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第二章 行方

八子市は広い。その広さは他県を圧迫するほどだ。その広さゆえに大学もたくさんあるのだ。その中でも帝黒大学ていこくだいがく帝白大学ていはくだいがくと言えば八子市の人間知らない人間はいないだろう。元々は一つだったが、増え続ける学生たちを分断するために二つに別れた、という珍しいキャンパスだ。それ故に偏差値に差はない。どちらも優秀な大学と言っていい市内有名な大学なのだ。距離にしても1㎞も離れていないため、それに元々は一つだということでお互いの親交は深い。では何が違うのか、と言われればそれぞれ売りが違うところにある。帝黒大学の売りはその就職率の高さだ。幅広い学部数の上、各学部の就職率はそれぞれ他大学の群を抜いて高いのである。対して帝白大学の売りは教職を目指す者にとっての様々なカリキュラムが充実している部分にある。八子市に限ったことではないが帝黒大学から出た教員は数知れない。それぞれ二つの大学は評判の故に厳しい面が多いが、それだけ行く価値がある、ということだ。私は教職志望だったので帝黒大学だが、彼は帝白大学へ通っている。確か、高校まではお互い教職を目指していたのに・・・。彼曰くどうしても医者になりたい、と進路を変えたのだとか。どうも納得がいかなかったが、もちろん私は彼のことを尊重したんだろう。

「んじゃ、俺行くから。今日一日がんばれよー。」

「うん!じゃーまた。」

時刻は8時20分頃だ。彼と別れ、帝白大学へと入っていく。すでに何人かの学生たちがキャンパス内にいるのが見える。帝白大学にはいくつかの館に分かれている。計11ある館にはそれぞれの番号から1号館、2号館と名前が付いているのだ。学生たちは学部毎に、講義毎にその館を行き来するというわけだ。元々が広いキャンパスであるために初めは真冬もかなり迷ったものだ。一限の講義室には案の定人は少ない。なにせ始まるまでに40分もあれば、どれだけ真面目な生徒でもない限り時間通りにしかこないだろう。さらに言えばこの講義、教授が来る時間が遅いことでも有名だということ、なおさら人は来ないはずだ。

「んー・・・どうしよう。」

と、一人伸びをする。と同時に人恋しくなった。先ほどまで彼と一緒にいたのだ、そのギャップが応える。もちろんやるべきことがないわけではない、鞄の中を探せば2,3課題が見つかるだろうが・・・、

「・・・・。」

はっきり言って朝から課題をやる気にはなれなかった。さてどうするか・・・

「・・・寝よ。」

早起きしすぎたせいもあってなのか、少し眠かったのだ。時間が来れば誰かが起こしてくれるはず・・・

「ぁっ!」

それは誰か男の声だ。扉側から聞こえた、と振り返ってみてみればやはり、一人の男が立っている。こちらを見つめたかと思えば、直ぐに反対側の方へ向かって自分とは正反対の席に座った。彼とはよく講義がかぶるために見覚えがある。名前は、知らないのだが・・・。学科も違うようだし、これだけ一般科目がかぶるのは珍しいことだ。いつか友だちになれるだろうか・・・。そんなことを考えているうちに真冬は眠りについた。



望月尋もちづきひろは疲れていた。レポート提出のために通常より早く大学へ来たからだ。まあ、今回の件には自分に非がある。提出期限をオーバーしてしまったのだから、しかたがないといえる。だから教授が示したこんな時間でも来た。だがとうの教授がいないのではどうしようもないではないか。

「はぁ・・・。」

研究室には鍵が閉まっていたし、聞けば風邪らしい。おかげさまで必要のない時間に来てしまったのだ。やるせない気分だが、仕方がない、とにかくなにかやることを見つけよう。余っている課題は全て終わらしたし、なにか予習等の物があるわけでもない。ということは・・・

