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現実《リアルワールド》オンライン  作者: 消砂 深風陽
【ミカミ編】三章 帰郷旅行編
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寝不足

「次の目的地はルフェルドリアですよね」

 レヴォネさんが地図を広げつつ呟く。

 予定が半日どころか数日ズレ込んだので、大幅に旅程が狂っている。そのため、可能な限り旅程を削りたいらしく、途中いくつかの町をすっ飛ばし、あるいは馬だけ交換してすぐに出発ということになった。

「申し訳ない……」

「いえいえ。馬車は一応貸切ですからね。滞在予定の方で事情を話せば何とでもなりますよ」

 ランドの恐縮する声にも涼しい声で返しつつ、「では次はライラガルドで」などと地図に指を滑らせる。


 旅程も決まり、雑談モードにシフトし始めた頃、榊の部屋から出てきたのか、キャラットもいつの間にやら合流していたので、俺たちはすぐに馬車に乗り込むことにした。


「良い旅を!」

 去り際に声をかけてくれた榊の姿が見えなくなるまで待ってから――とは言っても一礼して中に引っ込んでしまったのですぐ見えなくなったが――カルアはふぅと溜息を吐いた。

 さっき雑談モードになった際に聞いたのだが、カルアは今朝までギルドで仕事をしていたらしい。ヒミも連れていたため浮かなかったかと聞いてみたら、むしろヒミが大人気で、受付に立っているだけで子供たちが寄って来て困ったと苦笑していた。

 まぁそれさえものらりくらりとかわしつつ、数日なんとか仕事をして来たらしい。

 元々、最初の日、俺たちが戻るまでなのでいきなり辞めてしまうこともある、と言ってあったそうで、今朝のうちに全ての引継ぎを――多分完璧に――こなした上で別れを告げてきたとのことだ。


 さて、旅程としてはこの町を出た後、アネンダル峡谷という場所を経由して、最近架けられたらしい石造橋を渡ることでライラガルドへ。

 ちなみに、地図上では今までの経路からおよそ90度進路変更し、ヴィラルド公国を約50キロというニアピンでスルーして、ようやくアネンダル峡谷だ。そもそもアネンダル峡谷はヴィラルドの属するカトゥリク王国の領土の端にあたる場所で、ヴィラルドから見て谷以外はほとんど山に囲まれている。

 山の方はほとんど天然の城壁で、例外は俺たちも通った「月の洞窟」と、俺たちがこれから通る道のみだ。谷の方もほとんど天然の巨大な堀のようなもので、深さは1キロ以上あるのだという。正確には測定していないらしいが、原始的な方法で推測した結果、推定1.6キロほどという話が出たほど深い谷らしい。

 まぁ地図もかなり簡素な感じだしな……などとどうでもいいことを考える。


「ラクティディアスって言って、神の刃とまで称される武器があってね」


 谷の話から、地域の伝承の話になる。クーはこういう伝承とか伝説とか、何気に色々と物知りだな。

 話が出ると鍛冶屋の性か、ボブがぴくりと僅かに表情を動かした。

「持ってるだけで絶対生存を約束されるって伝説があって――」

「……それは伝説じゃないぞ。本当の話だ」

「えっ」

 口を挟んだランドの言葉に驚いたのか、クーが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


 ランドの話は伝説とか伝承とか呼ばれるものですらなかった。

 ランドがまだ子供だった頃、実際にその現物を見たことがあるのだそうだ。


 通称、【絶対生存】のラクティディアス。

 この地域に13ある、神の刃と恐れられる武器のひとつ。

 運命さえも捻じ曲げ、持ち主の生存のみを絶対とすると言われたその武器は、最後の持ち主であるとある王を限界まで生かし続けた。

 口を濁してどのように生きたか、とかそういう話をしないところを見ると、相当長生きしたんだろうなぁ、その王様……などと予想する。多分だが、ランドが会った頃にはかなりの老齢だったんだろう。

