現実ファンタジー
その世界には魔法があり、モンスターがいた。 そして俺は「ゴブリン」と呼ばれていた。
だが、水溜りに映る俺の姿は、どこからどう見てもただの人間だった。頬がこけ、垢にまみれ、肋骨が浮き出ただけの、痩せっぽちの乞食の子供。それが俺の物理的な実体だった。 それでも、街の人間は俺を見ると「忌々しい小鬼め」と唾を吐いた。言葉という名の魔法が、俺という人間を「モンスター」へと書き換えていた。
俺の目には、この世界の「ファンタジー」なんて一秒たりとも映らなかった。 高い城壁の向こうで優雅に暮らす「エルフ」たちは、ただの贅肉のついた傲慢な貴族だった。地下で不眠不休で働く「ドワーフ」たちは、煤にまみれて背中が曲がっただけの労働者だった。 俺たちを殺しに来る「オーク」と呼ばれた連中は、食い詰めて武器を取った隣国の盗賊の群れに過ぎなかった。
この世界で最も恐ろしいとされる「ドラゴン」もそうだ。 家々をなぎ倒し、すべてを奪い去るその怪物の正体は、ただの巨大な「竜巻」や、熱を奪い尽くす「吹雪」という気象現象だった。 だが、教会の賢者たちはそれを「魔竜の怒り」と呼び、祈りを捧げれば収まると詠唱を吐いた。そして「祈りが通じないのは、街にゴブリンが潜んでいるからだ」と結論づけ、俺たち乞食を広場に引きずり出した。
「聖なる光よ、穢れし悪を焼き払え!」
騎士が剣を振り上げる。彼が言う「聖なる魔法」の正体は、太陽の光を反射するように磨かれた、よく切れるただの鉄塊だ。 俺は縛り付けられた杭の上で、その鉄塊の質量を計算していた。振り下ろされる速度、角度、そして俺の首の骨が耐えられる限界値。
「……おい、魔法なんてどこにあるんだよ」
俺は、熱狂する群衆を見つめて笑った。 「エルフ(貴族)が飯を食うために、ドワーフ(労働者)をこき使い、ドラゴン(災害)の責任を俺たちゴブリン(乞食)に押し付けてるだけだろ。お前らが唱えてる『正義』って魔法、ただの『なすりつけ』って名前に変えたらどうだ?」
その瞬間、騎士の顔が怒りでドス黒く歪んだ。 それは英雄の顔でも、聖騎士の顔でもなかった。 ただの、嘘を指摘されて逆上した、醜い「人間」の顔だった。
一度だけ、希望が見えた気がした。 国境を越えて悪魔の軍勢が攻めてきた時だ。だが俺からすれば彼らも普通の人間だった。しかも彼らはこの国の王を「偽善者」と呼び、虐げられた俺たちを解放すると叫んでいた。だが、いざ彼らが俺を拾い上げると、その目はすぐに冷え切った。「なんだ、ただのゴブリンか」 彼らにとっても、俺は人間ではなかった。自分たちの侵略を「解放」という名の魔法(詠唱)で飾るための、都合のいい捨て駒に過ぎなかった。
結局、俺は捕らえられ、王の前の広場へ引きずり出された。 明日の処刑を前にした、王の「余興」としての対面だ。
豪華な椅子に座り、宝石を散りばめた「エルフ」の王が、俺を見下ろしている。 俺は最後に、喉の奥に溜まった血混じりの唾を飲み込んで、ずっと聞きたかったことを聞いた。
「……王様よ。あんたには、俺が本当にゴブリンに見えるのか? 骨があって、赤い血が流れてて、あんたと同じ言葉を喋る、ただの人間だってことくらい、わかってるはずだ。なのになぜ、同じ人間をこうも簡単に殺せるんだ?」
王は退屈そうに頬杖をつき、ふっと小さく笑った。その目は驚くほど冷めていて、俺と同じように「この世のカラクリ」をすべて知っている者の目だった。
「魔法を知っているか? 教えてやろう。……お前が人間だということくらい、そんなことはこの国の誰だって知っているさ」
王は身を乗り出し、俺だけに聞こえる低い声で呟いた。
「だが、俺が『お前はゴブリンだ』と言えば、この国の国民は全員、お前をゴブリンだと思い込む。俺が『あの国は悪魔だ』と言えば、彼らは愛する家族を捨てて喜んで殺し合いに行く。……これが、この世で最も美しく、最も残酷な『魔法』の正体だ」
王の背後で、民衆が「ゴブリンを殺せ!」と叫んでいる。 彼らの瞳には、俺という「人間」は映っていない。王がかけた言葉の魔法に酔いしれ、自分たちの生活の不安や不満を、目の前の「小鬼」にぶつける快感に震えているだけだ。
「お前が人間であるという物理的な事実など、私の詠唱一つで消えてなくなる。それが『国家』という名のファンタジーだ。……さて、余興は終わりだ。明日、お前には『ゴブリン』として死んでもらう」
翌朝、俺の首に冷たい鉄の刃が触れた。 最後まで俺の名前を呼ぶ者は誰もいなかった。 空はどこまでも青く、物理法則に従って太陽が昇っていく。
振り下ろされる刃の速度を感じながら、俺は思った。 ああ、本当に、嫌なファンタジーだったな。
だいたい、かいてGeminiに面白くしてと書いて、それからアイデア言ったの書いてもらい少し直したものです。すいません。




