつくばりながら私達から遠ざかり。エルノールと呼ばれたそのローブの男だけが残る。
「久しぶりだなリザードマン…の女か?あとラミアもいるようだが。」
「なにーこのローブの奴。知り合い?」モリュケはやっと立ち上がってそう私に聞いてくる。だが私はやっと話が通じたと喜び勇んでローブの男に話し始めた。
「あーそうそう。旅の途中で仲間になったの、このラミアはモリュケって言うの。私人間と、あの…友達になりたいの!決して悪いことはしないから!」
「ふむ、そうか。だがリザードマンは森の奥地で群れを作って外には出ないはずだ。なぜここまで?」
「えーと、あの…外の世界に憧れてて…その。」そう言うとローブの男は笑い出した。
「クハハハ、外の世界ねえ。だいぶ変わり者のリザードマンのようだな…興味深い。」
「そ、それでもいいわよ!なんとか村の人達を説得してくれない?私達が入れるように。」私は必死に訴える。だが突然、ニヤけていたローブの男の口から笑顔が消えた。
「…話は後だ。お客さんのようだ。」そう言うと、私の方から振り返って村の方へと走って行く。
「何かが向かってくる!この速さはドラゴンだ!皆、地下へ潜れ!!」ローブの男は村へ向かって叫ぶ。それを聞いた村人達は脱兎のように皆、村の中へ引っ込んでしまった。武器を持った男たちは冷や汗を垂らしながら怯えつつ武器を構え、ローブの男が指さした方角の上空を見渡している。
「テギル、いったん逃げたほうがいーと思うよー。」モリュケが私の胸の衣服をひっぱる。
「え、ドラゴン?あのお姫様さらうやつ?」
「何わけのわからないこと言ってるのよ。さすがに私もドラゴンと戦うのはごめんよ。どーせドラゴンの狙いはこの村みたいだし、もうアタシには目視できる距離みたいだしさっさとずらかろーよ。」
「あーえーと…つまりそのドラゴンを追っ払えば私はヒーローね!」
「は?何言ってるのテギル、あんた正気!?」
私は途中で会話を切りモリュケから離れローブの男の方へと走る。
「わ、私もドラゴン?追っ払う…んだっけ?手伝うわ。だから村の人達説得してくれる!?」
「手伝ってくれるのか?それはありがたいな。…来たぞ、構えろ!」そう言うと同時に私の耳に遠くの空から轟音が聞こえる。振り返ると、たしかに空中を浮かびながら何かが凄い速度で向かってくるのが見えた。
赤い色の…鱗?が体にびっしりとついた首の長いトカゲ。胴体はずんぐりむっくり。そういや映画であんなのよく見たなあ。だいたい洞窟とかで金貨とか宝石集めてる奴だった気が…あと炎吐くっけ。
見渡すと村の人達は村の広場のあたりから地面へ向かって降りていくのが見える。よーし、ここで華麗にあの空飛びトカゲを撃退すればヒーロー間違いなしだよ。『助かったよテギル、君は僕のヒロインだ。結婚してくれ』ってイケメンから言われたりして…ムフフ♪
と妄想に浸っているとその空飛びトカゲは家々をなぎ倒し地面に降り立った。それと同時に凄い暴風が吹き荒れ家々の屋根が吹き飛ぶ。…ちょっとデカすぎやしませんか?その空飛びトカゲ…ドラゴンは私が人間時代住んでいた3階建アパートなんて目じゃないくらいのでかさだった。ちょマジ、シャレならんっしょコレ!!
と、ドラゴンが後ろをブルンッ…と向く。あれ帰るの?
『皆、伏せろ!!』そう言って高々と飛び上がるローブの男。ん、どうした?っと、同時に何かが轟音と共に向かってくる音…家々が吹き飛ぶのが見える。目の前の家が吹き飛び、破片が当たると共に見えたのは目の前に迫る赤い鱗…鱗だからけの何か…げ、尻尾!?
私は強い衝撃を感じ…気が付くと地面の感触が無くなり、世界がクルクル回っていた…。あ、モリュケがこっち見てる…どーも!
次の瞬間私の背中に樹の幹がめり込んだのを感じた…。




