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とある一般私立高校に、一人の少女が入学した。
その黒く腰まで流れるような滑らかな髪に漆黒の瞳を持ち合わせ、端正な顔を緊張と期待に染め、真新しい白いワンピース型のセーラー服を着こなし一歩一歩その地を確認するように歩いていった。
「やっと…ここまできたんだ」
少女の嬉しそうな、けれどどこか物足りなさそうな独り言は誰も聞くことなく皆彼女の横を通り次々に門の中に入っていく。今日は入学式とあって、生徒だけではなくその家族もいるようでたくさんの人が少女の横を通って行った。
少女も覚悟を決めたような面持ちで、ついにその門の中へと足を踏み入れた。
「これより、本年度の入学式を始めたいと思います。まずは本校の校長からのあいさつを――――」
少女を始め、たくさんの生徒が色々な面持ちで体育館の壇上を見つめ、新しい生活への期待感を、新しい環境への不安感を抱えていた。その中で少女は胸を高ぶらせながら校長の話を聞き流し、これまでの苦渋を反芻していた。
(ここに入るまでどれだけ勉強したことか…同い年の幼馴染にも散々駄目出しされても、挫けそうになってやけ食いしても完全に諦めることなくやってきたのよ。必ずこの学校であの幼馴染が悔しがるくらいにまで青春を満喫して綺麗に卒業してやるんだから!)
少女の意気込み。
校長の演説。
体育館の熱気。
新年度に相応しい気持ちの浮つきと、長い校長の話と、たくさんの人達の熱気と。
それらが交じり合い交錯していく中で、ゆっくりと〈時〉の中で物語が動き出す。
少女の日常は、彼女の感じていた平和は、非日常へと変貌しようとしていた。