コドクに至る
無貌、それが私が最後に見た情景だ。
私は、とある事情でここに閉じ込められたモノである。
ここが何処で、なぜ私が連れて来られたかも分からない。
だが、どうやらここに連れて来られたのは私だけではなかったようだ。
真っ暗な場所だが、私には何がいるのか正確に分かる。
虫だ。
私の周辺には、夥しいほどの昆虫がひしめき合っている。
甲殻がぶつかり合い不快な音を奏でている、その不快な音の中に私は押し込められたようだ。
何とかここから脱出したい私は、カサカサと音の鳴る方に首を向ける。
すると、その虫共の狂騒が一瞬止んだ。
私は、その空気の名を知っている。
警戒、恐れ、言い方は何でもいいが、どうやら私はこの場のすべてを敵に回してしまったようだ。
そして、この狭い空間で殺し合いが始まった。
まず、尾の長い虫が私に襲い掛かってきた。
長い尾を使って、私を突き殺そうとしてきたのだ。
でも、単体で襲い掛かってきたから対処は容易にできた。
まず、突き出された尾を咥えこみ逃がさないようにする。
当然だが尾の長い虫は逃げようとするが、返しのついた私の牙は暴れる程にその牙を尾に食い込ませていく。
そして私は、牙を通してこの者の中に毒を入れる。
数秒、激しくのたうち回ったが直ぐにその虫は動かなくなった。
その光景を皮切りに、虫共が一斉に私に襲い掛かってきた。
地を這うもの狭小の中を飛ぶものなど、皆一様でなないが目的ははっきりっしている。
皆、死にたくはないのだ。
生き残るために、私に牙を向けるのだ。
だが、それは私とて同じだ。
だから、向かってくるのならそれをことごとく迎え撃とう。
それからの光景は、地獄だった。
虫を潰す音。
虫を食す音。
毒が滴り、水面が波紋を作る音。
色々な不快音が、狭い空間に木霊す。
一刻も早くこの不快音を消したくて、私は暴れた。
暴れて何かを踏みつぶし、躰を噛まれ抉られ肉の裂ける音が鳴る。
その不毛な闘争を数刻と続けるうちに、不意に不快だった音が止んだ。
どうやら、生きているのは私だけになった様だ。
殺したかったわけじゃない、私とて死にたくなかっただけだ。
辺りを見渡せば夥しい死骸があり、よく見れば色鮮やかな蛙や羽の生えた虫までいた。
皆、生きたかっただろうに。
何故、私達がこんな不条理な目に合わなければならないのか。
私は、その答えが知りたい。
一体、私達を閉じ込めて何がしたかったのだ。
あの無貌は、何をさせたかったのだ?
答えを求めて思考を巡らすが、答えが出るはずもない。
ならば、私達は誰を恨めばいい?
誰に、私の牙を突き立てればいい?
答えは簡単だ。
あの、無貌の者に突き立てればいいのだ。
私が生き残ったことを、後悔するといい。
見ておれ、私の執念は恐ろしいぞ。
怨嗟を宿した邪悪な笑みで決意し、赤カガチの目を閉ざされた天に向ける。
その瞬間、視界が揺らぐ。
それは、蜃気楼のように目の前を泳いでいる。
次第に躰を起こしていられなくなっていく。
何が起きているのか、理解できない。
躰が言う事を聞かない、躰の中が燃えるように熱い。
私に手が生えていたならば、この躰を掻きむしっていただろう。
私が、何をしたというのだ?
分からない――でも、分かっている事は私はいずれこの虫共と共に眠るという事だ。
次第に呼吸が浅くなっていく、揺らぐ視界が次第に黒くなっていく。
口惜しい、私はここまでなのか?
もう目を開けてられず、浅い呼吸のまま目を閉じる。
すると頭上の天が開き、声が聞こえた。
心なしか、やや弾んだ声で。
「今回は、蛇蠱であるか」
そう、聞こえた。
その言葉の意味は分からぬし、私の牙を貴様に突き立てることは出来ない。
ならば、私は貴様を呪う。
ここにいた、すべての者を代弁して言おう。
貴様の生に。
呪いあれ。




