トカゲの妊娠
ドラゴンを討伐したトカゲは一躍ヒーロー(?)
あと人間じゃないのでセーフです(何が)
「テギルー朝だよー起きてー♪」ゆさゆさゆさ。
ああ、朝か。私はモリュケに許されてベッドの側に敷いた布団の上で起きる。この体になってから朝が弱くて敵わん。誰か温めてくれよもう。私は大きな欠伸をして体を伸ばす…と下腹部に違和感が。なんだろう?なんかゴロゴロしてる…まあいいか。私が立ち上がると同時にノックの音と共にエルノールが入ってくる。
「全員起きたか、さあ出発の前に買い出しにいくぞ。」要するに荷物運びしろって事ですねハイハイ。ってか女の子に荷物運ばせるってどういう神経してるんでしょうかこのフード男は。未だに慣れない首輪を違和感のない位置に直しつつ宿屋から出る。
日もまだ昇っていないのに通りは人が多い。そういえば昨日のドラゴンは解体し終ったのだろうか?あんだけ大きいからまだやってそうだ。群衆の中にはドラゴン見たいだけの野次馬もいそうだな。そう考えつつエルノールについていく。
「おい、見ろよ。あの時のトカゲだぜ。」
「氷吐いてドラゴンを凍りづけにして砕いたらしいわよ。」
「ドラゴンは粉々で素材取れないからギルドがカンカンらしいな。」
お、何やら私の噂を…ってか噂に尾ひれつきすぎじゃないですかね。そして何人かの人々が私達に寄ってくる。おお、私もこんなに有名になったか。感謝してもいいのよ。
「エルノールさんですよね!ありがとうございます!感謝します。」
「これだけの奴隷を従えるなんてなんて強いお方なんでしょう!」
「いやあ、まさかドラゴンを倒せるギルド員がいるなんて凄いです感動しました。」
人々はエルノールに詰め寄る。ちょっと待って欲しい。倒したのは私なんだが…もうちょっとこう、私に感謝してくれないかね!私は咳払いをしつつ一歩前に出る。
「きゃあトカゲよー!」
「いやあトカゲの亜人は初めてみました。こいつをねじ伏せて奴隷にするなんて流石です。」
「トカゲ男きめー!!」
酷い言われようですね、ってか女の子だっちゅーねん!こいつら何度言ったらわかるんだ!?文句を言おうとした私の口をムンズとつかんだエルノールは愛想笑いをしながら歩いて行く。ちょっと、口掴んじゃらめえ…鼻呼吸するときムズムズするのおおーー。
エルノールに鼻先を引きづられたまま商店街へ。そこで樽入りの水を購入…そして担がされる私。
「ちょっと、こんなに水買ってどうすんのエルノール?」
「次の町に行くのに砂漠を抜けなきゃいかんのでな。力持ちがいてくれて助かるよ。」
「えー砂漠ー?ちょっとアタシ嫌だなあ…昼は暑くて夜は超寒いって聞いたんだけどー!」
「マスターの行く所ならどこまでも。」
へえ砂漠ねえ。そういや丘の上の領主の館から広がって見えた砂の地平線がそうか。砂漠なんて生まれてこのかた行ったことないわー。不安だわー。
「あとは防寒具を買っておこう。基本的に暗いうちに移動するからな。テントに食料に、砂よけのゴーグルとマスクも欲しいな。」全部私に持たせる気だろこの野郎。
「ワイン…ワインが欲しい!」こうなりゃ我侭戦法だ。
「必要ないだろ。嗜好品に金はかけられん。」
「やだやだやだワインがなきゃ動かない買って買って買ってー!!」私は荷物を投げ出し仰向けに寝そべり駄々っ子モード。2m超えのトカゲが駄々っ子するのは客観的に見てシュールな光景だが夜歩いて昼間に影でボケーッと休むだけな状態が続くなんて御免こうむる。何か気を紛らわす物がいる。お前らみたいな中世土人みたいに暇人じゃねーんだよバーカバーカうわーん!!
人気の無い路地裏なのをいい事にやりたい放題じゃざまーみろ!モリュケとナオトが冷めた目で見下ろしてくるがそんなこと知ったこっちゃない。甘えたいお年頃なんだよ甘えさせてくれよ私に興味を示さない男なんて嫌いじゃいバーカバーカ!
私が地面でゴロゴロしているとエルノールはため息をつく。
「はあ、わかった。一本だけだぞ。」
「…樽で一本ですねわかります。」
「樽?砂漠で樽2つも担いでいけるわけないだろ!」
「担ぐもん担ぐ!リザードマン舐めんな!買って買って!」
「いや、樽でワインっていくらすると思って…。」
「ドラゴン私が倒したもーん金エルノール独り占めインチキだもーん!じゃあ私はモリュケと一緒にここからオサラバじゃーい!水樽はナオトに担がせろよバーカバーカうわーん買って買って買ってー!!」
モリュケとナオトがドン引きだがここで引くわけにはいかん。私のワインに対する情熱を舐めるなよこのトンチキが!