 ただし、確かに生存は許されたが、勝利は得られなかったようだ。

 結局は別の国が13の国全てを平定し、13の刃は全て封印されたらしい。

「封印、ってことはまだどこかに?」

「……あぁ、どこかにな」

 一度見てみたいものだ。手に入れたい、とまでは思わないが。



 相変わらす思ったほどには揺れない馬車の中、ルフェリアを始めとした一行はほどんどが寝てしまっていた。人狼ゲームをするかという提案も出ない。やけに静かだと思ったらルフェリアだけでなく、アレイとリーシャも、クー親子も寝入っている。

 起きているのは俺とボブ、カルア、ヒミだけだ。ちなみにキャラットはリーシャの腹の上だ。

 あぁレヴォネさんはさすがに起きてるな。

 そういえばあの人が寝てるところ、あんまり見てないな。大丈夫なんだろうか。

 まぁ宿ではしっかり休息を取ったそうだし、予定外にその休息が長引いたのでむしろ、しばらくは寝なくてもいいと笑っていたが。……それが俺たちに気を使ったのでなければいいんだが。


 かく言う俺は、結局残りのCPを何に使うかなどの思考を放棄し、ベッドに入った。

 焦って使うものでもないし、ある程度の目安も付いたせいもあるが、まぁ生来の優柔不断が顔を必要以上にチラチラ出してくるので仕方なかったのだ。まぁ考えすぎて寝ることもできず、正直寝不足ではあるのだが。


 考えている選択肢としては3つほどある。


 ひとつは、器用度をさらに上げるということ。

 わずか0.25とはいえ、回避や移動が上がるのであれば上げる意味はある。ただしわずか0.25なので極端に強くなれるわけではない。しかし地道にコツコツ上げて行けば、確実に強くなれる能力値ではある。


 ふたつ目は、知力を上げるということ。

 恐らく魔法に関するものが上がると予想しているが、これもあくまで予想。もし予想がハズレたらという怖さが拭えない。


 みっつ目は、体力を上げてみるということ。

 攻撃力を上げる方法としては最有力ではあるが、これも予想にすぎない。その上、弓がいいので攻撃力そのものにはほとんど無意味に思える。……まぁ短刀を使うなら話は別なんだが。


 この3つの中で、個人的に一番心が動くのは器用度だ。

 だが、効果が少ない点に不満がある。

 次点で知力だが、こっちはこっちで不安だ。もし魔法が上がったとして、遠距離特化になってしまうのも魅力ではあるのだが、それだと近距離に不安が残る気がする。ついでに短刀がいつまでも飾りではもったいない気がする。ボブが驚くほどの逸品なのだ、是非使いこなしたいという欲はある。

 ただなぁ。……肉素材が落ちるような敵だと、肉がことごとく毒肉になるんだろうなぁ。

 いや、それはそれで需要があってギルドも喜んで買い取ってくれるんだが、アレを使って何をするかって、暗い想像しかできないのは俺の想像力が貧困だからなのか。そうではないと思いたいが、じゃあやっぱり想像通りの使い方をされてるのかと思うとそれはそれでちょっと何かイヤだ。


「ミカミ」

「……ん?」

「アレは何でしょう」


 不意にカルアが声をかけてきたので思わず振り向くと、カルアが椅子の下の方を指さしている。

 良く良く見ると、何か青っぽい、……どこかで見たような色の何かが落ちている。

 ただ、今アレを取ろうとすると間違いなくルフェリアを起こすだろうな。ただ見に行くだけにしても、馬車が揺れてルフェリアにダイブでもしたら、折角寝てるのに申し訳ない。というか寝てると天使そのものだな、ルフェリア。

「――次の町に着いたら確認するか」

「そうですね」

 元々そのつもりだったのか、それとも素直に俺の言葉に従ってくれたのかはわからないが、ひょこりと首を持ち上げたヒミの眉間を撫でつつ、カルアは呟いた。それを見て気付くことがひとつ。


「まぁ予想は、付くんですが」

「……奇遇だな。俺もだ」


 あの青は、ちょうど目の前にサンプルがあった。

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