トカゲスペクタクル
さあさあ来ましたよ乱交…じゃなくてありがたいお祭りの日です。
今日の主役は一応私達新成人(?)なので後の事はおばさん達がやってくれるそうです。もういざとなったら村から逃げ出すしかないと考えた私はいま旅支度の準備中です。
モンスターの胃袋で作った水筒、何日分かの食料、着替え、後はタオルの代わり…他に何かいるかな?そうだ武器だ!
ただ武器の管理は男がやっているので手に入れるのは困難だった。料理用の小さいのぐらいしか、簡単に手に入るものはない。ただそれだと心もとない。
私は武器庫に忍びこむことにした。
武器庫は村の奥にある。ほとんどは男たちが肌身離さずもってるだろうが、整備中の武器や使われていないのがきっとあるはずだ。祭り前でほとんどの男は出払っている。今がチャンスである。
と言っても女が正面から堂々と入れるほどザルではない。私は木を伝って天窓から入ることにした。
手と足の爪を引っ掛けながら木を登り、枝を手と尻尾で器用に伝っていく。
人間の時は木登りなんてやったこともなかったが、この姿だと結構楽なものだ。あまり力を入れなくても体は持ち上がるし、バランス感覚もだいぶ向上している。暇な時はアルギ達とよく木の上で追いかけっこをしたものだ。
まあたまに落ちて痛い目にあったけど。鋭利な刃物も通らない肉体とわかったんだし多少高いところから落ちても死にはしないだろう、という楽観的な考えのもと、私は窓から武器庫に侵入した。
「うーん、あまりいいの無いなー。」
見渡すと木製の柄が腐食してたり切っ先が欠けた武器が多かった。武器の素材は、石・何かの骨・黒曜石(?)みたいなのが主流だ。
しかしうちの部族ってなんで弓を使わないんだろうね。遠くから一方的に攻撃できるってなかなかナイスだと思うんだけど。まあよく考えたら大抵の獲物には走って追いついて一刺し!とかいけそうだし硬い鱗あるし、接近戦大好き突撃馬鹿な種族なんだろうきっと。
奥を漁ると、なんとか切れ味を保ってそうな武器をみつけた。骨製だ。恐らく子供の訓練用だろう。こういうの映画で観たな、グラディウスって感じ?私は右手でブンブン振るってみる。その度に空気を切り裂く音が鳴る。
そういえばこの部族は左利きが多い。男も皆左手に武器を持っている。私も左利きに矯正されたものだ。まあ気を抜くと右利きよろしくみんなと逆にやって怒られたりもした。おかげで今は両利きだ。でも命の掛かった戦闘となれば扱いやすい右手でしょうなやはり。
私は抜身のそれを背中からかけ、天窓から抜け出し枝を伝って…
がその時遠くに居た奴と目があってしまった…。よりにもよってグラエルである!
「おいテギル!何やってる!」
私の下まで来たグラエルがそう言う。まあ女が武器抱えて出てきたらそうなりますわな。
「いやあ、レグの肉が硬くって、大きいのが欲しいなあーなんて…。」
レグは飛ばない鳥みたいな大型のモンスターだ。ただ珍しいのでほとんど捕れない。男たちが捕ってきた時などは盛大にどんちゃん騒ぎをする。大概女の私はあまり食べさせて貰ったことはないが、非常に美味である。虫と甘くない果物ばっかりな食生活の中で唯一の癒やしである。
「そうか!たしかにあいつの肉は硬いからな!仕方ないな!」
「でしょー!それで困ってたのよじゃあ私は戻らないと…」
「んなわけあるか!!」
ノリツッコミかい!
ぬぬぬ、こいつ意外と馬鹿じゃないぞ!絶対誤魔化せると思ったのに。
「第一、今日の準備は年増達がやるだろ!女が武器を持ちだして何のつもりd『うわーんグラエルー!』
私はグラエルに勢い良く抱きついた。こうなったらアレだ、色仕掛けしか無い!人間の時代に30年磨き続けた女子力をいまこそ開放する時。
「私人間に襲われた時恐くて恐くて…でもグラエルが来てくれた時感じたの、ああこの人の血を残したいって。」
「な…なに!?」
私は尻尾をグラエルの尻尾に絡みつかせる。
「祭りではあなただけを待ってるわ。私を好きにして私を孕ませて~。」
グラエルの瞳孔が開いて…あと股間が膨らんできたよコイツ、もうひと押し。
「ねえーいいでしょ。私じゃ不満かしら?」ついでに足も絡ませてやろう。
「も、も、もちろんだとも!我もお前とだけ交わる。他の女などどうでもいい!お前に孕ませたいぞ!!」
ふふふ、堕ちたな。
「じゃあグラエル祭りでは楽しみにね♪」
と悪びれもせずささっと駆け出す。グラエルは何を考えているのやらボケーッとしている。まあどうせいやらしい事だろうけど。
私は戻り、旅用のバッグと武器を寝床の下に滑り込ませる。
「あ、テギルここにいたんだ。そろそろ祭りだから行こうよ。」
ちょうどアルギが来たが既に隠した後なので問題ナッシング。あとは宴会中に抜け出して村を出ればいい。トカゲとセックスなんてまっぴらゴメンだ。私はイケメンエルフと結婚するんだ!
