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創世戦隊マナレンジャー ~スーツアクター、異世界を救う~  作者: 雪玉 円記
第7話 護、創造主と対話する。
92/124

scene.5 ※

 ヒトガタは避けもしなかった。ただ、飛ばされ切り刻まれ、べちゃべちゃと地面に落ちていく。

「はぁ……、はぁ……はぁ……」

 荒い呼吸をしながら、ヒトガタの様子をうかがう騎士。その目からは血の涙を流していた。ヒトガタへの絶叫の裏に隠れた慟哭のように。

『……ゲ、ヒャヒャ、』

「……っ!?」

『ギヒヒヒャヒャハハヤヒャハヒアヒャハヒャハイハヒアヒャヒアヒャヒアハハハハヤハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 脳に直接針を刺したような、そんな狂った嗤いが空気を揺らす。

 汚泥のようなヒトガタの破片ひとつひとつから、死すら感じさせる瘴気の靄が立ち上った。

 一体となりゆく瘴気をなんとかしようと、騎士が足を動かそうとしたとき。

「アルディス……! やめなさい……! これ以上の浄化は、私でも、……ゴホッ!」

 騎士を呼びとめた、男性魔法師。ビシャと赤黒い血を吐き、とうとう膝を地についた。

「兄上? ……リシアーナっ!?」

 騎士は振り返って、ようやく魔法師2人の現状を知った。重い足をそちらの方に動かし、2人の前に跪いて様子をみる。

 その間にも瘴気の魔人と化したヒトガタは、肥大を続けていく。親にぞんざいに押しつけられた、ただの記号でしかない名前のかたちに。

『イヒャハヒャハヤヒャハハハハヒャハヒヒヒイイヒヒヒャハヒヒャ』

 最早、魔人が吐いているのは人が理解できる言葉ではない。ただの呪いだ。

 騎士は拳を握りしめる。ぎりりと奥歯を噛みしめるその顔は、普段の清廉とした雰囲気をまったく感じさせない。

「あのようなモノに……マモル殿は……!」

 そう呟き、騎士は兄と呼んだ魔法師の前から立ち上がる。

 こふ、と鮮血を吐きながらも騎士は、際限なく肥大する竜の形の魔人へと歩みだす。途切れ途切れに呼ぶ背後からの言葉に耳を貸さずに。

 だが。

「ふぅむ」

 突如割って入った声に、その場の全員――魔人ですらも、そちらを見た。

 死の黒靄の中であっても姿がはっきりと見える、その存在。

 王の甲冑と戦外套を身につけ、その背後に黒いフードの魔導師を従える彼は。

「……へい、か……?」

 戦場に現れたその者は、騎士や魔法師の仕える王であるのだ。



***************



「ちょっと待ったァッ!!」

 ばんばんと俺はテーブルの板面を、カップを割らなかった方の手でぶったたく。某バラエティ番組の、VTRを止めてツッコミを入れたいときに押すボタンのように。

 あ、カップをブチ割った方の手、いつの間にか治ってら。いつ誰が治してくれたんだ? まあいい。

 創造主は俺の意図を汲んでくれたのか、映像を止めてくれた。……その結果、ドヤ顔で現れたハイルズ王がずっとカーテンに映り続けてるけど、まあそれはもういい。それは問題じゃないんだよ。いや問題なのかもしれないけど。

「他の人は瘴気の靄に紛れてるのに、なんで王様だけくっきりはっきり見えてるんだ……?」

 そう疑問を口にする。きっとこの人を目にしたなら誰もが思うことだろう。

 創造主は、躊躇いつつも俺の疑問に明確な回答を口にはしなかった。


 〝……その疑問の答えも、見たら分かるよ〟


 そう言って、また映像を再生させる。




 血を吐きその場にへたり込んでしまった騎士を一瞥し、王は魔人へと歩いていく。

 その顔に狂気を湛えて。

「素晴らしい! 恨みと怒りとを肥大させ凝縮し、己が魂をも瘴気と変えた、よき塊よ」

「……は?」

 朗々と歌い上げるように言う王に、騎士は呆然としてしまった。

 信じられないという目を、騎士、かろうじて意識を保っていた女性魔法師、なんとか立ち上がり同盟者を助けた魔族たちが向ける。

 が、そこで長髪の魔族の男が息を飲んだ。

「まさか……!」

 周囲の動揺をまったく気にもせず、王は悠々と歩いていく。それに気付いた魔人が、首をぐんにゃりと屈めた。

『オォォイィィィ。テェェェメェェェェェノォォォォォ、イウトォォォリニィィィ、シタゾォォォォォ』

「ふむ。そうか。良くやってくれた、キングドラゴンよ」

 彼らのたった一往復のやりとり。その内容を察したとき、騎士の全身にまた怒りが巡り始める。

「……まさか……まさか……!!」

 ギリギリと歯を食いしばる騎士。その背後では、男性魔法師が恐ろしい眼光で王を睨み据えていた。

 しかし王は、竜の魔人以外の存在全てを無いものとしているかのように喋り始める。

「ふむ。では次は私の願いを聞いてもらおうか。異世界よりの」

 ニィィィ、と王の口元が歪む。

「我が餌よ」

 は? と、魔人と騎士らの声が重なり、同時に。

 ブジュンッ、と王が右腕を深く魔人に突き立てた。

「面白い!」

「応援するよ!」

「続きが読みたい!」


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