トカゲはケモミミ娘の夢を見るか?
ケモミミ娘(奴隷)が仲間になったぞ!
私達は森のなかを歩く。私が先頭(なんで?)2番めエルノール。3番目奴隷ケモミミ。4番目モリュケだ。
このケモミミ少女は無口だ。名はマギ村村長曰く、《ナオト》らしい。なんか男っぽい名前だな、と日本人的価値観で思う。首輪は奴隷の必須アイテムらしく、逆らったりすると爆発する魔法が掛けてあるとか…ひい、恐ろしい。アレですか、首から上がポーンていうんですか!?なんか奴隷の証明書みたいなのがエルノールに渡された事で所有者はこのローブ男と認められたとかなんとか。ちょっと意味がわかりませんね。
「ねえ、ナオトだっけ?苗字とかあるの?」
「……」
「私…リザードマンは苗字とか無いから、ほら。あったりするの?」
「……」
ぬぬぬ、この女。俯いてばっかで全然会話にならない!ケモミミは獣の耳に尻尾。あと二の腕から先や腿から足の爪まで橙色にブラックラインの毛で覆われている。爪も鋭く尖っている。顔は…普通の人間、いや産毛程度は生えてるかも。私と同じような胸と股辺りのみの服装で一目で獣人か何かだとわかる。長袖長ズボン靴手袋してたら耳と尻尾だけ見えていい感じじゃないでしょうか。コスプレイヤーで通ると思います。胸はそんなにないですね…勝った(勝ってないです)。
「次の町はラークだ。大きい町だからお前たちを入れるのは苦労するな。」と唐突にエルノール。
「おー人間の町かー。なんだか楽しみー♪」モリュケちゃん…アンタなんでまだ付いてきてるのかなー?
「モリュケ、あなた用事は済んだんじゃなくて?自分の巣に帰らないの?」
「だってー、人間の町とか-楽しそうじゃん。これは付いて行くしかないっしょ。」
怪しいローブ・トカゲ人間・蛇人間・獣人間とかパーティとしてどうなんでしょう。町に入れなさそうな空気がプンプンしてきましたよー。
日も傾き始めたので今日は森の中で野営することになった。エルノールはビスケットのような物を取り出し口に入れる。わけてくれない?と言ったが、「食い物は自分で探せ。」とのありがたいお言葉は頂いた。なんだいあのローブ野郎、全然イケ好かない、フンだ!結局、私とモリュケとケモミミ奴隷の3人で食い物探しとなった。あー、ミリアちゃんを助けた時倒した魔狼を捌いておけばよかった。あの時はミリアちゃんの後追うのでせいいっぱいだったしなー。あるのは虫の燻製ぐらいだ…食べたくない!
3人で手分けして探していると、一匹の魔狼が私の前に飛び出して威嚇してきた。アレ?私の姿見たら逃げると思うんだけど、どうしたんだろう?魔狼は後退りしながらも私から逃げようとしない。これはチャンスとばかりにその魔狼を尻尾で薙ぎ払う。「ギャン!」と絞った細い声を上げ吹き飛ばされたソレは、一瞬で動かなくなった。ふふふ、今日は丸焼きとかいいかもしれませんねー♪
私が魔狼をつまんで持ち帰ろうとする…だがまだ何かの気配を感じる。とても小さな気配を不思議に思いながら茂みをはらうと、そこには…5匹の小さい魔狼がいた。子供だろうか、まだ目も開いていない。その小さい魔狼達は身を寄せ合いながら小刻みに震えていた。
そうか、子育て中だったのかあの魔物。だから気が立ってたんだ。私は指をその魔狼たちの間に差し込む。魔狼達はその指にクンクンと鼻先を突き立てる。ヤバイ…可愛い!!
「声がしたよー。テギルー何かいたー!」あ、モリュケ…とナオト。
「うん、魔狼がいたから…」
「お、魔狼の子供じゃーん。柔らかいんだよねー、せいや!」
モリュケが振り下ろした尻尾は、私の目の前の子供たちを叩き潰した。
ちょ、おま!…えーーー!?
モリュケは「大量大量♪」と言いながら動かなくなった魔狼の子供達を手に持ち口に咥え、向こうではさっそく魔狼の解体、血抜き?を始めるナオトちゃん。あれ、え?なんでこうなった?
「どしたのーテギル?さあ戻ろうよー。」
モリュケとケモミミのナオトの後に呆然と付いて行く私。そうだよね所詮この世は弱肉強食だもんね。私が間違ってたんだ…可愛がろうとか自然舐めてたんだ。親失った時点であの子達は死んだも同然だったし、仕方ないんだ。私は自分にそう言い聞かせながらキャンプに戻る。キャンプではエルノールが焚き火に薪をくべていた。
モリュケは木に登って枝を折り、それを小さい魔狼に突き刺して火の周りに並べる。ヤバイ、残酷!!私はサッと目をそむける。しばらくすると魔狼はこんがり焼き上がり、私達の前にならぶ。うーん、これは…食べたくない!魔狼の獣臭さが熱で化学変化を起こして私の鼻の奥に突き刺さり、可愛い姿がフラッシュバックし…齧れないよおおおお。
「ん、どーしたのテギル?」魔狼の子を噛みちぎりながらモリュケちゃん。その姿を私に見せないでもらえるかなモリュケちゃん!隣ではケモミミ奴隷のナオトも…お腹空いてたんであろう、メチャばくついてる。うー、せめて調味料でもあれば目を瞑って食べられるかもしれないのに…味噌とか醤油とか…ん、醤油?
