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現実《リアルワールド》オンライン  作者: 消砂 深風陽
【ミカミ編】一章 仲間たちとの出会い
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 ユーロゥとは動物ではなく、水棲モンスターだそうだ。

 いい感じに肉汁がたっぷり詰まった唐揚げのようなものが白ご飯いっぱいに敷き詰められ、そこに何かのタレが適度にかかっている。

 要するに唐揚げ丼だ。その肉の違いにすぎないが、これはいいものだ。

「うまいな」

 ボブが酒を飲みつつ、いつの間に頼んだのか丼を片手に呟いた。

 こっちはどうやら海鮮の丼のようだ。彩りが実にうまそうに見える。

「ランチに来たかったなぁ」

 勝手に俺について来たのを忘れたのか、クーが残念そうに言うが、それでもその顔は味に満足しているようだ。

「でもこれ、うちの店にも提案してみようかな。結構重いけど美味しいよね」

「入ったら食いに行くぜ」

 アレイがにやりと笑うと、「うん」とクーが微笑を返した。



 宿に帰る頃には日が落ちており、全体的に赤暗かった景色はすでに一変していた。

 道に面する建物にはほぼ漏れなくランプがかけられており、オレンジの光がやや薄暗くも道を照らしている。

 一定時間ごとに油を補給したりするんだろうか、面倒そうだと思ったが、ある店の前を通った際、ランプに向けて呪文を唱えるのを見て、そう言えばここは異世界で魔法が存在するんだったと思い出した。


 宿に帰ると、散々店で話したせいか、あるいは疲れているのか、3人ともがすぐに横になった。起きているのは俺とヒミくらいだ。


 誰も見ていないのを確認し、スマホを取り出してみると、充電は99%になっていた。宿に入ったことで充電されたのだろう。

 いつもの癖でインターネットを開くが、当然のように「サーバーに接続できません。インターネット接続を確認してください」のエラーが表示され、苦笑する。

 この数日で慣れたつもりだったが、俺はやはり現代人だったか。

 ボタンを押し、使えそうな機能を考えつつ、アプリをいくつか開いて行く。使えないと判断したものは、迷わず消した。

 麻雀ゲームが5個。そのうちひとつをやってみたら、結果は散々だった。別のひとつはネットが必要だったので消した。残りは麻雀フォルダを作って後で検証することにした。

 時計。この世界に来てからも問題なく動いている。アラームもばっちりだが、鳴らすと寝ている連中に迷惑なので音量を最小にした。とりあえず7時にセットでいいか。

 計算機は問題なく使える。カメラも大丈夫そうだ。試しにアレイを撮ると、盗撮防止用のシャッター音が鳴った。そういえばそんな機能もあったっけか。

 撮った写真もちゃんとカメラロールに保存された。問題なさそうか。

 ミュージックを小さい音で鳴らす。ちゃんと鳴るな。ビデオもちゃんと動く。

 電話はさすがに無理だろうな。試しに履歴から職場にかけてみるが、しばらくして「接続できませんでした」と表示された。ウンともスンとも言わなかった。

 地図もさすがに無理があるか。

 コンパス機能は使えた。前の世界で使うことはなかったが、この世界なら使い道はありそうだな。

 メールと呟き機能とSNS系は論外だな、消去。電話やインターネット機能は消せないのでひとまとめにしてフォルダ化しておこう。

 ダウンロードした小説や漫画などもちゃんと読める。暇な時に読もうかと大量にダウンロードしてあったのだが、一作だけを読んでみたら続きものだった。これは気になる。続きは妄想するしかないのか。