「・・・寝よう。」

そんなことを考えながら講義室の扉を開ける。広い講義室にはまだ人はいな―――いや、一人左側の席に誰かいる。あれは―――

「ぁ!」

彼女も振り向いた。見間違うはずがない、彼女だ。しばらく状況が読み込めなかった。なぜ彼女がここに・・・?いや、もちろん彼女はこの講義を取っているし、いて当然なのだがなぜこの時間に?あの彼女が、だ。いつまでも見つめているわけにも行かず、急いで右側の席へと向かう。彼女とは高校からの付き合いだ。そういえば仲がいいように聞こえるが、実際はそうでもなかった・・・のだろうか。よく話をしたんだ。一緒に笑った記憶もある。だがそれも2年前までの話だった。2年前、尋の両親は離婚した。父の浮気だという風に聞いたが、実際どうだったのかは知らない。母に引き取られ、旧姓の望月へ苗字が変わり、高校は少しの間休学。戻ってきた時には彼女とはクラスが違っていた。時期も時期だ。受験真っ最中だったし彼女と話す機会がなかった。彼女が推薦でこの大学を受かったと風のうわさで聞いた時はとても嬉しかった。同時に絶対に受かってやるという闘争心も。しかし、今ではこんな状況になってしまった。理由はわからずじまいだ。大学で彼女とすれ違うことは何度もある。初めは手を振り声をかけようとした。だが、彼女から返ってきたのは他人を見る目線だった。まるで自分という存在を完全に消し去ったみたいに。もしかしたら彼女の彼氏が牽制したのかもしれない。もちろん自分が知っている人物だ。名前はー確か、雨宮春樹、帝黒大学だったはず。これも風のうわさだが、彼は高校3年の初めに転校してきたそうだ。自分は後から知ったが、その後付き合い始めたらしい。もうすぐ2年が経過するはずだ。高校で何度か、遠目に見たことはある。その時からだろうか・・・、自分が彼女を好きだと自覚したのは。今もなお、自分の気持は変わらず同じ方向を向いている。そしてそのたび考えるんだ。自分と雨宮との違いはなんだったのか・・・。そしてすぐにその考えを振り切る。大学生にまでなっても、自分は高校の時のままだ。それはともかくとして、もし雨宮が自分を牽制しているのだとしたら、自分は彼女に話しかけても行けないんだろうか。そんなことを考え続けていつの間にか1年も経過していた。

「でさぁ?コレがまたすげぇんだ!。」

「へぇ…あぁ!それか。」

「でさぁ!この流線型の―――。」

時間が近づいてきたせいか、講義室は少しずづ学生で満たされていった。反対側の彼女が見えなくなるほどに。自分がいない1年の間に何があったのか。そんなことを尋が知るよしは無い・・・。



 時間は9時を過ぎ、舞はあるものを探していた。随分前に自分自身で片付けたものだが、何処にあるのかわからなくなってしまっていた。実際はそのために片付けたものだ。もう無くなってしまえばいい、と。

「・・・どこにやったかしら。」

最後に見たのはちょうど1年前。『あの』直後だ。クローゼットに引き出し、ベッドの下、テレビの裏、洗面所、台所・・・。家中回って探したがまるで見つからなかった。もしかしたら間違えて捨ててしまったのかもしれない。そうやって探しまわった結果、その跡はひどいものだ。そうして、もう三度もみた棚の引き出しを開けようとして、手を止める。自分はなにをしているんだろう。そもそもあれは1年前に自分で封印したものだったはずだ。見つからないことを前提にして隠したものだ。それをなぜ、なぜこんなになってまで探しているんだろう。自分の真意さえわからぬままに、舞はまた捜索を再開し始めた。とにかく、見つけなければならない。ただそんな気がしたんだ。と、そのときだ。

『ピンポーン』

呼び鈴だ。誰だろうか・・・、何かを頼んだ覚えはない。だがドアを開ければ自分の予想とは全く人物が目の前にいた。

「っよ。」

「・・・なぁにが『っよ』よ?あんたは真冬と中睦まじく大学に行ったはずですじゃない?」

「んー・・・サボって来ちまった。」

とふざけた顔をしながら答えるのは、今の真冬の彼氏、だ。

「はぁ?・・・まったく。」

「とりあえず中に入れてくれない?外寒くってさー。」

と言いながら半ば強引に入ってくる裕也を避けて、ドアを閉める。裕也が来た、ということは・・・だ。薄々感づいてはいたが、あまり良い予感がしない。『何か』が起こる前に『何か』をする、それが私達の役目だ。



