WANTED
満足そうなルナの顔を見ながら、コーヒーとチョコレートケーキを食べる。ほど良い甘さと苦さが絶妙な逸品だ。うめぇ。
幸せそうな顔を隠しもせず、「ご馳走様でした」と三つ指をやろうとしたので、「さすがに人前はやめとけ」とひょいと持ち上げる。
「人前じゃなければいいんですね?」
「ダメだ」
突っぱねてやると、嬉しそうに振っていた尻尾が一気に意気消沈した。
「イジワルです……」
意地悪なのだろうか。ちょっと使い方が間違っている気がするぞルナよ。
店を出ると、掲示板のようなものを発見した。
例によって何が書いてあるのかわからんのだが、男の似顔絵が書いてある。
――あれ、これどっかで見たことがある顔だな。
「ルナ、これ読めるか」
「……そういえばルーン文字は読めないんでしたね」
数字は読めるけどな、と強がりたいところだが、ちょっと恥ずかしいのでやめておくことにする。まだ数字もちょっと怪しい時もあるし時間かかるしな。
ルナは俺の前に出ると、背伸びをしてふむふむと文字を目で追い始めた。
「人探しですね。犯罪者ではないようですが、緊急手配のようではあります」
ふむ。犯罪者ではないが緊急手配か。
書いてあることを読んでもらってみれば、ある魔法を使えるのがこの手配されている人物くらいで、珍しい魔法なので他に心当たりもないとのことらしい。
「要するに、このサラディという貴族さまが、何かの理由で彼を探しているんでしょう」
「……ふむ」
見覚えがあるんだよな。この顔。そりゃもう物凄く。
ちなみに、俺でも読めるその数字は、多分1万$。白銭10枚分ほどだ。
「これ、1万って書いてあるよな」
「はい。随分太っ腹なんですね」
念のため確認してみるがやはり間違いではないようだ。見ろ、俺だってやればできるんだと内心鼻高々だが、ルナにしてみれば読めて当たり前なのだろう。
「ちなみに報酬を受けられる条件は?」
「えーと……」
ルナがもう一度ちらりと掲示板を見上げるので、上の方は見えにくかろうとひょいと持ち上げてやる。
「ミカミさまミカミさま?……私は目がいいので大丈夫ですよ」
「遠慮するな」
「恥ずかしいです、下ろして下さいぃ」
少しだけ顔を赤くして抗議するので、「そうか」とだけ返事をして下ろしてやると、もう一度掲示板を眺め、「ありました」と呟くように言った。少しまだ顔が赤いので、からかった甲斐があったもとい善意でやったのに失礼なことだ。
「明日までの期間、彼の行き先への最も有力な情報に報酬とのことです」
ふむ、と声に出さず考える。
多分だが、俺はこの件に関して最有力情報を出すことが出来る。リーシャへの相談は必要かもしれないが、少なくともリーシャ以外の人間に、俺以上の情報を出すことは難しいだろう。
「有力な情報かどうかの審査は?」
「えっと……【嘘発見】の魔法のようです」
魔法か。ライディス……なんちゃらが何かはわからないが、魔法ならば証明はできるはずだ。
「あとひとつ確認してくれ」
「はい」
忘れてはいけない確認がある。
「【秘密厳守】の文字はあるか?」
最悪、俺の名前は出してもいい。
だが俺の居場所は教えられない。リーシャへの確認の前に、この人探しで俺たちの居場所がバレるようでは元も子もないだろう。
「あ、ありました。【秘匿情報や個人情報は固く守ることを誓う】とあります」
よし。これでとりあえず、リーシャへの相談は出来るはずだ。
少しだけ早足で宿に帰ると、元々宿でのんびりしていたリーシャはさておき、ローリーもすでに帰っていた。坂と階段で息切れはしたが、高い【体力】ステータスが功を奏したのか、それほど疲れもない。
「リーシャ、少し話がある」
「はい?」
とりあえずテーブルに着きリーシャを呼ぶと、怪訝そうな顔をしながらリーシャも席についた。ローリーも暇だったのか、なぜか同様に座ったので、ルナも椅子に座り、結局全員がテーブルに着いた。
