★トカゲとヘビ
処刑されそうになったので逃げ出したテギルは森を彷徨う
宮瀬ことテギル、村を出てきました。食料(虫)と水はありますが武器がないので不安です。でも硬い鱗と筋力は実戦でも通じることがわかっているので大丈夫な気がします。
村を出てから3日、食料も水もあと1日分と言ったところか。街道に出るどころか水場も食料も見つからないよ。あといつも使ってる葉っぱが欲しい。この辺りの葉っぱはお尻吹く時ザラザラしていやなんだよね。食えそうな魔物でも歩いていないだろうか…さっそく村が恋しくなっちゃったよ。でも今戻っても処刑されるだけだからそういうわけにもいかないんだなこれが。
トボトボと森のなかを歩いているとふとサラサラという水の流れる音が聞こえる。やった、水場があるぞ!私はその方向へ向かって走った。
到着すると足首あたりまで浸かるぐらいの浅い小川があった。私が寝そべれば橋になれるほどの大きさしか無い。だが水が手に入ったのはありがたい。私はしゃがんで川に口をつけラーメンをすする要領で水をすする。うーん、生き返るー!
生水は駄目とか人間時代は聞いたようなきがするけどいつもちょっと濁った湖の水を飲んでいたのでたぶん大丈夫。丈夫な体に生まれたことを心から感謝する今だけは。私がさっそく水筒に水を汲めていると、遠くで何かの気配がする。
「魔物かな?」
私は咄嗟に茂みに隠れる。もしかして水を求めてこちらに向かっているのだろうか。だとしたら好都合だ、虫を食べるのも飽き飽きしてた所だ。やったことは無いけど狩猟して晩飯にしてやろう。私は息を潜めて待つ。だがその気配は真っ直ぐにこちらに向かってくる。だとしたら私の気配に既に気づいて…いやそれなら私から遠ざかるはず。もしかすると私より強い魔物なのだろうか?自分の力に絶対の自信を持っている?だとすれば君子危うきに近寄らずだ。
私は茂みを勢い良く飛び出し反対方向へ駈ける。だがその気配はソレに気づいたのかこちらに向かって速度を上げ向かってくるのを感じた。
「この速さ…人間じゃない!」
あきらかに人間とは異質の速度だ。しかもこちらのスピードに勝るとも劣らない。追いかけっこしてるのは埒が開かないと思った私は、目の前の木に爪を突き立てスルスルとてっぺんまで登る。さすがに魔物といえど木は登れないはずだ。このままやり過ごしてしまおう。
気配がどんどん近づいてくる。そして私はその姿を捉えた。
「え、人間?いや…」
まず見えたのは人間の…綺麗なターコイズブルーの長い髪。そして美人と言って差し支えない綺麗な顔立ち。色白の肌に露出の高い服装というか胸しか隠していない。その胸も人間時代の私に匹敵する豊満具合。っと分析する暇も与えず見えたのは腰から下へと伸びるたくさんのスカイブルーの鱗…足は無く胴体がそのまま伸びているような…。そう、下半身が蛇のようになっていると言えばいいのだろうか。
その半人半蛇のヤツは私が登っている木の前で止まり、顔を見上げ私と目があった。そして…。
「わーお、リザードマンじゃん!おーい降りてきてよ~。」そいつが口を開く。この魔物、言語が通じるようだ。私はどうしたものかと考えるが、半人半蛇は木の前から離れようとしない。私が戸惑っていると。
「ふーん、じゃあこっちから行くわ!」と言ったかと思うと、木に巻きつき螺旋状にスルスル登ってくるではないか。
「な、なんとお!?」
ヤバイ、あいつ私を取って喰う気じゃなかろうか。咄嗟に隣の木へとジャンプしようとするが…。そいつも飛び上がり空中に浮いた私に巻きつき、すごい力で締めあげてきた。
「ぬごおおお!」
私とそいつは絡まったまま地面に落下した。そしてそのまますごい力で締めあげてくる。なんというパワー、私の腕力でも引き剥がせる気がしない。私の全身に絡みつき、手足の自由を奪ったそいつは体をもたげ私を見下ろしている。
「ふふふ、待っててね。今気持よくしてあげるから♪」そう言うと私の顔に手をかざしてくる。そいつの手のひらが怪しくピンク色に光っている。何をしてくる気だ!?…だが特に何も起こらない。
「ああそっか、リザードマンだから効かないのか。じゃあこうしちゃお♪」
そいつは尻尾の先っちょで私の《大事な所を》弄ってきた。ちょ、そこはらめえええええ!私は渾身の限りジタバタする。
「ふっふーん♪…アレ?…あんた雌なの?」その半人半蛇はがっかりした顔で私を見てきた。
「な…なんのつもりよ!?離して!!」
「あーあ、いい交尾相手見つけたと思ったのに。」
半人半蛇は私を縛り上げたままヒョイっと持ち上げ…放り投げた!私はサッと受け身をとってスクっと立つ。何すんのよこいつ!将来の旦那さんのイケメンエルフのためにとっていた所を弄りやがって許さない!私は臨戦態勢を整え蛇女を睨みつける。
「いやーメンゴメンゴ。リザードマンの雄雌の区別つかないわー、声も低いし。」そいつはヤレヤレというジェスチャーで悪びれもなくため息をついた。見れば見るほどボンキュッボンなナイスバディだ。(下半身が蛇なのを除いて)しかも美形…私のコンプレックスを揺さぶるソイツはかなりムカつく許さんぜよ!