 「ふぃーっ寒かった!ってなんだこれ??」

誰もが今の周りの様子を見れば驚くだろう。だが裕也は器用にも残骸を避けてソファに腰掛ける。それを見て、重ねあわせてみても、その姿に言動、何もかもが違う。

「で・・・用件は?」

聞きながら沸かしていたお茶をそっとテーブルに置く。だが相変わらず表情はふざけた笑顔のままだ。

「ズズ・・・んま、言わなくてもわかってるだろ?」

その言葉に、舞は何も言わなかった。問題はあっても解決策はないのだ。真冬の起床のコントロールをしろとでも言うのだろうか。

「今後どうするかを話しに来たんだ。」

「・・・やっぱりね」

そう言って舞は再びやるべきことをし始めた。

「ちょ!それは答えになってねえっての」

飛んできたクッションを避ける裕也の声だ。答え?そんなものはないんだ。

「あら?いつ私に質問した?」

とカーペットをひん剥きながら落ち着いた口調で言い返す。カーペットの下にあるわけがない。あるならその部分だけ盛り上がるはずだ。自分の無意味な行動に腹がたつ。でも手を動かさなければ、何かしなければ・・・。 そんなわけもわからない使命感にただ従っていた。

「それ・・・そうだな。じゃあ真冬はどんな感じだった?」

「いつもどおりよ?」

「でもアイツの起きてきた時間は―――。」

「えぇ、そう!確かに全く同じ時間だった、けどなに?私達に何ができる?なにもないわ!ただ待つだけ・・・。じっと、ね。」

待つのは嫌いだった。何もできない自分にはいつも腹が立つ。確かに、彼女があの時刻に起きてくることは事実だ。だがそれ以外はまだ何も起きていないことも事実。これから何か起こる確証なんて無いしヘタに動けば、真冬の中の違う『何か』を引き出す危険性にもつながる。

「不安なんだよ・・・俺。」

ハッとして顔を上げる。そこにはふざけていない表情の裕也がいた。

「どうすりゃいいんだよ・・・もし、・・・もどったら」

こんなに頼りない裕也を見るのは久々だった。いつもヘラヘラと笑って、他人に弱みを見せないのが夏目裕也なのだ。それだけにいつも以上に不安が募る。

「・・・いいじゃない戻ったって。」

「はっ!?なんで!?そうなったら俺たちはどうなるんだよ!!?」

声を荒げる裕也を舞は冷ややかに見据えた。

「『俺たち』ってなに?」

「何言って―――。」

「『俺たち』?元は誰と誰だと思ってるの?あなたは彼をなんだと思ってるわけ?」

・・・そう、はじめに戻るだけだ、もし、そうなったとしても。

「んなこといったらアイツだって!!!!・・・・・いや・・・、もういい。そんなことたとはどうでもいいんだ・・・」

言いかけた言葉を途中で遮ると、裕也は乱暴にソファに座り込んだ。怒りと悲しみの混ざった顔に舞の心がズキズキと傷んでいた。だからかも知れない。自分でもわからない予感が『あれ』を探させているのかもしれない。裕也の『知らないこと』を、私は知っているから。知らなければいいことだってある。だから裕也は、まだ『裕也』でいられるんだ。何より、今の生活が真冬にとって幸せなんだ。たとえ、はじめに戻ったとしても、真冬にはそれを知る権利がある。私達にはそれを見る義務がある。そうやって私はいつも勝手に自分を納得させてきたんだ。

「私たちは、最後まで手を出しちゃいけない。選ぶのは真冬自身よ。・・・全部真冬のためよ。」

「・・・・・・」

裕也は下を向いたまま動かなかった。こんな裕也を見たいわけではなかった。昔の裕也はいつも笑って、笑わせる。そういう人だった。―――私の前では正直でいて―――。以前私自身が言った言葉だ。そういう意味じゃなかった。そんな意味じゃなかった・・・。今、裕也は誰よりも重いものを背負っている。常に自分の中の葛藤と闘いながら。

「・・・ほら、いつまでも座ってないで。一緒に探してくれない?」

なら私にできることは・・・?

「・・・何を?」

「ぇ?・・・っと古い、日記よ」

支えることだけだ。



 『キーンコーンカーン』

講義終了のベルが鳴り響くと同時に周りの学生たちがワッと動き出す。

「んーー・・・終ったなあ」

今日はこれが最後の講義だ。延々と続く心理学の長々しい話をゆっくりと続けられては疲れるのはしかたのないことだと思う。とは言え、講義後半は睡眠学習していたので全く覚えていないが。ともかく終ったー、とグッと伸びをする。寝起きのせいもあるが頭がうまく働かない。特に何も考えず窓の外を見ていた、そのときだ。

