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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編シリーズ

コドクに至る

作者: 翡翠
掲載日:2026/06/13


 無貌、それが私が最後に見た情景だ。


 私は、とある事情でここに閉じ込められたモノである。

 ここが何処で、なぜ私が連れて来られたかも分からない。

 だが、どうやらここに連れて来られたのは私だけではなかったようだ。

 真っ暗な場所だが、私には何がいるのか正確に分かる。

 

 虫だ。


 私の周辺には、夥しいほどの昆虫がひしめき合っている。

 甲殻がぶつかり合い不快な音を奏でている、その不快な音の中に私は押し込められたようだ。

 何とかここから脱出したい私は、カサカサと音の鳴る方に首を向ける。

 すると、その虫共の狂騒が一瞬止んだ。

 私は、その空気の名を知っている。

 警戒、恐れ、言い方は何でもいいが、どうやら私はこの場のすべてを敵に回してしまったようだ。 

 

 そして、この狭い空間で殺し合いが始まった。


 まず、尾の長い虫が私に襲い掛かってきた。

 長い尾を使って、私を突き殺そうとしてきたのだ。

 でも、単体で襲い掛かってきたから対処は容易にできた。

 まず、突き出された尾を咥えこみ逃がさないようにする。

 当然だが尾の長い虫は逃げようとするが、返しのついた私の牙は暴れる程にその牙を尾に食い込ませていく。

 そして私は、牙を通してこの者の中に毒を入れる。

 数秒、激しくのたうち回ったが直ぐにその虫は動かなくなった。

 その光景を皮切りに、虫共が一斉に私に襲い掛かってきた。

 地を這うもの狭小(きょうしょう)の中を飛ぶものなど、皆一様でなないが目的ははっきりっしている。


 皆、死にたくはないのだ。


 生き残るために、私に牙を向けるのだ。

 だが、それは私とて同じだ。

 だから、向かってくるのならそれをことごとく迎え撃とう。


 それからの光景は、地獄だった。


 虫を潰す音。


 虫を食す音。


 毒が滴り、水面が波紋を作る音。

 色々な不快音が、狭い空間に木霊す。


 一刻も早くこの不快音を消したくて、私は暴れた。

 暴れて何かを踏みつぶし、(からだ)を噛まれ抉られ肉の裂ける音が鳴る。

 その不毛な闘争を数刻と続けるうちに、不意に不快だった音が止んだ。


 どうやら、生きているのは私だけになった様だ。 


 殺したかったわけじゃない、私とて死にたくなかっただけだ。

 辺りを見渡せば夥しい死骸があり、よく見れば色鮮やかな蛙や羽の生えた虫までいた。 


 皆、生きたかっただろうに。


 何故、私達がこんな不条理な目に合わなければならないのか。

 私は、その答えが知りたい。


 一体、私達を閉じ込めて何がしたかったのだ。

 あの無貌は、何をさせたかったのだ?


 答えを求めて思考を巡らすが、答えが出るはずもない。

 ならば、私達は誰を恨めばいい?

 誰に、私の牙を突き立てればいい?


 答えは簡単だ。


 あの、無貌の者に突き立てればいいのだ。

 私が生き残ったことを、後悔するといい。

 見ておれ、私の執念は恐ろしいぞ。

 怨嗟を宿した邪悪な笑みで決意し、赤カガチの目を閉ざされた天に向ける。

 

 その瞬間、視界が揺らぐ。


 それは、蜃気楼のように目の前を泳いでいる。

 次第に躰を起こしていられなくなっていく。

 何が起きているのか、理解できない。

 躰が言う事を聞かない、躰の中が燃えるように熱い。

 私に手が生えていたならば、この躰を掻きむしっていただろう。


 私が、何をしたというのだ?

 分からない――でも、分かっている事は私はいずれこの虫共と共に眠るという事だ。

 次第に呼吸が浅くなっていく、揺らぐ視界が次第に黒くなっていく。

 

 口惜しい、私はここまでなのか?


 もう目を開けてられず、浅い呼吸のまま目を閉じる。

 すると頭上の天が開き、声が聞こえた。

 心なしか、やや弾んだ声で。


「今回は、蛇蠱(だこ)であるか」


 そう、聞こえた。

 その言葉の意味は分からぬし、私の牙を貴様に突き立てることは出来ない。 

 ならば、私は貴様を呪う。

 ここにいた、すべての者を代弁して言おう。


 貴様の生に。







 呪いあれ。




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― 新着の感想 ―
蠱毒ネタには食いつかずにはいられません。 ホラー好きなら、なぜかみんな知っていますが、どこでその知識を得たのか興味があります。 僕の場合、諸星大二郎の『諸怪志異2』に収録された『巫蠱』が初見だったよう…
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