 ふと時計表示を見ると日付が変わっていた。ちょっと漫画に熱中しすぎたか。そろそろ横になろう。



 目が覚めると、時刻は6時だった。

 アラームより前に目が覚めたらしい。とりあえず昨日のようにクーに捕まるわけにはいかない。まぁクーなら場所は覚えているだろうから、後で来るかもしれないが。

 できるだけ音を立てないように注意しながらヒミを肩に乗せて部屋を出る。


「ちょっとミカミん」


 と思ったが、部屋を出たところでクーに捕まった。どうやら起こしてしまったらしい。

「……おはよう」

「うん、おはよう。で、何でこっそり行くの」

「起こしたら悪いと思ってな」

 とりあえず言い訳をしておく。

 まぁ半分は本心だしな。そう思っていたのが一昨日なだけだ。

 はぁ、とクーは溜息を吐き「そういうことにしとく」と苦笑した。

「で、今日は世羅さんのところ?」

「いや咲良の方。この前の続きをな」

 ふぅん、と一瞬ジトっと見てから、クーはもう一度苦笑する。

「じゃ、あたしも行く。ご飯食べてからね」

 その苦笑が置いて行かれる自覚はあったからなのか、それとも別の理由からなのかは知らないが、少なくとも許してはもらえたらしい。



「あぁそうだ」

 メシを食べつつふと思い出す。

「今日帰る前、ちょっと寄る所がある」

 クーはスープを掬うスプーンを止め、こちらに視線を向けた。

「一応言っておくけど、明日の夜には出るんだよ?」

「……わかってる」

 ちょっと嫌な予感がする用事なのだが、とりあえず行くだけは行かなければなるまい。

「まぁ、了解。あたしは先に帰るから」

「わかった」

 言ってやると、クーはにこりと笑ってスプーンを再び動かし出した。

 ちなみに、クーは今日も世羅に教わるつもりでいるらしい。俺は、咲良の方にもう一度教わりたいと思っているが、それは明日でもいいだろうか。まぁ最悪俺は咲良、クーは世羅と別れればいいだけだ、支障はない。

 クーの教わっているのは精霊系魔法、「灼熱(ヒート)」だ。薬缶のお湯をわかす名目で習ってはいるが、元々は戦闘用魔法だけあって、生活用として使うには、扱いが難しいらしい。

 難しいと言っても、お湯が吹き零れること以外は完璧にできているらしいので、単に後は練習の問題ということなのだが。



「今日は私?……そうね」

 咲良はちらりとクーに視線を移し、次いで世羅へと視線を移す。

「世羅はそれでいい?」

「ええ。三上さんはまだ次の魔法を覚えるには練習不足ね」

 昨日あれほどやった練習は、どうやら功を奏していないらしい。あっさりとダメ出しされたので少し傷付いたが、まぁダメだというなら仕方ないことなのだろう。

「まぁ、別に私はいいんだけど。アレイさんはもう反復してもらうだけだし」

 聞けば、昨日教えた分を反復練習するようにアレイには言ってあるとのことだ。アレイの素質は恐らく昨日教えた5つが限界で、それ以上に覚えるには少なくとも今まで覚えた5つをひたすら強化し、次ができるかどうかなのだとか。

「……俺は?」

「三上は面白いわね。もう少し伸びそうよ」

 逆に、一応と称してアレイに植物系を教えてみたところ、俺の3倍は使えるようだとのこと。練習しても伸びなければ、俺はこれ以上植物系を伸ばす意味はないが、今使える分を使えるようにしておいて損はない。