「ほ~ら!なぁに腐ってんの?もうすぐ冬休みだよ?」

振り向くとそこには満面の笑みの日野波ひのなみがいた。

「あぁ、波か・・・。」

「なに?私じゃダメだった??まぁ春樹のほうがいいもんねぇ~♪」

「んな・・・別に・・・そういうわけじゃ―――。」

「へぇ~、そーいうんじゃないんだっ!フフフ。」

明るく笑うと波の短い髪が踊るように揺れる。舞はよく波のことを「現代っ子」と呼ぶが、それほど納得の行くアダ名は見つからないものだ。明るく染まった髪、肌身離さない携帯、おしゃれなファッション。私とは正反対のタイプだ。黒髪、ロングヘアー、服装は落ち着いているし、携帯をよく家に忘れるのが私だし、まぁ無理もない。性格は良く言えば明るい、悪く言えばうるさい、ということだ。それ故にたまにだがうっと惜しいと思うこともある。だが誰よりも私のことを知っていて、誰よりも私を信じてくれる。真冬の唯一無二の親友であり、彼や舞と同じく、高校からの仲だ。

「でも腐りたくもなるよねえ~・・・はぁ。」

「なにそのテンションさっきと真逆じゃない?」

波は感情の移り変わりが激しい。元気だと思ったら急にしょげたり、怒っていると思ったらニコニコしたり・・・。初めはそれに苦労したが、今ではこれはいつもどおりなのだと実感できる。

「それがさぁ~?優の奴が―――。」

「俺がなんだって?」

「「あ。」」

ほぼ同時に声を出す二人の前には波の彼氏だ。町田優まちだゆう、1つ年上の彼は波より一回り大きい。大学に入っても高校からの野球を続けているというだけあってその体は伊達ではない。

「ゆっ優!?なんでここに??」

「俺がここにいちゃわりーのか?」

「そんなこと一言も言ってないでしょ!!?」

言い争う二人だが、真冬にとってそれはほほえましい光景だ。身長の高い優と目線を合わせようと背伸びをしながら口論する波。二人にとってこれがいつもどおりなんだ。

「ん~・・・お邪魔かな?」

わざと聞こえるようなひとりごとの後に、かばんを持ち上げ立ち上がる真冬だが、波がそれを見て悲痛の声を漏らす。

「んな!?そういうわけじゃないし!一緒にいてよ~。」

焦る波を見てニヤリ。いつも波には主導権を握られてばかりだが、こういうときのチャンスは逃せない。今日は舞ねえも出し抜けなかったことだし。いつも真冬をいじる波に対してのささやかな復讐だ。

「私は春樹と一緒に帰るわけ、じゃね~。」

そう言って扉に向かって歩き出すが・・・。

「春樹なら3限前に見かけたけど?」

「えーっ?どこでよ??」

「帝黒とは反対方向だったからもう帰ってるんじゃない?」

波の一言に一瞬にしてテンションが落ちる。今日は行きも帰りも彼と・・・と思ってたのだが。どうやら早起きの徳はもう尽きたみたいだ。

「んで?俺がなんだって?」

そんな真冬そっちのけで優が話題を切り替える。

「んじゃいうけどさ~~!最近なんか冷たくない?」

「つめたいっつぅか、最近は忙しいんだよな。部活に勉強もあるし、論文も書かなきゃなんねぇし。」

「それでも私と一緒に入れる時間くらい作れるでしょ~が!」

「それは―――。」

「私やっぱり帰る。じゃね~」

もはやここにいる意味は無い、と扉に向かって歩き出す。二人の痴話喧嘩を見てももう見飽きたものだし。

「ぁーっ、もう・・・じゃぁねーー♪」

一瞬悲しい顔をした後で笑顔で手を振る波、だがかと思えば、

「で・・・・論文と私と?どっちが大事なわけ?」

ときつくなる波。全くどれが正しい感情なのかわからなくなる。それが一緒にいて楽しいところでもあるのだが。

「今は大事な時期なんだよ・・・出来ればも~少しさ―――。」



 太陽が沈み、オレンジ色の光が家を照らす。時刻は5時くらいだろうか・・・。

「・・・まったくさぁ、自分がしまっといたとこくらい覚えとけよな?」

裕也の不満な声が聞こえる。

「んーっ!四の五の言ってないで探す!!」

これは舞のもっと不満な声だ。目的の代物は家中をひっくり返したが(真冬の部屋を除いて)見つからない。本当になくなってしまったのだろうか・・・?だが、あれは・・・唯一の真実だ。あの時の私がいくら動転していたとは言え、簡単には捨てるはずはないのだが・・・。改めて周りを見渡してみると、悲惨な光景が広がる。元々はシンプルなものしか置いていないリビングだったはずだが、『リビング』と呼べたモノは今やさまざまな物で隙間なく埋まっている。後ろからは半ばやけくそな感じの裕也の声が聞こえてくる。

