1-5
「優香、入るぞ」
ノックもせずに優香の部屋に入る漣。
「あ、漣。ここ教えて」
部屋に入ると漣の言うとおりに、机の上に教科書やらプリントやらノートを目一杯に広げ眉をハの字に曲げて涙目になっている優香がいた。
そんな優香を見て、漣は先程香理と話したことを思い出したがなんだかそれらを考えるのが馬鹿らしくなり、思わず小さく笑ってしまった。
「何で笑うの…本当に難しいんだよ!」
漣の笑みを勘違いした優香が膨れっ面で文句を言うが、漣はそれを訂正せずに優香の隣に座ってその勉強の進み具合を吟味した。ノートには今回の宿題が半分くらいしか進められておらず、漣と香理が話している時間を考えればもう少し進んでも良さそうな量ではあったが、漣はそれを指摘はせずいきなり優香が進めていた問題の間違いから指摘していく。
「違う。ここはこう…何回教えたと思ってるんだ」
「まだ二回しか教えてもらってないもん」
「自慢げに言うな。一回で覚えろ」
「無理だよ。あの学校に入るのだってすっごく苦労したんだから!」
「一番苦労したのは俺だ。何回も何回も同じことを教えている身にもなれ」
「聞-こーえーなーいー」
「…ったく、とりあえずここまで頑張れ。あとは明日教えてやる」
「え?いいの?」
「確かこの宿題は明後日までのだろ。なら明日で終わらせるぞ」
「ありがとう、漣」
話も宿題も一段落したところで、優香はベットに寝転がり台所から持ってきていたお菓子をつまみながら漣を談笑していた。
「そういえば、お母さんと何の話をしてたの?」
その言葉に、同じように床に座ってお菓子をつまんでいた漣の眉が微かに跳ね上がったが香理との話をそこでは言わず、逆に優香に話しかけた。
「大した話じゃない。それより、〈神具〉は持ってるか?」
「あるよ。ここに」
そう言って枕の下から〈神具〉…二丁の拳銃を取り出した。銀一色に鈍く光りながらもそれは人を傷つけることが出来ると思い知らさせる威圧感を放っていた。ベットから起き上がった優香は二つの拳銃を両手で漣に向かって構え、話しかける。
「ねえ、漣」
「なんだ」
「私漣に向けてるんだよ?」
「それがどうした」
しかし優香の言動にも動じず、漣は目の前のお菓子から顔を上げずに食べる手を止めない。
その姿を見て、優香は溜息をついて二つの拳銃を下ろした。そして漣の隣に座り、同じようにお菓子に手を伸ばす。
「もう…私が撃っちゃうかもとか思わないの?しかも人が朝早くに作ったクッキーばっかり食べるくせに作った本人には見向きもしないなんて、失礼しちゃう」
「はいはい、悪かった悪かった」
言葉通り悪びれもなく謝る漣に、ムッとした優香はお皿ごと漣から遠ざけ、所謂お預け状態をつくった。
「あ、お前!俺の楽しみを奪うな!」
「私が作ったんだから食べる権利があるかどうかは私が決めます」
「なに敬語使ってすましてんだ。いいからそれ寄こせ」
優香からお菓子を奪おうと、体を傾けて手を伸ばすと優香はその手から逃げ立ち上がってベットに座り一人で食べ始めた。
「そんなにクッキーが食べたいなら買ってくればいいじゃない」
「馬鹿言うな。俺はお前の作ったものだから食いたいんだ」
「え?じゃあもしこのクッキーが買ったものだったら?」
「別にそこまで食いたいとは思わない。あ、明日はスイートポテトが食いたい」
「あんたね…今さりげなくおねだりしたでしょ」
中々聞けない漣の言葉に、一瞬心臓が跳ねたかと思うと次の催促の言葉に呆れたように肩を落としてクッキーを机の上に戻した。その途端に漣はまた手を伸ばしてクッキーを口に運ぶ。そんな漣を見て、優香は嬉しそうに微笑み、ベットから離れ胡坐をかいている漣の足の間に腰を下ろした。
また話の都合上短くなってしまった…作者はどうも歪んだ恋愛が好きだと実感しました。
それにしてもユカがお菓子作りなんて…作者にも分けて欲しい…。