★トカゲ イズ 奴隷
醤油を発明した(?)テギル達一行はラークの街に向かう。
日が昇り始め、私達は火を消して出発した。やはり先頭私で、2番めエルノール、3番目ナオト、4番目モリュケだ。
私はナオトの方を向き、ニカッとスマイル(トカゲスマイル)するが、ムスッとした顔で横を向いてしまう。たまにピクピク動く頭のケモ耳が可愛い。しかし信頼は得られていないようだ。首にはまった首輪はあいかわらず幾何学的な模様に光が浮き出している。あれがある限り主人のエルノールには逆らえないみたいだ。正直奴隷という概念があったのは驚きだ。まあ私の世界でも半世紀前まで普通だったし、どっかの国では今もいるそうだし、この世界を見た限りだとまあ仕方ないと思う。しかし首輪で強制的に従わせられるというのはなんとも解せない。別にそこませしないでいいのでは?
「見えたぞ、あれがラークの街だ。」エルノールが指差す。石造りの高い塀に囲まれた街だ…高い所に城もみえるぞ。王様でも住んでるのかな?私は早く行かなきゃと歩き出すが、後ろから尻尾をモギュッと掴まれてしまう。ちょっと、尻尾はやめて!
「入る前にこれを首にはめさせてもらう。」尻尾を掴んだエルノールはバッグを漁り、輪っかを取り出す。幾何学的な模様、ケモミミ…ナオトがしているのと同じものだった。
「え、ちょっと。なんで?」私は驚く。そりゃそうだ、なんでそんなもの付けなきゃいけない?だって爆発すんでしょそれ!
「えー、お断りー。」モリュケも言う。当たり前だよなあ。
「理由もなく亜人種を街に入れられるわけないだろう。門番に囲まれるのがオチだ。私の奴隷ということにすれば何とか誤魔化せるだろう?」淡々とした口調で説明するエルノール。
「いやいやいや、だって爆発するでしょそれ!」お断りである。そんなもの付けてたまるか。
「大丈夫だ、別に爆発の魔法はかけてない。これを付けたことによって主従関係が発生することもない。それともここで別れるか?」本当かよ!?こいつ意外としたたかだから何するかわかんないぞ。しかし一人であの塀を登って街に入った後の事を考えると…うーむ、悩みどころだ。
エルノールはモリュケに首輪を渡す。モリュケはその首輪をじーっと見つめていたが、「たしかに魔法はかかってないわねー、じゃあ付けますか♪」と言って自分の首にはめる。魔法使えるモリュケが言うんだから本当なのだろうか。
「待ってろ、テギルの分もある。」と言って向こうをむいて自分のバッグをゴソゴソし始めるエルノール。お前今の隙に私のにだけ魔法かけとるとかそういうことないよな?
結局、渡された首輪を私もつけ、エルノールの人外奴隷ハーレムが完成した。これはエロ展開待ったなしですね!と妄想している間に街の前まで着いた。
「と、止まれ!」慌てた衛兵に止められる。まあ獣人にトカゲにラミアまでいれば当然か。
「大丈夫だ、アイルらは私の奴隷だ。それに私はギルドメンバーだ。」と言って何やら黒いカードを取り出し、衛兵に渡す。衛兵はそれを受け取ると建物に入っていた。そしてすぐに戻ってきて、
「たしかに確認致しました、エルノール殿。さあお入りください。」と言ってすんなり街の中に入れてくれた。おお、凄い!街に入れた、やったぞ。
街の中は石造りの家が並ぶ、中世ヨーロッパのような町並みだった。その家々が、高所にある城まで伸びていた。門のすぐの通りは木の看板や出店が立ち並び、商店街という感じだ。街には人間がたくさん歩いていて、所々にケモ耳を生やした亜人種もいるが、ほとんどが奴隷の首輪をしていた。うーむ、人間至上主義な世界化何かなのだろうか。
門をくぐってすぐ、たくさんの視線が私とモリュケに突き刺さる。どれも奇異な目だ。リザードマンやラミアみたいなあきらかなモンスターはあまりいないのだろうか。見回してもそういった類は見つからなかった。エルフ!エルフ!…いないなあ…。私の中では耳が尖っていてイケメンならエルフなんだが、髭面しかいねえ!