「あ~あ・・・コレじゃ後片付けも大変だぁな・・・、ってうぉ!?」

『ドン!ガラガラガラ!!!』

裕也のボヤキとともに何かが倒れたような音が響く。

「んもう!何やってんのよ?ってはぁぁあ??!!」

目の前にあるのは倒れたタンスと埋もれた裕也。はっきり言って大惨事だ。

「ど~すんのよこれぇっ!?・・・ぁ・・あれ?」

だが、倒されたタンスの先にはホコリまみれの目的のものがあった。それは、他の人にとってはただの白いキャンパスノートに見えるものだが。そういえば・・・タンスの上のギリギリの隙間に入れてたっけ・・・と、なんとなく記憶が蘇ってくる。

「あった!・・・はぁやっとみつけた・・・」

「んぐ・・・それ俺・・・・椅子じゃないっての俺!」

裕也のうめき声が聞こえるがそんなことはどうでもいい。見つかった、それはいい。問題はこの後だ。

「・・・さてと・・・・・この残骸どうしましょ」

見渡す限りそこはもの、モノ、物。目の前に見える限りない物の山を見て唖然とする。もう1日が3分の1も過ぎているなんてことは考えたくもない。だが、舞はいとも簡単に現実に引き戻される。

『ガチャ』

という音とともに

「ただいまー。」

と真冬の声。このタイミングで帰ってきてしまった。何より裕也がここにいてもらっては不味いのだ。家の状況は置いておくにしても、裕也が家にいるとわかれば真冬は要らない疑問がわくだろう。

「なっ!帰ってきたのか??それはヤバいってどうすっ―――。」

『ドサドサドサッッ!!!』

とっさに周りのものをかき集めて裕也をカモフラージュ。我ながら馬鹿げている、と思う暇もなかった。

「舞ねぇ~、今日さぁ・・・・・・・・ぁ?」

真冬の顔からスーッと笑いが消えて行くのが見える。

「ぁ、・・・真冬・・・おかえりなさい。・・・・あはは・・は、は?」

笑って誤魔化すも唖然とした真冬の顔は変わらない。目の前には残骸の上に座り込む舞。当然の反応だろう。

「って!!!なによこれぇぇ!??」

が、ようやく理解が追いついたのか真冬は叫んだ。

「んーと・・・。地震かな?」

「きてないきてない!これだけ大事なら大惨事だよ!!なにこれどういうこと!!?」

「さぁ~~?・・・。」

『モゾッ』

「っ!?」

途方にくれる真冬の目には、おそらくだが、舞の後ろの妙に盛り上がっている部分が動いたように見えただろう。

「っ!?……なに?」

まずい・・・!と、自分でも何を思ったのか。その盛り上がる部分に腰を下ろす。

『ン・・・ング』

「えっ??!」

途方に暮れる真冬の耳には、おそらくだが、舞の座っている辺りからなにか音を聞き取っただろう。

「あぁ~~お腹すいたっ!私のお腹の音さっきから鳴り止まないの。とりあえず私が今から必死で片付けるから早く着替えてきなさい!ほらはやく!!」

それをかき消すように声を飛ばす。これじゃまるで自分が・・・

「は・・・はい・・・。」

怪しむ目を向けながら2階の部屋に行く真冬。なんとか・・・助かった・・・?緊張が崩れ、ホッと胸を撫で下ろす。

「・・・行ったか?」

自分の下から苦しそうな裕也の声が聞こえる。まったく・・・なぜ今日来たのか・・・。急に裕也のことに腹が立ってくる。

「今のうち!出てって!!」

「そういうんならどいてくれっての」

「ぁ・・・、ゴメン」

上では真冬がタンスを閉める音が聞こえる。なのに裕也はなぜか落ち着いていた。

「は、はやくいきなさ―――」

「真冬のこと・・・頼むな」

そう一言だけ言うと裕也は出て行った。

『ガチャ』

「あれ?舞ねえどっかいくの?」

間一髪、着替え終わった真冬が階段を下りてくる。

「ぅん?扉がちゃんと閉まってなかっただけ・・・」

なんとか一段落だ。もちろん次はあの残骸の片付けをし無くてはならないし、自然とため息が出た。そんなときにふと思ったことがある。裕也の言った言葉だ。―――もし、・・・もどったら―――。真冬はその時どうなってしまうんだろう・・・と。

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