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対魔の猫~イレギュラー~  作者: 繃琥
1.厄災の影
3/9

1-2

3秒ほどコール音がしたあと、どこかおっとりとした大人の女性の声が優香の携帯から微かに漏れてきた。


「あ、お母さん。うん、今家の前…もちろんいるよ」


相手の声が微かに漏れるとはいっても会話の内容まで聞こえてくるわけではない。

優香はそこで一度、連を見て笑いかけた。漣はどう反応していいのか分からず、仏頂面ではあったが、その場から立ち去ろうとせずに優香を横目で見る。


「うん、分かってる。ちゃんと腕につけてるよ」


そう言って、今度は携帯を持っていない方の自分の腕を少しだけ上げ、その腕に嵌めている金色の細めのシンプルな腕輪を見つめる。漣もつられてそれを横目で見やるが、すぐに眉をしかめて顔を背けた。

漣の態度に気付かず、優香は相手と話を続ける。


「分かった。うん、また後でね」


話も終わり、携帯を閉じて自分の家の門を軽く叩く優香。すると門が真っ二つに割れるように内開きに同時に開き、中から白い上衣に赤い袴の巫女装束姿を着た女が二人、優香と漣を出迎えるために並んで立っていた。


「「お帰りなさいませ御子様」」


「うん、ただいま」


「「いらっしゃいませ 犬塚様」」


「邪魔する」


まだ高校生の少女が「御子様」などと仰々しく出迎えられているのが分かる通り、優香はこの町の一番大きな神社の一人娘だった。小さいころから神社の隣に大きな屋敷が構えられている家で神主の娘としての教育を受け、跡取りに相応しくなるべく育てられている。

その権力はこの街の市長と同等、市長が困ったことがあれば直々に時宮家を頼りにやってくるあたりそれ以上の権力を有すると言っても過言ではなかった。

漣はその時宮家と比べると少し劣るかもしれないが、それでも肩を並べても支障がないといっていいほどの社家の息子だった。犬塚家もまた時宮家と同様に神を奉り、その土地に屋敷を構え時宮家と家族ぐるみで良好な関係を築いていた。

巫女装束の世話人たちに出迎えられることなど慣れっこの二人はそのまま優香の私室へと向かう。時宮家の屋敷はとても広く、日本古来の長く赤い手すりの廊下を何本も渡ってようやく優香の部屋へと着いた。


「相変わらずここは広いな」


優香の私室に案内された漣は、一人で使うには広くて使い方に困る部屋の中で溜息をついた。


「これでも狭いほうだよ。それに漣の部屋だって同じくらいじゃない?」


「いや、お前のほうが広い」


優香が鞄をベッドのそばに鞄を放り投げ、制服のままベッドにダイブした傍ら。

漣はそばにある座布団に腰をおろして鞄をそばに置き、目の前にある丸い大理石のテーブルに片肘をついてだらしない優香を呆れ顔で見やった。大きな古い社家の屋敷とはいえど、私室はある程度個人の趣味…もとい、年頃の女の子が愛用する近現ものがちらほらうかがえる。


「おい、制服がしわだらけになるぞ」


「どうせもうすぐ来るよ」


誰が何が、とは言わない。

これは毎回漣に注意されていることであると同時に、優香がこの屋敷の中でも位が高いということを嫌でも再認識させられることだからだった。

優香が言い終わると同時に、優香の私室をノックする音が聞こえた。


「御子様。お迎えに上がりました」


「入っていいよ」


「失礼致します」


ドアを見向きもしない優香の前に、先程門にいた女二人とは違う巫女装束の世話人が姿を現した。世話人は漣の前で一礼をすると、既にベッドから起き上がって座っていた優香の目の前に正座をし、深く礼をして口を開いた。


「お帰りなさいませ、御子様。大巫女様からの言伝ことづてを預かっております」


「うん」


「衣装変えの後、その足で犬塚様と共に紫陽花アジサイの間にお越しくださるようにとのこと」


衣装変えとは、ここでは正規の衣装――正装に着替えることを指す。

世話人の言葉に、いち早く反応したのは漣だった。ついていた肘を離し、世話人を睨むような目付きで唸るように詰問する。


「どうして俺まで行かなきゃならない」


「漣、目付きが怖いよ」


「お前は少し黙ってろ。俺らの家はお前らに指示権でも渡した覚えはないぞ」


そんな漣のきつい言葉にも、世話人は臆することなく無表情のままたった一言で漣を黙らせた。

世話人としては、ただ事実を伝えただけだから黙らせたかったわけではないと思うが。


「犬塚家当主様のご意見です」


「…ちっ」


「ほら行こうよ」


隠しもせず、忌々しそうに舌打ちした漣の腕を優香は引っ張り上げて一緒に部屋を出た。

先頭に立った世話人の後ろを二人は仲睦まじく―――実際は優香が嫌がる漣の腕を楽しそうに掴んでいるので語弊があるかもしれないが―――腕を組んで歩く。


「御子様はこちらに。犬塚様はこちらです」


二人は世話人の言葉で別々に分かれ、隣同士の部屋に一人ずつ入っていく。5分ほどして先に出てきたのは正装に着替えた漣。真っ白い上衣よりも存在感を醸し出す黒い袴を着こなし、袴同様の黒い烏帽子を被り、腰には不似合いな日本刀を携えていた。稟というより清冷せいれいという言葉が似合う漣の狩衣姿だった。


「はー…親父達もグルかよ」


漣が深く溜息をついて日本刀を鞘から抜き、刃毀はこぼれのチェックをしていると隣の部屋から優香が姿を現した。


「…これから人斬りでもしにいくの?」


「勝手に俺を人殺しにするな」


そう言って優香を振り返った漣は、その姿を見て軽く息を呑んだ。

深紅の袴は白い上衣に良く映え、その細い両肩から脇を通って背中で喋喋結びをされた細い綱のたすきの両端には小さな金色の鈴が小さくその存在を鳴り響かせていた。優香の白くすらりとした首には黒い首輪が巻かれ、その首にも同じ金色の鈴が動く度にちりんと音を立てた。袖の裾には赤く荒い点線上に刺繍が入っていて深紅の袴とも相まっている。そして腰まで流れるような艶やかな黒髪は一本の白い布によって高く一本に纏められていた。中にはトレーニングウェアを着ているのか、時々上衣の袖口の中から黒く手首までぴったりとした袖が見え隠れしていた。

そんな普通、所謂いわゆる一般の巫女装束とはかなり異なる巫女の正装で稟と佇む優香がいた。


「…相変わらすその襷と首の鈴はうるさいな」


「仕方ないでしょ、これが正装なんだから。漣だって銃刀法違反で捕まるよ」


「俺だってこれも含めて正装だ」


全く刃毀れのない日本刀を鞘に戻しながらそんな軽口を叩き合う二人の前で先程優香達を案内した世話人が話しかけた。


「大巫女様がお待ちです」


そう言いながら二人に背を向けて歩く世話人の後を、漣は目付きの悪い目をさらに尖らせながら、優香はそんな漣を見て苦笑いしながら付いていく。


神社の知識がないのは大目に見てください…。

でも巫女服や神主服っていいですよね。…ごめんなさい、趣味です、はい。

まだまだ出したいものがたくさんで追いついていかない…でも、趣味のために頑張ります!

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