「とりあえず宿泊場所を確保しないとな。付いて来い。」エルノールを先頭に私達は付いて行く。そして裏通りにある一件の古びた建物に着いた。看板には宿屋と書かれている…あれ日本語じゃないけどわかるぞ。んー、どういうことだろう。見た目は象形文字?っぽいけど感覚で理解できるなあ。
「おい、何を呆けている。早く入るぞ。」エルノールの一声で私達は宿屋の中へ。
「いら…しゃいませ。何用で?」宿屋の主人と思わしき人は、私達の姿を見て驚いたようだが、首輪を見るなりホッと胸を撫で下ろした。奴隷首輪様々ですね。
「しばらく滞在したい。一人用と奴隷用の居室を。」と言って、エルノールは銀貨を何枚かカウンターに無造作に投げる。
「へい、ご案内致しやす。」宿屋の主人は私達を2階へと招き入れた。
「奥の部屋が旦那さんには丁度いいかと。奴隷は階段脇の部屋が空いております。何か困ったことがありやしたらすぐに申してください。」と鍵をエルノールに渡し、階段を降りていった。
「ほらテギル、鍵だ。部屋でおとなしくしておけよ。」私に向かって鍵を放ったエルノールはそのまま廊下の部屋に入ってしまった。仕方なく私達は用意された居室に入る。部屋の中は殺風景でベッドが4つ並んでいた。あと埃つもってる…掃除ぐらいしてくれよ。
「おーベッドじゃーん、いやっほい♪」モリュケは早速ベッドに飛び乗る。ナオトは無言でベッドに座った。
私もベッドに座る。メリメリ…嫌な音がする。小さいし、私の体重に耐えられるか心配だ。私はベッドから寝具をおろし、ベッドの脇の床に敷き横になる。
うーん、せっかく人間の町に来たのに外に出ないってのもなんだかなー。外に出たい…外に出たい!
私は起き上がり部屋の外に出る。そしてエルノールの部屋に行き、バタンッとドアを開く。
「エルノール!ちょっと出かけたいんだけど!!」
サッとローブを頭に被るエルノール。チラッと頭の天辺の金髪が見えたな…意外とイケメンかも。
「ノックくらいしろ馬鹿!」怒られた。なんだいいーじゃんちょっとぐらい。
「少し冒険者ギルドに寄ってくる。部屋にいろ。」
「出かけたいんだけど。」
「まあ首輪をしてれば…いや、駄目だ!留守番しておけ。」
エルノールは私を脇にどかして鍵を閉め、宿の外に出て行ってしまった。なんだよあのケチンボ。ちょっとぐらいいーじゃん。
うーん…よし、出かけよう!エルフ見つけるのもあるけど、ワインとか何か美味そうな調味料が売ってるかも知れない。奴隷の首輪してるし堂々と街を歩けるだろう。いざとなれば「エルノールの奴隷です」って言えばいいのだ。
私はさっそく自分の部屋に戻ってモリュケ達を…いやいや待て。あいつら連れてったら碌なことにならならそうだ。ここは一人で行っちゃおう。
私は宿屋の主人にハーイ♪と手を振り、外に出る。そのまま裏通りを抜けて表通りへ。あいかわらずジロジロと見られる、まあ慣れだよ慣れ。私は首輪を弄くりならがら鼻歌を歌って歩き出す。
商店街を歩く。見渡しても人間ばかりで、たまにケモ耳がいるが、奴隷の首輪をして高価そうな服装の人間にくっついている。リザードマンは…まあ私だけだよなあ。とりあえずワイン…ワインが欲しい!私はキョロキョロと看板を見て回った。しかしお酒屋さんらしき店は見当たらなかった。おかしい…酒ぐらい売っていてもいいのに。もしかしたら酒場とかでしか飲めないのかな?