祭りは村の中央の広場で行われる。遠くからも盛大に火を焚いているのが見える。
「テギル、何か考え事?ボーッとしてるけど。」
ハッと気付きアルギを見る。そういえばもうアルギちゃんとは今日でお別れなのだ。しかし別れの言葉を言うわけにはいかない、絶対に止められるから。しかし途方も無い罪悪感がどんどんこみ上げてくる。
「アルギ…外に出ようと思ったことないの?」
私はふとアルギに聞いてみた。
「うーん、考えたこともないなー。それに外の世界は危険がいっぱいでしょ。村に居れば男たちが守ってくれるし。」
「でも世界ってきっと広いんだよ、危険も多いだろうけど色んな種族がいてお話できたり、別の村があるかも。こんな小さな村で雑用するだけで一生を終えるなんてなんか嫌にならない?」
「…昔からだけどテギルって変わってるよね。」
アルギに何を言ってるのかわからないという顔をされる。
「昔から私達沼地の民はずーっとこの土地で生きてきたの。ご先祖様の行いを思えば当然の事だよ。私はこの村に生まれたことを誇りに思うわ。」
アルギちゃんの真っ直ぐとした瞳には一点の曇りもなかった。
「そう…か、そうだよね。」そう言うしかない。
「うん、あんまり変なこと考えちゃ駄目だよ。」
「アルギ、私達友達だよね」
「もちろんよ、どんな事があっても友達よ。どうしたの?」
「私アルギちゃんに会えて本当によかった。今までありがとうね。」
「え?」
ちょうど広場についた。もう新成人達が集まっている。
「おう、やっと来たか。そら輪に入りな。」
「じゃあまたね、アルギ!」
「あ…!」
あれ以上アルギちゃんといたらこの村が恋しくなってしまうに違いないと思い、私はアルギから離れて輪の中に入る。またね、とは言っちゃったけどもう会うことはないだろう。寂しいけどこれから私の新しい人生が始まるのだ。
「よくぞ集まった若者達よ。お前たちはもう立派な大人じゃ!これからも村のために尽くしてくれ。そして我が民に新たな命を宿すのじゃ!では今日という日を祝おう!乾杯!!」
族長の掛け声とともに祭りが始まった。みんな飲めや食えやの大騒ぎである。酒は嫌々ながらもちょっと飲んだが…糞不味い!!人知れず地面に捨てる。私はワインがいいんだ!外の世界には絶対ワインがあるはず絶対飲むそうしよう。
ほとんどの者は積極的に男女同士の会話で盛り上がっている。私も何人の男たちに声をかけられるが適当に話を合わせて次が来る。遠くを見るとアルギちゃんは綺麗なブルーラインの模様も相まってか男達に大人気だ。
アルギちゃん…幸せになってね。
私は言い寄ってきた男達に、「ちょっと用をたしてくるね」と言って広場を後にする。すぐに自分の部屋へ。
「よっし、OK。」
私は寝床の下からバッグと武器を取り出す。ついでに忘れ物がないかチェックしないと。私はバッグを開けてごそごそと忘れ物がないか確認する。
っと、突如何かが近づいてくる気配。
私が振り向いて確認すると同時にそれは素早い動きで私に覆いかぶさって来た。
「クックック…さあテギル!我の子を孕んでくれ!」
グラエルだった、私はその大きい体に押さえつけられほとんど動けない。
「ちょ、ちょっと待って!まだ祭りの途中…」
「大丈夫だ!いつヤろうと変わりはせん!さあ今こそ一つに!!」
そう言っていつの間にか裸のグラエルに下の着衣を脱がされそうになる。
ひいいいいトカゲとはいやああああああ!私は重度のパニックに陥ってしまった。必死に手足尻尾をバタバタ動かす。ふと、手に何かが当たる。そうだこいつをぶつけて怯ませて退散しようそうしよう!私はそれを掴み懇親の力を込めてグラエルの口に押し込んだ。
「ガパアァ!!!!!あああ…グェ…。」
私が口に押し込んだそれは…《グラディウス》だった。叫び声と同時に私に青い血が噴水の如くかかる。グラエルは小刻みに痙攣した後動かなくなった。私はその光景を見て頭が真っ白になっていた。
「どうした!?…な、グラエル!」
「ば…馬鹿な!グラエル!」
「テギルを捕らえろ!!」
叫び声を聞いた数人が部屋に駆け込んできた。私はそのまま勢い良く頭を地面に叩きつけられる。
遠くで怒声が飛び交っている…私の目の前をゆっくりと闇が覆い…最後には何も見えなくなった。