「ただ、その肩に乗ってる蛇なんだけど」

 言われ、思わずヒミの詳細を思い浮かべてみる。


<氷蛇ミル:ヒミ>

 体力:7 器用度:10 知力:4 生命力:16

 特殊能力:氷の息、毒の牙、巻き付き

 装備:【守りの尻尾】


 習得魔法:治癒の氷息


 何かいつの間にか魔法を覚えてるな。

「いいコね。ご主人様が頑張って魔法を覚えてるのを真似したのかしら」

 言って、ヒミの額を指でなぞる。

 何の魔法かはわからないようだが、俺には見えているから問題ない。

 それにしても、治癒か。息とあるので吹きかけることで治癒するのだろうか。どうでもいいが寒そうなネーミングだ。

「そのコも、魔法は反復練習よ。まぁ三上がピンチになれば使うでしょ」

「何もなければ使わないのか」

「――そうね」

 逆に怪我をすれば使うなら、ソロ(ぼっち)対策は完璧だな。今回はPT(パーティ)を組んでいるからいいが、今回の旅が終われば俺は再びソロだ。

 少なくとも、ソロで挑めるダンジョンくらいは行けるようになっておかなければなるまい。


「まぁ、それはともかく」


 咲良が澄ました顔で呟いた。

「とりあえず世羅は外でやっててくれる?こっちは少し話があるから」

「わかった、後で合流する?」

「いつものところでやってて」

 世羅がにこやかに応じると、咲良が予想していた答えかのように返す。

 こういうツーカーで伝わるやり取りを見ていると、まさに双子という感じがするな。良く見れば顔も似ているが、普段はそんなに「似ている」という感じはないのだが。


「じゃあ三上さん、後で」

「じゃーねミカミん」


 二人が部屋を出ると、足音が遠ざかるのを待つように咲良が「さて」と呟いてテーブルへ移動した。

「……一応、私には関係のないことだけど」

 ん?と思わず声を出す。

 話がある、と言っていたのを思い出し、とりあえずテーブルに着く。

「明日には帰るのよね?」

「あぁ、そのつもりだ」

 そっか、とだけ呟くと、咲良は少しだけ表情を緩めた。


「――どうだった?この町」


 どうだったか、と聞かれると困るところがある。

 よく考えれば、とりあえず何もわからないまま魔法ギルドへ行き、行き当たりばったりでこの神殿で世羅に会い、2人にこうして魔法を教わることが出来た。

「観光をしていないからな。とりあえずたこ焼きはうまかった」

 あの丸い食べ物はちゃんとたこ焼きだった。中もしっかりタコだったから間違いない。

 多分前の世界の住人が、こっちに伝えたものなのだろう。

 クーたちが買ってきたものの中にはケバブ的なものもあったので、多分こっちの世界に来たのは俺たち日本人だけではなく、世界中からいたのだろう。

「たこ焼き?」

 指で丸いジェスチャーをしつつ、「こんなのだ」と言ってやると、あっさり合点がいったように頷く。

「……あぁ、オクト・ボールね」

 苦笑しつつ、そんな呼び方もあるのねと呟く。

 そして、一度溜息を吐き、咲良は顔を引き締めた。


「カルアさんと会う約束があるわよね?」


 ぎくり、と思わず固まった。

――竜人(カルア)が言ったのか。それともそう予測しただけか。

「警戒しなくていいわよ。どうせ勘でしかないんだし」

 ふっ、と苦笑する咲良。

 ただの勘だったというのならそれでいいのだが。



「あなたに1つお願いがあるのですが」

 カルアはそう切り出した。

「礼をさせろというのは無理だぞ。咲良が断った以上、弟子である俺が礼を受けるわけにもいかんだろ」

 すっぱりと切り捨ててみると、カルアはくすりと苦笑する。

「でしょうね。ですからこれは礼ではありません」

 そう言って、カルアは微笑んだ。


「実は、私は明後日の夜から、とある場所で売りに出されます」


 さらりと。他人(ひと)事のようにカルアは言った。

 意味がわかっていないわけでもないはずだ。

「――今まで陛下に仕えて来た半奴隷としての期間は、来月の明日終了します」

 来月の明日。1ヶ月の期間があるということだ。

「その1ヶ月の猶予期間に、私は別の者に全奴隷として買われるかもしれません」

「――待て待て。ちょっと整理させてくれ」

 一応話を遮り、言おうとしていることを頭で纏める。


 まず1つ目。

 彼女は来月になると、全奴隷を含めた任意の契約内容で売り出される。

 理由は彼女の今の契約主である陛下(トカシア)との契約が切れるため。

「――ト、……陛下に契約をしなおしてもらえばいいんじゃないのか」

「半奴隷は同じ契約主に2度連続で雇ってもらえません」

 その言葉で思い出し『常識の記憶』を手繰る。

 半奴隷が2度雇われることは確かにない。理由は「奴隷が生きていて、かつ契約外の行為をされていないかを確認するため」。

 生きていて、かつそういった違反があったとしても、連続で雇われることがあればその契約違反は有耶無耶にされることが多い。契約違反を確認される前に全奴隷として買い上げ、殺せば済む話になってしまうからだ。よしんば殺さなかったとしても、それに近い口止め行為はされてしまうだろう。

 売らなければいいだけではないかと思うだろうが、貴族や王族など、逆らうことのできない相手はいくらでもいる。だから予めそういった制限を付けてあるというわけだ。


 2つ目。今月で、かつトカシア以外であればカルアを買える。

 トカシアの所にいた竜人だとわかれば、誰かが買おうとするだろう。

「……買われるかもしれない心当たりがあるのか」

「ええ。とても」

 あるらしい。そうなれば、それが嫌な相手なのだろうという予想が付く。


「それで、俺にどうしろと」

「――買われるのであれば、貴方がいい」

 やはりそう来たか。

「理由は?」

「――ただの勘です」

 勘。俺なら変には扱わないと思ったのか。それとも、一度助けたからか。どちらもありえないことではない。

「一応聞いておくが、これは俺にとって『厄介事』か?」

 カルアは一度、何かを即答しかけた。

 言葉を止めたのはそれを思い止まったのか、それとも何か言葉を変えたのか。帰ってきた言葉は、たった一言だった。


「はい」



 下手をすればカルアの一生を左右するような内容だ。その場では即答せず、とりあえず考えておくとだけ返答してある。一応その時に奴隷商館の場所も聞いてあるので、どちらにせよ行って改めて話をする。

 それが俺の今夜の用事だ。

 カルアは今日、商館との手続きのために商館へ行くので、その時話し合おうということだ。


「一応聞いておこうかと思ったんだけど」


 咲良が、溜息を吐く。

「いや、……こっちで解決する」

「――そう?」

 あぁ、と生返事を返す。

 どうするにしても、とりあえずはカルアと話をしてから考えるべきことだからな。

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