「話って何ですか?」
「……とりあえず、さっき魔法ギルドに行ったんだが」
話している間、リーシャは「はぁ」とか「ふむ」とか気のない返事を返し続けた。とりあえず話の核心には触れず、話せる部分を一気に話す。
「――つまりその、似顔絵の男を探し出せば」
「あっという間に1万$が手に入るということだ」
「悪くない話ではありますが……」
リーシャは何かを考えるように、「ふむ」と考える素振りを見せた。
「そもそも、人探しってそうそう見付からないでしょう」
「……まぁ、普通ならそうだ」
「何か当てがあるんですか?」
さすがにローリーは、俺が何らかの「当て」を持っていることに気付いたようだ。
「あぁ。当てはある」
断言してやると、リーシャが「ルナの嗅覚とかっていうのはナシですよ」と苦笑を向けるので、さすがに苦笑を返す。そもそも亜族の鼻がそんなにいいものなのかどうか、俺は知らないからな。
「それはない」
「じゃあ、どんな当てですか」
リーシャはそこまで言ってから、「あ」と表情を固まらせた。
「まさか」
「……そのまさかだ」
思い至ったのだろう。魔法を使う、俺とリーシャの共通の「当て」に。
思い至ればひとりしかいないしな。
「私たちの居場所、バレませんか」
「一応、秘密は厳守だそうだ」
「でも」
苦い表情を作るリーシャ。まぁ気持ちはわかる。
ローリーやルナは意味がわからないという顔をしているが、……まぁ俺とリーシャで通じるものがあると理解してくれたのか、黙って成り行きを見守っている。
当然だが説得はしない。……無理を言って大事な仲間に逃げられたら困るからな。まぁ今となってはローリーもルナも大事な仲間ではあるが、……やはり放ってはおけないという意味でも、離れるわけにはいかないだろう。
少しの間、リーシャは百面相のように感情と表情を変化させながら、最後には苦い顔で何かを悩んでいたが、ふと、何かを決めたように顔を上げた。
「――いくつか聞いてもいいですか」
「あぁ。実際に読んだのはルナだからルナに聞いてみてくれ」
「はい」
リーシャが確認したのは、俺がルナに探してもらったものとほとんど同じだった。査定の方法が魔法での確認であること、個人情報の管理や秘匿情報管理は守ると書かれていたらしいこと、それから探している貴族の名前にまで話が及ぶと、リーシャが驚いたような顔を見せた。
「――サラディ・ルディウスですか?あの富豪王の」
「知ってるのか」
「……一応有名人ですが」
もう一度苦笑を見せると、リーシャは溜息を吐いた。
腕を組み、「うーん」と唸りながら天井を見上げ、そしてもう一度視線を俺に戻した。
「自分でもそれを確認してみたいです。ルナ、案内してもらえますか」
「はい、リーシャさま」
苦笑しながらも何かを決めた顔。今までのリーシャならここまで来れば多分、よほどのことがなければ反対はしないだろうと思うし、俺から逃げたりもしないと思う。見に行きたいというのは、自分の目でも不安要素がないかを確かめたいのだろうと予想も付くしな。
「――ミカミンさん」
「ん?」
家を出る直前、リーシャが振り向いて呟いた。
「……その、……ありがとうございます」
少しだけ顔が赤いように見えたのは、嬉しそうな顔をしているように見えたからだろうか。
まぁ気持ちはわかる。
俺もアレを見た時、言い知れない感情を持ったしな。
正直に端的に言ってしまえば、……もしかしたら二度と出会うことのない立場になってしまったかもしれない相手にばったり出くわしてしまったような感じだ。まぁ状況も似ているわけだが。
喜怒哀楽で言えば喜びに近い感情だ。悪い気分ではない。
――あの似顔絵、どう見てもアレイだったしな。