私はふと一件の酒場に入る。中に入ると強面な人達の視線が一斉に私に刺さる。
「なんだアイツ!」
「トカゲ…?」
「奴隷…?なんだ一体?」
ゴソゴソとした話し声。みんな興味津々のご様子で。リザードマンはあまりメジャーじゃないのかな?まあ私の村では閉鎖的だったし、他のリザードマンもそうなのかも。私はカウンターに肘を置き、ここの主人を見下ろす。
「…誰の奴隷だ?何のようだ?」
顔のデコボコした強面のマスターだ。私の姿見ても動じないね、こんな商売だし喧嘩慣れしてるのかな?
「あー、エルノール…さんの奴隷だよ。ワインってないかな?」
「ワインだと?」目つきの鋭くなるマスター。ありゃ、もしかしてワインないのかな?いやいや、もしかしたら呼び方が違うのかも。
「えーと粒粒いっぱいついた果物から作る…なんかほら、果実酒だよ。そーいうのないの?」私は身振り手振りで説明する。
「…知ってるよ。ワインだろ。そんなもん上流階級しか飲めない高級品だ。ここにはハチミツ酒とエールしかねえよ。おととい来な。」そう言って金属製の食器を拭く作業に戻るマスター。おーワイン存在するのかー。しかし高級品か…こりゃ調達に苦労しそうだなあ。エルノールに頼めば買って…くれないだろうな畜生!!私が頭を抱えていると、
「ワインが欲しいのかいトカゲさん。それならツテがあるぜ。」
ふと、私にニヤニヤと後ろから話しかけて来たのは体に鎖を巻き、顔面に大きな火傷跡のあるゴツイ男。
「え、ホント!?」喜び勇んで聞き返す私。
「ああ、もちろんさ。付いてきな!」そう言い放ち酒場の外に出る男。私は心でガッツポーズを取りながら男に付いて行く…いかんスキップしちゃうヤバイヤバイ。
火傷跡の男に付いて行き裏路地に入る。どんどん進んで行くと人通りはなくなり、日も差し込まない暗い場所に入った。ジメジメしてる。
「ねえ、どこまで行くの?」私は聞いてみる。
「…この辺でいいか。」男は立ち止まる。ふと、後ろからいくつかの気配が迫ってくる。走っている…人間?
「ねえ、後ろから人がたくさん来そうなんだけど。大丈夫なの?」私は後ろを振り返る。
「…鋭いな。お前、エルノールの奴隷だそうだな?」ふと男の声が急に低く、威圧的になる。私はすぐに男の方を向き直る。男は口元を歪ませながら私を見据える。
「えっと…そういえば名前を聞いてなかったんだけど。」
「俺…俺か?俺はガンツだ。」
その火傷跡の男が声を発すると共に、後ろの曲がり角から何人もの人が飛び出してくる。いかにもガラの悪そうな奴らで、手にはそれぞれ武器を構えて私を睨んできている。
「ちょっと、何なの?アンタ達!」私はそいつらの方を向き構える。私の低音のデカイ声と巨大な体躯で、男達は一歩下がる。が、敵意は剥き出しだ。襲ってくる気らしい。私は奥歯をむき出しにして威嚇する。
と、私の体に何かが巻き付いてくる。ジャラララ…という鉄が擦れる音。それと共に私は体の自由がきかなくなった。見下ろすと、胴体から足にかけて太い金属製の鎖が巻き付いているではないか!私はバランスを崩し倒れる。そして目に入ったのは伸びた鎖を握りしめる、火傷跡のある男。
「ハハハハ!警戒心なさすぎだぜトカゲ野郎。獣人の方がまだ頭がまわるぜ。」火傷痕の男…ガンツは笑いながら私を見下ろす。そして鎖に巻かれて動けない私の周りに他の男達が群がる。
ガンツは左手で鎖を引っ張りながら右手で剣を抜き、私をいやらしい笑みを浮かべながら見下ろしていた…。