「ひらめいた!」私は叫ぶ。その姿をポカーンと見つめるお三方。そうだ醤油だ。そういえば記憶によるとお隣の国が毛から作った醤油でドータラコータラ話題になってたはず。毛があれば醤油が作れるはず!
私は自分の体を撫で回す…毛、毛…無いわ!どこ撫で回しても鱗ばっかり、じゃあモリュケの髪…んーさすがに酷か。キョロキョロ見渡すとばったりナオトと目が合う。そーいやこいつ毛フサフサやん、とっても怒らんやろ!
私は切り裂きジャックの強姦魔バージョンの如くナオトに跳びかかり、うつ伏せに押し倒し馬乗りになる。そして腕やら足やら尻尾やら(髪の毛は可哀想なので手に付けないトカゲは淑女)を抜いて抜いて抜きまくる。
「いだ!いだ…痛てーッ!!なにしやがるトカゲ野郎!!」お、しゃべったぞこのケモミミ。しかし口が悪いですねー人間第一印象は大事ですよ。
「ふふふ、ナオトちゃん。醤油造りの礎となりなさい!」
「は?意味わかんね…痛て!おい…やめっ!」
「モリュケ、入れ物が私のバッグに入ってるからとってくれない?」
「うーん、この壺?うわっ!?虫入ってる!!きもーいー。」
「全部出して、それ貸して!」
「ちょ、やめ!…痛い痛い!!」悲痛な声で叫ぶナオトちゃん。ふふふ、ゾクゾクしますねー。お姉ちゃんそういうの嫌いじゃない。
私はナオトちゃんから抜いた毛をその壺の中に押し込んでいく。壺が一杯になった所でケモミミから離れる。
「ふ…ふっざけんな!!このトカゲ野郎!ぶち殺すぞ!」咄嗟に立ち上がり構えるケモミミ。トカゲ野郎じゃないです、トカゲお姉さんです。
「…ナオト。座れ。」座ったまま冷静な様子でケモミミに言うエルノール。君ほんといつもすましてるねー、お姉さんちょっと衣服引剥はがして泣かしたい衝動にかられるよ。
ナオトはギャーギャー言いつつも渋々座る。ようし、ここからだ。ここから醤油…そう、塩酸とかで溶かすとか言ってたな。ふふふ、ちゃんと考えてあるのだよ。
私は壺の前で大きく息を吸い込む、胸の奥でゴポゴポと空気と水分が混ざる音と共に刺激的な臭いが立ち込める。エルノールはサッと離れ、モリュケは鼻を押さえ、ナオトは若干引き気味にこちらを見る。
「ゴゲエエエエエエ!」壺に向かって勢い良く出したその空気はもちろん《ブレス》。黄土色の煙が火に照らされて怪しく輝く。ブレスは壺に入った橙色の毛をすごい勢いで溶かし、壺の奥で泡を立てる黒い液体になった。よし、完成!(本当か!?)
「出来たぞー!これぞ古に伝わりし伝説の調味料なのだ!」私は高々に叫ぶ。3人はポカーンと私を見つめるだけで何も言わない。ふふふ、何も知らない蛮族共め。見せてくれよう、醤油の力を!
私は魔狼の肉(丸焼き)を掲げ、それに向かって壺からドロリとソレを垂らす。んーいい匂い…ん?
黒く垂れた粘着質な黒い液体は、木の枝の先を伝わり肉に広がる。それと共に、木の枝も肉も熱い鉄板に肉を置いたような音を立てて、枝も肉も煙を出しながらみるみる溶け始めた。最後には手に持っていた枝も溶け、小さな肉片だけが残った。私はその肉片をみんなに差し出し「食べる?」と言ってみる。
「…えー、遠慮するわー。」
「…遠慮する。」
「…ザッケンナコラ!」
酷い言われようである。私は渋々自分で口に入れてみる。
んー、凄い刺激臭…だが微かに醤油のコクのある味わいがあるような無いような…つまり醤油だ。間違いないこれは醤油だ!私がモグモグとその肉を食べる様子をみた3人は、
「ぐえ、引くわー。」
「なるほど、これがリザードマンの食事か。」
「…ザッケンナコラ!」
と素晴らしい賛辞を頂いた。んー、しかしこれはみんなに食べて貰うにはちょっと刺激が強すぎるかもしれない。売り物にするにはほんの少し改良が必要ですね。
夜、寝床でナオトに「毛、ありがとにゃん♪」と言ってあげた。社会人として社交例示は必須である。私大人だなあ。
次の瞬間飛んできたのは、モハメドアリ並みの素晴らしいアッパーカットだった…。




