トカゲのお散歩2
ファイアーボールが命中したテギル
テギルの冒険はここで終わってしまった?
上を見ると赤く眩しい火の玉。あ、これ死んだわ…。そして私は咄嗟に目を瞑った、そして響く轟音…そして私の意識は途絶えた。
かに思われた!
まぶたを開くとそこにはデカく抉れた地面。なぎ倒された森の木々。無意識に体の無事を確認、手…よし!足…よし!体中から湯気みたいなのが立ち上っているが完全に無傷である。
もしかして派手なだけで威力は虚仮威し…と思ったが周りの状況を見るにそういうわけではなさそうだ。だがなぜ私は無事なのだろう?いやそれよりも服が燃えて上は丸出し、下も色々見えそうになってる。
超恥ずかしい!なんてことしてくれたんだあいつううう!
私は今胸(無いけど)を隠すのにせいいっぱいだ。
周りでは『ひいいい!化物ー!!』という悲鳴。そのフレーズはとても傷つくのでやめていだたきたい。だが狼狽えている人間たちの中で魔法を放ったフードの男だけは冷静そのものだった。
「リザードマンが魔力に鈍感だというのは本当だったか。試してみてよくわかったよ。」
フードの男は特に慌てる様子もなく杖を下ろす。
「お、おい何すましてんだ!もっと魔法放ちやがれ!!」と金属鎧の男。
「どうやら魔法は効果が薄いようだ。矢も通らない鱗。ならば鈍器の方が効果的だろう」と冷静な分析をするフード。
「ちょっと、話聞いてくれませんか?私戦う気な…」
突如後ろから振り下ろされる何かに気がつく。いやいや話聞けよお前ら!
私はとっさに尻尾を振るう。
「ぐわっ!」
後ろにいた革鎧の男は木の葉のように宙を舞い顔から地面に激突した。自分でやって何だけど痛そう…。
「一斉にかかれええええ!」
髭面の金属鎧の男の怒号で3人ぐらいが一斉に向かってくる。こうなったらもう奥の手しかない。
私は一気に空気を吸い込む。そして吸い込んだ空気を肺ではなくある場所にを流し込む意識をする。自分の体の中でゴポゴポゴポという音と共に吐き気を催すような臭いがただようのがわかる。私は間近まで迫った人間達に勢い良くその空気を吐き出した。
ブシャアアアアアア!という鋭い音と共に私から吐出される黄土色の気体。これぞ沼地の民に伝わる伝説の技、【ブレス】だ。
空気の圧力で3人は吹き飛ばされた。と同時に叫び声をあげる。皮膚は赤く爛れ、剣や鎧は赤く腐食しボロボロと崩れ落ちている。そのままくらった3人は苦悶の声をあげながら突っ伏している事しかできなくなった。
金属相手に使ったのは初めてだったけどなるほど、ああなっちゃうのか。意外と強力な技だったのね。初めて使った時はあまりの気持ち悪さに気管に入っちゃって酷い目にあったのを思い出す。
しかし人間を傷つけてしまったのは凄い罪悪感が漂う。普通だったら男に乱暴されそうになって傷つけてもこんな気持にはならないと思うが、これが強者の余裕というやつなのかそれともただ単にまだ私が人間に固執してるのだろうか?
今ので包囲が少し解けた。もう少しで脱出、いややろうと思えば突破できなくもないが私はこれ以上あまり攻撃的な手段は用いたくなかった。
「これ以上なんかしようとしたらもう一回今のやるよ!?私の話聞くか、こいつらみたいになりたいかどっち!?」私は叫んだ。私の大声で囲んでいる人間はさらに尻込みした。
ごめん嘘、今のもう一回は無理。
本当の切り札で一度使ったら再度使うまで結構かかるのだ。願わくばもう攻撃してこないで欲しい。
その中でまったく動じていないフードの男がぼそっと
「ほう、リザードマンのご意見か…興味深い。ぜひ聞かせてくれ。」
フードの縁から除く口がそう言った。こいつは私の大事な服を台無しにした恨みはあるが聞き分けはよさそうだ。うまくいけば平和的に、もしかしたら人里に連れて行って貰うこともできるかもしれない。仲の良い子たちと何も言わずに出て行くのは辛いけど、別れを切り出したらさらに辛くなる。黙って出て行く方がいいのかもしれない。それに例の祭りに参加する必要もなくなる。これは神様が与えてくれたチャンスに違いない。
「あ、あの私を人里m『そこまでだ人間ども!!』
と、突如私の目の前に飛び降りてきたそいつ。トカゲである。よーく知ってるグラエルだ。ちょおまなんでここに!?
