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対魔の猫~イレギュラー~  作者: 繃琥
1.厄災の影
7/9

1-6

「…どうした」


いきなり自分と机の間に割り込み自分に背を向け体を預ける優香を後ろから軽く抱きしめ、耳元で囁いた。


「ねえ、漣」


優香も自分の腰に手を回してきた漣の腕に手を添え、話を続ける。


「なんだ」


「私達、婚約者フィアンセなんだよね?」


「そうだな。ただ俺はその言い方は好きじゃない」


「じゃあ婚約者こんやくしゃ?」


「ああ。そっちの方がいい」


「そっか。あのさ、すごく言いづらいんだけど」


「あ?」


「その…仲間外れは、ちょっと寂しいかも」


「………」


漣はその言葉で優香が何を聞きたいのか瞬時に理解した。

先ほど香理と二人きりで話した内容と、漣がいつもと違う・・・・・・態度を理由という鎖で直結させ、それが自分にも関わっているのにも関わらずそれを教えてくれないことに多少の不安と不満が混じっていると。しかし、それでも漣は、優香の言葉にしばらくの沈黙を返した。

言いたいが言いたくない。本当の話をすれば少しでも優香に対する危険・・・・・・・・を減らすことが出来るかもしれない…だが、それは優香を自分の知る危険・・に巻き込んでしまうということでもあり、婚約者としてそんなことはとても賛同出来ることではない。漣はそんな矛盾を心の内に抱えながら何とか言葉を紡いだ。


「…少しの間だけだ」


「今、教えてはくれないの?」


分かってはいた。こんな言葉で優香は納得させることは出来ない。だが、今ここで抱きしめている細く自分より小さな体に触れているだけで真実を言うのを躊躇ってしまう。


「…無茶言うな。お前は明日の宿題でも手一杯だろ」


「もう。教えてくれないならそう言ってくれればいいのに」


「教えないとは言ってない。ただ、今は時期じゃないだけだ」


「…それを教えないって言うんじゃないの?」


「違う。もうお前黙ってろ」


「なっその扱いはひど―――」


漣の言葉に不満だと文句を言おうと振り向いた瞬間、漣に顎を掴まれ拒絶する間もなくその唇を漣と同じもので塞がれ、優香は目を見開いた。


「これで勘弁しろ」


「……」


「優香?」


いきなり漣に背を向け膝を抱えて俯いてしまった優香に漣は話しかけるが、優香は顔を上げずにぼそっと呟いた。


「……婚約者フィアンセだからってやり過ぎだよ」


「だから、俺はその言い方は好きじゃない」


「わざとに決まってるでしょ」


「なに拗ねてんだ。初めてでもないくせに」


「確かに、どっかの誰かさんがムードもなくしてくれましたからね」


「…まだ根に持ってんのかよ。悪かったって謝っただろ」


「謝ったくせにまたするわけ?反省してる?」


「してる」


「…本音は?」


漣の即答に胡散臭そうに優香は疑わしい口調で確かめる。


「…正直、役得だと思ってる」


「やっぱり反省してないじゃない!」


ばっと振り向いて俯きながら漣の鎖骨辺りをポカポカと殴り始めた優香を漣はなんでもなさそうに受け流しながらさらっと言葉を発した。


「婚約者なんだから、別にこれくらいいいだろ」


なんでもないような言葉に、優香は殴る回数を更に増やしながら反論する。


「婚約者って言ったって、私の親と漣の親が昔に口約束しただけで実質無効でしょ!」


「まあ、そうなるな」


「もう!付き合ってるわけでもないのにどうして婚約者なんて!」


「別にいいだろ」


「よくない!女心を分かれこの馬鹿!」


「はいはい」


「本当に…付き合ってるわけでもないのによく出来るね」


まだ殴り続ける優香の両手を掴み、漣は優香の顔を覗き込んだ。そこには顔を真っ赤にしながら怒った顔をした優香が漣を睨み付けていた。


「…そう怒るなよ」


「怒ってない。漣の神経を疑っただけ」


「それを怒ってるって言うんだ」


「違うもん。彼女でもない私にキスできる漣がおかしいって思っただけ」


「だから、婚約者だからだろ」


「そうじゃないよ」


優香はふと真面目な顔をして漣を見上げた。その漆黒の瞳に、漣は一瞬吸い込まれるような錯覚を覚えた。


「キスは普通、好きな人にするものなのに漣は婚約者という肩書きだけで、好きでもない私にキスできることが信じらんないの」


「…駄目なのか?」


「駄目とかじゃなくて、普通じゃないの」


「普通か…」


優香の言葉の普通という意味。優香の言っていることは意味も分かるし納得も出来る。だけど、漣はそれよりも普通という言葉に引っかかった。優香の口ぶりには普通とは優香の基準になっていて、それから外れるとそれらは全て普通ではなくなり、大半の人がそれを理屈ではなく本能で納得しているというニュアンスが含まれていた。それを踏まえても、漣と香理のやりとりも出来事も普通でないし、これから優香を巻き込むであろうと分かっている出来事も普通ではない。そんな時、優香はやありそれを普通ではないと認識しそれを普通と認識し続けてそれが全てだと思い込んでいた自分を、優香は否定するのだろうか。漣にとって、優香が巻き込まれるか否かよりもそっちの方がより心が痛むことであった。


…少し謎かけがすぎたように感じました。

さて、少し歪んだユカとレンの関係。婚約者であり幼馴染という立場だけの関係の中一体どう発展していくのか…それは作者にもわかりません。

まあそれはレンの動きっぷり次第だよね。

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