「何がメンゴだよ!このビッチ!レズ!鱗きめーんだよ!!」
「いや、そっちも鱗じゃん!ごめんって、ちょうど繁殖相手探してただけなんよ、マジごめんって。しっかしリザードマンってだいたい群れ作るのにアンタ一匹なのねー。めずらしい。」
マジマジと私を見てくる蛇女。どうやら敵意はなさそうだ。落ち着いて見れば村の外で会った奴の中では話がわかりそうだ。それに外の世界について知りたいこともたくさんある。私は深呼吸をして落ち着いた所でそいつに色々聞いてみることにした。
話を聞いてみるとこの蛇女は上半身人間で下半身が蛇のラミアって種族らしい。一人前になると外へ出て、異種族と子供を設けるらしい。これは女しか産まれないからしょうがないだとか。
「ところでこの辺りに人間の街とかないの?エルフとかいないの?」
私は聞いてみた、とにかく情報がありそうな所に行きたい。エルフと結婚したい!
「うーんあの方向に人間の村があるって先輩から聞いたことあるよ。エルフはこの辺りじゃ知らないけど。」
なんだ、この辺りにエルフいないのか。だが人間の村があるのは好都合だ。あわよくば取り入りたい所だ。だけど前に会った人間の反応を見るに私の種族って畏怖の対象なんだろうなー…まあ行ってから考えてみよう。
私は立ち上がりその方向へ向かって歩き出そうとする。
「あーちょっと待てって。なんか面白そうだからアタシもついてくよ。」
「え?でも私人間の所行くんだよ?」
「人間の所行きたがる魔物って初めて見るし、アンタに興味あるなあ。なんか面白そう♪あわよくば人間の奴と繁殖できそうだし。」
んー、凄く下心丸出しの理由だ…まあ人のこといえないけど。でもこの先前みたいに山賊みたいなやからに襲われた時コイツがいると戦力になりそうだ。村に入るのがさらに難しくなりそうなのはここは置いとこう。
「わかったわよ。勝手にして。」
「ヤッホー、あんがと♪あ、これ食べる?」
と蛇女取り出したのは謎の生肉。しかもちょっと腐臭が…。
「…これ何の肉?」
「魔狼のだよ。さすがにこいつと繁殖はしたくないし。」
まあ人間じゃなければこの際どうでもいい。虫食生活には飽き飽きしてた所だ。肉も腐りかけが美味しいってフランス人が言ってたし。私はその肉を受取り口に入れる。
「あ、美味しい。さすがフランス人。」
「フランス人って何?」
「なんでもない。ところでアンタ名前は?」
「アタシ?アタシはモリュケ。よろしくね♪」
「モリュケね。私はテギル。それじゃあ出発しようか。」
私はモリュケ村と思しき方向へ歩き(一人はズリズリしながら)だした。モリュケは私の走りにもちゃんと器用に這いずりながら追随してくる。途中で夜になったので森のなかでキャンプをすることにした。どうやらモリュケが火の魔法を使えるらしく、焚き火を作るのに特に苦労はなかった。
私はモリュケが寝ている側で魔狼の肉を炙りながら、人間の村に着いた時どうするかを考えていた。