結局、私の可愛さに負けた(?)のかエルノールは貴族の仲卸からワイン樽を購入。ふふふ、数々の男を落としてきた私を舐めるなよ。トカゲになっても口説きスキルは健在じゃい。ルンルン気分で樽を2つ担いだ私はスキップしながらエルノールに付いて行く。
ふと下腹部の違和感がさらに高まっている。なんだろう、凄くゴロゴロする…トイレって気分でもない。私はお腹をさすりながら歩いている。
色々購入して宿屋に到着。
「日が落ちたら出発するぞ。ちょっとギルドに寄ってくるから宿から出るなよ。」
エルノールはそう言って宿屋から出て行った。ふっふっふ、ワインじゃワイン♪砂漠ではこいつで宴じゃむふふ。私はワイン樽を撫でまわしてうっとりする。
「テギルーそんなにその酒気に入ったのー?あれはさすがにないでしょー。」
「たしかに美味しかったけど、そこまでか?」
うるさい!お前らにはわかるまい、私がどれだけこの神の雫を愛しているかを!!まあ人間の時の酒よりちょっと雑味が多いけど。
私がワイン樽に抱きついていると…ふと、腹部に激痛が。ん、何か悪いの食べたっけ?…なんか下腹部の違和感が頂点に。きっとワインを手に入れた嬉しさで緊張して…いやいや痛い痛い!これは無理い!!
私は腹部の鈍痛に我慢できずにその場に倒れ伏す。いかん、口から泡吹いて失神しそうなぐらい痛いなんじゃこりゃああ。私が下腹部をたしかめると多量の粘液がおしっこの穴から(まあウ○チも同じ穴から出ますが)出ていた。ヤバイ何か出てきそうヤバイなんじゃこりゃどういこっちゃ……あ、これもしかして…アレか?
「ど、どうしたテギル!お前死ぬのか!?」何を言っとるんだナオトちゃん!不謹慎だぞ!
「あ、もしかしてアレかなー?リザードマンのは初めて見るよー♪」モリュケちゃん楽しそうだね…私は激痛でそれどころじゃないがね!
痛さで尻尾をブンブン振るう私。激痛に耐えながら下の服を脱がすと、白くて丸い物体が半分ほど私の体から飛び出していた。ひぐううううう痛てええええええ。
「テギルがんばれがんばれファイトファイト!」
「なんか知らないけど頑張れ頑張れ!」
お前らバカにしとんのか!?私が渾身の力を籠めてウンウン唸る。
スポーーーーン!
出たー!出たぞコンチキショウ!私から出た白くて丸い物体は地面をコロコロ転がる。それをすかさずモリュケちゃんがキャッチする。
「産まれましたー大きいですねー♪」モリュケちゃんがそれを私に渡す。
「もしかしてアレか…いつのまに誰とヤったんだ!」お前ぶん殴るぞ!
直径30cmはある大きな白くて丸い物体…紛うことなき《卵》である。ああ、私の体もそんな歳になったのかー…いやあ感慨深い。別に誰かとニャンニャンしたから出てきたわけじゃない。元々私の種族はニャンニャンしなくても卵産むのだ…ニワトリみたいに。うちの村では無精卵は川に流していたなあ、何かお祈りしながら。
「さあ、お前たち出発するぞ。準備は…。」
ノックの音とともにエルノールが入ってくる。仰向けで下から粘液を垂れ流しながら卵を抱える私と周りのみんな、そしてエルノールが石のようにかたまる。
「……あー、出発は明日にしよう。」
申し訳無さそうに扉を静かに閉めるエルノール。ちょ、ちょっと待て!何か誤解されてないか!?
「え、エルノール!これには深いわけが…!」
「ねー、テギルー。これどうやって食べよーか?」涎を垂らすモリュケちゃん。
「卵って貴重品だぜ。テギルのってのが何か気持ち悪いけど。」食べるき満々ですねキミ達!!もうちょっと私にフォローがあってもいいのでは!?
その後、夕食が運ばれてきて。それを食べる。固くて味気ないパンと変な味のスープ。いつもの食事だ。私は手早く食事を済ませ、卵を抱えてエルノールの部屋をノックする。
「ああ、テギルか。」
「あー、これのことなんですけど。」卵を見せる私。
「父親は誰かな?まあいい、研究材料にはなるな。」
「いやいやいや、無精卵ですから!ってか何だよ研究材料って!?」
「ああなるほど。砂漠に持って行くのも嵩張るし、このサイズの卵ならかなり高く売れるぞ。私に譲ってくれないか?」
ずうずうしいなチミ(人のこと言えないけど)。まあいいや、自分で産んで自分で食うなんてまっぴらごめんなのでここは譲っておこう。こいつには貸しがいっぱいあるし少しぐらい返しておかないと。卵を受け取ったエルノールは光にかざしたりしながら卵をまじまじと観察する。
「ふーむ、ひとつしかないのが悔やまれる。何個かあれば色々試せるんだが。今度産んだらまた私の所に持ってきてくれ。」ほんと悪びれず言うねチミ。
「あーはいはい。じゃあまた明日ね。」
「ふーむ、一度試してから売るべきか。いやここは…。」何やら怪しい独り言の聞こえる部屋を後にして私は部屋へと戻った。