「よくも我が民の女に傷をつけたな!生きて帰れると思うなよ!」
私より頭一個分高いグラエルは左手の槍をフードに男に向けながら言った。
いや無傷ですけど。服はボロボロだけど。ってそうじゃなくて
「ちょっとグラエル!なんでここに!?」
「無事かテギル?アルギが私にお前が戻らないと言ってきてな。お前の跡を辿ってここまで来たのだ。我が来たからにはもう安心だ、下がっていろ!」
間がいいのか悪いのか…。いや悪い!状況が(私にとって)悪くなる。
「ち、違うのこれは!この人達は悪くないけど事故でこうなったの!」
自分でも何言ってるか解らないけどとりあえず穏便におさめなくては。私はグラエルの槍を無理やり押さえつける。
「お、おい何をするテギル!私はこの人間たちを!」
「だから事故だってーの!槍下げて槍!」
そんなこんなしている間に人間たちは散り散りになって逃げていた。残ったのはフードの男だけ。
「やれやれ、話を聞けると思ったが。さすがにリザードマン2体相手は無理だな。」とフード。
「リザードマンだと!我が沼地の民を愚弄するか人間!!」と発狂しだすグラエル。
埒があかなくなったのでグラエルの顎の下から思い切り頭を突き上げた。
「ほごぉっ!」もんどりうって倒れるグラエル。
振り返るとフードの男はどうやったのか既に遠くにいた。
「ちょっとー!私を人間の町に連れてってー!フードの人!!」
慌てていたせいかグラエルが側にいるにも関わらずそんな事を口走ってしまう。フードの男は私の声で一旦止まり。フードから覗く口がニヤッと笑うのが見えた。
「テギルとかいったか…。リザードマンの女。また会えるかも知れんな。」
そう言って、凄い速さで駆けて行ってしまった。まったく何の気配もしない独特な逃走だった。
「いたた、おいテギル何をする!?人間を取り逃してしまったではないか!!」とグラエルは起き上がりながら言った。
そんなこともどこ吹く風で私はしばらく放心状態だった。あー…名前も聞けなかった。話の分かりそうな人だったのに…。おのれグラエル!!
「しかしなぜ女でありながら村の外に出たのだ!いや、それよりもあの言葉は…」
「あー!そうだマコレガコ探しに来たんだったよー忘れてたよーさー帰りましょうー!」
と若干棒読み気味に誤魔化しながら叫び、元来た道を駆け出した。本当はフードの男を追って行きたかったがグラエルがいる今そんなことをしたらすぐ取り押さえられてしまうだろう。
マコレガコの入ったバッグは運良く崖下で無事見つかった。あの魔法に巻き込まれなくてよかった。お酒の材料としては数的にギリギリだが早めに村に戻ったほうがよさそうだ。日もだいぶ傾いて沈みかけていた。
私はグラエルに付き添ってもらい村へと歩き出した。
「おいテギル!我はお前が気に入った!祭りでは我とまぐわわんか!?」
いきなりトンデモナイこと言い出しぞこのトカゲ!
「女でありながら人間相手にあそこまでの奮闘!尊敬に値する!我も人間と戦ったことはないからわからんがあの数相手に戦えるお前は強き女だ。きっと強い子が産めるであろう!」
特徴的な大声でぺちゃくちゃしゃべるグラエル。いや、私はそんな気はない!
「いやー…祭りだとほら!男いっぱいいるし独り占めはよくないと…」
言い訳を考えるがこれは非常にマズイ状況ですよ!
「別に誰とまぐわろうが我はかまわんぞ!女は子種をいくつもとっておけるだろう!その中から我の子種を選んで孕んでくれればいいのだ!ここで言うのもなんだが我は強い!そしていつか族長の座につくことも目指している!未来の族長の子を孕めるとは素晴らしき名誉!つまり…」
「あー、あー、あーあー凄いねー!」
もう相槌マシーンと化すしかない私。無碍にすれば今回の事を族長に言いつけかねない。あの族長の事だ、私を閉じ込めて産む機械にさせかねない。
つまり族長と関わること無く祭りの間グラエルの機嫌を取りつつうまく躱してナニしないようにしなければならない。こういうの私知ってる、無理ゲーっていうんだよコレ!
村で心配していたアルギちゃん達と合流した。グラエルが人目につかないよう配慮してくれたのは男気を感じる(だが私の子宮は惚れませんよ)
ボロボロになった服を取り替えお酒造りを始めた。マコレガコを口に入れ発酵(?)させながら明日の作戦を考える事にした。はあ…もう夜のうちに逃げ出そうかしら…。
そして祭りの当日になった。